小説『ドラゴンクエスト? 〜天空の花嫁〜 《第一部》』
作者:wanari()

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「あー、緊張した……」
 階段を一気に降りて、アランは大きく息をついた。足元で毛繕いを始めるチロルと、相変わらずの広さを誇る広間とを順に見て、どうしたものかと思案する。
「とりあえず、いろいろ回ってみようかな」
 これまで辿ってきた道を思い出しながら、アランは歩き出した。
 するとすぐに、数人の男女が見えてきた。みなアランとそう変わらない年頃の子どもたちである。身なりは様々だ。何だろうなと思って近づいてみると、こちらに気づいた女の子が走り寄ってきた。
 むんず、と腕を掴まれる。
「ほら、あなたもなんでしょう。急いで入るのよ!」
「え!? なに? え!?」
 訳がわからぬまま集団の中に引きずり込まれる。女の子を始め、皆アランには見向きもしない。ただ一点、目の前の扉を見つめるのみである。
「いいかい、君たち」
 扉を守っていた兵士が告げた。どうやらかなり身分の高い人の居室のようだった。先ほどの女の子がうなずく。彼女は呼びかけた。
「いい? みんな。ヘンリー様はいたずらばっかりで嫌だったけど、終わってしまえばどうってことはないわ。でも、これからお会いするデール様は違うわよ」
「おう。王妃様が見てるからな……」
「よし。じゃ、行くわよ」
 扉が開かれる。いまだに何のことかつかめず、しかし彼女らの雰囲気にただならぬものを感じ取ったアランは、何も言えずに少年少女の雪崩に巻き込まれた。
 部屋に入るとすぐにいい匂いが鼻に届く。目にも眩しい内装の数々は、国王の玉座回りよりも手が込んでいるのではないかと思えた。
 室内には二人の人物がいた。
「おや。子どもたちが遊びに来てくれたようね」
「ごきげんよう、王妃様」
 アランをしょっ引いた女の子が優雅に一礼する。そのやり取りを聞いて、アランはますます目を丸くした。
 随所に宝石をあしらった純白のドレスを身に纏った女性が部屋の中央に立っている。元々細身なのだろうが、着ているものがあまりに豪華で量感があるため、ずっしりとした威厳が漂っている。編み物のように結われた髪が光沢を放ち、手に持った扇子で口元を隠している。
「ほら、デールや。この子たちと遊んできなさい」
 王妃が声を掛ける。口調は優しいが、アランはどうしても、彼女の視線の強さが気になっていた。
 寝台の上にもうひとりの人物がいる。こちらはアランと同い年か、少し下くらいの男の子だ。肌触りの良さそうな、空の蒼のように綺麗に染められた服を着ている。アランが身に付けているぼろぼろの青いマントとは雲泥の差だ。
「今日も方々から身分違いの子を呼んでいます。いずれ王になるあなたにとっても、彼らとの交流は有効のはず。さ、行きなさい」
「……ごめんなさい」
 少年は虫の鳴くような細い声でつぶやいた。決して王妃やアランたちと目を合わそうとしない。
 すると王妃は鋭くこちらを睨みつけた。何か悪いことをしたのかとアランは戦々恐々とする。周囲の子たちは視線の意味を理解しているのか、即座にデールの元に駆け寄った。
「ほらデール様。外は良いお天気ですよ。お散歩をしましょう」
「街でいろんな面白いことがあったんですよ!」
「……」
 居たたまれなさそうに縮こまるデールに、子どもたちは執拗に勧誘を仕掛けた。しかし王妃の一言でぴたりと止まる。
「もうよい。下がりなさい」
「い、いえ。ですが」
「下がれと言っている」
 ぱしん、と扇子が音を立てた。あの強引な女の子でさえ顔を真っ青にして、しかし何も口には出来ず、彼らはすごすごと退散していった。
 何が起こったか理解できないアランは、部屋に取り残されてしまう。
「え、えっと……」
 王妃の訝しげな視線が突き刺ささった。
 デールは悲しそうに子どもたちが出て行った扉を見つめていた。その表情に感じるものがあったアランは、これだけは話しておこうとデールに近づく。
「あの……こんにちは。僕はアランっていうんだ。この子はチロル」
「……?」
「あのね。さっきの子たち、僕はよく知らないんだけど……とても必死だったよ? みんなと遊ぶの、あんまり嬉しくないの?」
 デールは強く首を横に振った。
「そんなこと、ない」
「そっか。うん、良かった。安心したよ」
 少しだけ不思議そうに、デールは首を傾げる。アランは笑った。
「みんなと遊びたい、仲良くなりたいって気持ちがあれば、きっとだいじょうぶだよ。仲良くなれるよ、ぜったい」
「でも、ぼくは王子なんだ。ぼくが王子だから、次のおうさまになるから、みんなは……でも、ぼく……」
「デールや。弱気になってはいけません」
 王妃が口を挟む。
「あなたは必ず王になる。この私がついているのですから。だからあなたは何の心配もせず、この母の言葉に耳を傾け、任せればよいのです」
「はい……お母様」
 悄然と俯くデールに、アランはこれ以上かけるべき言葉が見付からなかった。王妃の視線もあり、アランは後ろ髪を引かれる思いで踵を返す。
 扉に手をかけたとき、彼は振り返り努めて満面の笑みを浮かべた。
「僕で良かったら、友達になろうよ。ゆっくりでいいからさ、気が向いたら、声をかけてね」
「……あ」
「待ってるからね。きっと、みんなもさ」
 これ以上、言葉が思いつかない。
 少しだけ悔しさを内心に抱えて、アランは部屋を後にした。

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