小説『ドラゴンクエスト? 〜天空の花嫁〜 《第一部》』
作者:wanari()

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「交流できたか?」
 ラインハット城への道すがら、ふとパパスが尋ねてきた。かたわらで父の大きな手を握りながらアランはうなずく。
「とっても楽しかったよ。フローラは物知りでおだやかな子だったし、デボラは面白いことたくさん知ってた。まあ、それで困ったこともあったけど……」
「そうか。さすがはルドマン殿のご息女だな」
 サラボナという街で別荘付きの大きな住居を構えるルドマンは、同時に世界を股にかける豪商だとパパスは話した。彼の知見や四方山話は、パパスにとっても大いに益になることだったらしい。
「アラン。お前にはこれまで友人を作る機会をなかなか与えてやれなかった。今度の出逢いは何かしらの縁があってのことだろう。ここでの仕事がどれほどのものになるかはわからんが、折を見てまた彼らのもとを尋ねてみるとしよう。しばらく滞在されるそうだからな」
「うん。そうだね」
 チロルが「ふぐるぅぅ……」と複雑そうに鳴いた。フローラに逢うのは嬉しいが、デボラに逢うのは勘弁したいらしい。アランは彼女の頭を撫でた。
 今日も相変わらずの人通りの中、目抜き通りを歩く。
 やがて大きく深い水堀に囲まれたラインハット城が眼前に広がり、これもまた巨大な架け桟橋が見えてきた。上質な樹を何本も使ったのだろう。時が経っても、またどれほど重いものをその上に通そうとも、桟橋は少しも歪むことなく整然とした姿を見せていた。由緒ある城はその入り口にまで雰囲気が染みこんでいるのだなと思う。
 桟橋の上を歩くと、板の隙間から堀の水が見えた。結構深い。小型の船なら十分通りそうなほどだった。
 第一の表城門は開け放たれている。「ふわー」と感嘆の声を上げてその偉容を見つめつつ、先に進む。第一と第二城門の間には回廊があり、城に出入りする商人たちはここから決められた場所へと物品を運んでいた。
 パパスとアランは回廊へ向かわず、まっすぐ正面の第二城門に向かう。門扉は固く閉ざされ、両脇に兵士が控えている。
 パパスの姿に気づいた兵士が近づき、手にした槍で進路を塞いだ。
「待て。ここは一般の者は立ち入り禁止である。何用だ」
「我が名はパパスと申す。国王陛下の御招請を賜り、参上つかまつった。すでに城下にてご連絡を差し上げているところ、確認してもらえないだろうか」
「パパス……おお、あなたが。これは大変失礼いたしました。確かに、お話伺っております。私がご案内いたしますので、どうぞこちらへ。……おい」
 応対した兵士が声をかけると、残ったひとりが城門を開けた。「さあどうぞ」と先頭に立って歩き始める兵士に、パパスは少し遠慮がちに声をかけた。
「いや、場所さえ教えていただければ、こちらから参るのだが」
「何をおっしゃいます。陛下直々にお声を賜った方に対し、そのような失礼はできません」
 ぴしゃりと言われ、パパスは「むう」とうなった。大人しくついていく。アランも慌てて後を追った。
 城内に入ってまず驚いたのは、足元だ。
「うわっ?」
 素っ頓狂な声を上げ、アランはうろたえる。
 城内の廊下に敷かれた絨毯は、毛がとても深く、まるで雲の上を歩いているような錯覚を抱いたからだ。レヌール城で似たような絨毯の上を歩いたことがあるが、あれよりもさらに上質だ。
 歩きにくそうにするチロルを胸に抱える。今度は辺りを見回してみた。
 壁と天井の継ぎ目や、柱の縁に金色の装飾が施されている。外から取り入れた陽光に反射して、廊下は荘厳な雰囲気に包まれている。
 ふと、あるものが目に留まった。壁に掛けられた世界地図である。無意識に地図の前まで吸い寄せられた。
 口を半開きにしたまま世界地図に目を奪われていると、後ろからパパスの指が地図を指してきた。
「ここがラインハットだ」
 地図の北東、大きな大陸の中心部分を示す。それからパパスの指は南西へと滑っていく。
「ここが我らが渡ってきた関所……ここがサンタローズ……アルカパ……南にあるのがビスタ港だな。そして」
 すいっ、と一気に大海を越えて別大陸の西の外れを指す。
「ここがサラボナだ。ルドマン殿やフローラ嬢、デボラ嬢が住んでいる街だ」
「遠いんだね」
「うむ。私もまだ足を運んだことがない。これだけの旅程となると、ルドマン殿のご息女らには大変な苦労があっただろうな」
 そうなんだ、とアランはしみじみうなずいた。自らがこれまで辿ってきた旅路を思い出す。
 親子の様子を微笑ましそうに見つめていた兵士が、「そろそろよろしいですかな?」と声をかけてきた。アランは最後に一度だけ地図を振り返り、パパスたちの背中を追った。

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