小説『ドラゴンクエスト? 〜天空の花嫁〜 《第一部》』
作者:wanari()

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 サンタローズの村を出て、一路東へ。
 やがてアランたちは大陸を縦断する大きな河に行き着いた。この河を境にして対岸がラインハット国領である。時折見事な帆船が下流へと下っていくのが見えた。
 船が通るほどだから水深もかなりのものだろう。だが、近くに河を渡るための船や船着き場の類は見当たらない。一体どうやって渡るのだろうと思っていると、パパスはある建物に向かって歩き始めた。
 河沿いに建設された、強固な門構えの一軒家である。父の話だと、関所として兵士の詰所となっているとのことだった。
 驚いたのは、建物の外だけでなく中にも重厚な門が設置してあることだった。石畳の上を歩くと、すぐ門番に声をかけられた。
「止まれ。ここはラインハットに続く関所である。まずは名乗られよ」
 硬い口調にアランが姿勢を正す。その肩に手を置き、パパスは堂々と告げた。
「失礼。私はサンタローズのパパスと申す。こちらは我が息子のアラン。陛下直々のお呼びを頂戴し、これからラインハット城へ向かうところである」
「おお、貴方がパパス殿。失礼いたしました。お話は伺っております。さあ、どうぞお通りください」
 表情を和らげ、門番は快く門戸を開いた。口調と態度の変わりようにアランは困惑した。門番の横を通りすぎるとき、小さく手を振られたことにさらに驚く。
 パパスは「真面目だが、どうやら中身は気の良い男らしいな」と言った。そういうものなのかとアランは思った。
 関所内の扉を過ぎると、地下に降りる巨大な階段が現れた。丁寧に磨かれた石が規則正しく積み重なっていて、それを見たアランはレヌール城の内部を思い出した。地下通路の中心は旅人の足跡で幾重にも汚れが染みついている。よく見ると馬車らしき轍まであった。
「この通路は河の下を掘って作られている。ラインハットの技術と知恵の賜物だ」
「馬車まで通るの?」
「うむ。ラインハットへ渡る陸路の要だからな。商隊も多くここを利用する。馬車が通るときは先ほどの階段に専用の板をかぶせるのだ」
「へぇ……」
「いつもは旅人などで賑わっているのだが、今日は珍しく閑散としているな」
 パパスの言葉通り、広い通路を歩くのは今のところパパスとアラン(とチロル)だけである。足音に混じり、かすかに水音が聞こえる。時折感じる振動は、船が真上を通っているからだろうか。
 出口が見えてきた。ラインハット側の出入り口は警備が薄く、地上へ上がる階段の前に小さな小屋があるのみだ。
 警備をしていた兵士に会釈をし、階段を上る。途端に眩しい陽光が目に入ってきた。
 階段を上りきってすぐ、人影に気づく。パパスが見上げると、一人の老人が出入り口の縁に腰掛けて背中を向けていた。どうやら河を眺めているようだ。微動だにせず、背中からは哀愁すら漂っている。
 パパスが声をかけた。
「もし、ご老人。どうかなされたか」
「ほっといてくだされ。じっと考えておるのじゃから。この河の流れを見据えながら、国の行く末を、な」
 にべもない答えが返ってきた。こちらを振り向きもしない老人に、パパスは「ふむ……」と小さく漏らす。
「この陽気とは言え、あまり河の風に当たりすぎていてはお身体に障りますぞ。どうかご自愛くだされ。では、私はこれにて失礼つかまつる」
 親切で忠告したのだろうし、老人の邪魔をしては悪いとも思ったのだろう。
 パパスはそのまま、『元来た道を引き返していった』。
 堂々とした態度で階段を『降りていく』父の姿に、アランは置いてけぼりをくらって立ち尽くす。思わず言った。
「……お父さん? どこ行くの?」
「!」
 自分のしていることに気づいたパパスは急いで駆け戻ってくる。呆然とするアランの前でひとつ咳払いをして、何事もなかったかのように歩き出した。
「お父さん……」
「さて、これで関所は越えた。ラインハットまでもう一踏ん張りだな」
「お父さん、もしかしてさっきのは、わざとじゃなかったの?」
「……………………むう」
 頭を掻くパパス。
 しばらく意味も無い咳を繰り返しながら先へと進む父の姿に、アランは思わず吹き出してしまった。父の思わぬ一面を見た気がした。
 やっぱり、お父さんとの旅は楽しい――
 笑みを浮かべ、アランは心からそう思った。

 ラインハット城とその城下町が見えてきたのは、それから数日後のことである。

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交響組曲「ドラゴンクエストV」天空の花嫁
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