小説『ドラゴンクエスト? 〜天空の花嫁〜 《第一部》』
作者:wanari()

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 内心のもやもやを払拭するためにも、アランは足を動かすことにした。
 さすがラインハットの城だけあって、外観通り中も広い。しかも入り組んでいる。
 辺りをきょろきょろと見回しながら歩いていると、一際騒がしい場所に行き着いた。どうやら城内に詰める兵士たちの休憩所のようだった。警備の合間のひとときを、飲み物や軽食片手に談笑して過ごしている。
「お。坊主、見かけない顔だな。新入りか?」
 物珍しさで中を歩いていると、屈強な男に話しかけられた。少しだけ酒の匂いがして、アランはわずかに顔をしかめる。
「新入りって?」
「なんだ、違うのか? ヘンリー様とデール様の遊び相手を務める子どものことだよ。最近は特に入れ替わりが激しいって言うじゃないか。坊主もその一人なのかと思ってよ」
「そう、聞いてくれよ!」
 突然、近くのテーブルにいた男が声を張り上げた。手には酒の入った器を持ち、顔はすっかりできあがっている。向かいの席に座る男がたしなめた。
「おい、いくら非番だからって飲み過ぎだぞ。俺たちは栄えあるラインハット兵なんだ。少しは自重しろよ」
「いや、だから聞けって。ヘンリー様ってばひどいんだぜ? 俺が蛙大嫌いなの知ってて襟から蛙を入れるんだ。それも何匹も。あれは生きた心地がしなかった!」
「お前、その程度で……」
「その程度って何だよその程度って! 実際にあの方のイタズラを受けてみろ! ひっくり返って夜も眠れなくなるぞ!」
「そりゃ貴様が要領悪くて鈍くさいせいだ」
 アランに話しかけた男が酔っ払いをこづく。「わかってるよぉ、俺だってよぉ」とぶつぶつこぼしはじめた同僚を無視し、男はアランに向き直る。
「ま、この馬鹿は置いておくとして、実際、ヘンリー様のいたずらは俺たち城詰めの兵も手を焼いていてな。単に俺らが驚くだけならまだしも、来賓の方にまでちょっかい出すのは少々いただけねぇ。お前ももしヘンリー様の遊び相手になるなら、ちょっと覚悟しておいた方がいいぜ?」
「はーい、兵士さんたち。お待ちかねの食事だよ。酔っ払いはさっさと水呑んで酔い覚ましてきな!」
 入り口からよく通る声が上がり、台車を引いた大柄な女性が入ってきた。あちこちから歓声が上がる中、女性はアランたちに顔を向けた。どうやら話が聞こえていたようだ。
「まったく、小さな子に何絡んでいるんだい」
「ああ、すまんなおばちゃん。つい愚痴ってしまった」
「あんたも酔ってんだろ? 少し涼んで、落ち着くんだよ。じゃないと任務にさしさわりがあるからね」
「りょーかい」
 男は素直に立ち去った。アランがぽかんとしていると、女性は腰に手を当てたまま、独り言のようにつぶやいた。
「……ま、あいつらはヘンリー様のいたずらがひどいって嘆いているけど、あたしゃそうは思わないがね」
「どうして?」
 アランが聞くと、女性は苦笑した。哀れんでいるようにも見えた。
「ヘンリー様は早くにお母様を亡くされているからね。陛下は次の王妃様を迎えられたけど、やっぱり本当の母親じゃないし、しかもその王妃様がごひいきにされるのは弟のデール様ばかりとなれば、そりゃひねくれたくもなるさね」
「ふぅーん……」
「ところであんた、さっきデール様のお部屋にいなかったかい?」
 ずばりと言い当てられ、アランはうろたえた。ぽん、と肩を叩かれる。
「うちの厨房にもあんたと同じくらいの女の子がいるんだけどね、その子が帰って来るなり、『もしかしたら関係ない子まで巻き込んじゃったかも』とか言い出すもんだから、ちょっと心配してたんだよ」
 合点がいった。あの強引な少女の関係者だったのだ。アランは言う。
「気にしないでって、伝えておいて」
「はは。あんたいい子だね。わかった。そう言っておくよ。あの子も安心するだろ。……そうだ。もしヘンリー様に会うことがあったら、よくお話を聞いて差し上げてくれ。あの方に必要なのは、やっぱり側にいてくれる誰かだと思うんだよ。あんたなら大丈夫そうだ」
「う、うん。やってみる」
「頼んだよ」
 そう言うと女性は残った食事を配りに歩き去った。
 休憩所には歓声と笑い声に混じって、こんな声が聞こえてきた。
「ヘンリー様とデール様、次の王になられるのはどちらだろうなぁ」

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