小説『カゲロウデイズ』
作者:hj()

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三章

8月14日、午前12時過ぎころ。
眼を覚ますと、時計がベットの上で鳴り響いていた。
五月蝿いのは時計だけではないようで、蝉の声も煩く鳴いていた。
(夢か………)
頬を何かが滴るのがわかった。
(………嫌な夢だな)
とりあえず、カーテンを思いっきり開く。
太陽の日差しが、容赦なく降り注ぐ。と同時に何か嫌なものが頭の中を横切
った。

___嘘じゃないぞ

後ろに振り返る。
当たり前のように、そこには何もなかった。
「………夢………だよな」
額に嫌な汗が滲む。
その日は、布団をかぶり半日寝て過ごすことにした。

  ☆

次の日。
8月15日の午後12時半くらいのこと。
夢で見たのと同じような光景が広がっていた。
「夏って言ったらさ、やっぱり海とか山なのかな」
夢と同じような会話をしてみる。
彼女は猫のお腹を撫でながら、平然とした態度で答える。
「どうなんだろうね。夏って言ったらアイスとかカキ氷くらいしか思いつか
ないけど」
夢と同じ答えが返ってくる。
「それを言ったら夏祭りが思いつくな」
「夏祭りって言ったら、焼きそばとかたこ焼きも思い浮かぶなあ」
今のところはまったく一致していた。
「でもまあ、夏は嫌いかな」
「………そうだな」
だんだんと、不安がこみ上げてくる。
このまま、続ければ彼女はきっと、死んでしまう。
血飛沫を巻き上げながら。香りを漂わせながら。
少し考えてから、切り出す。
「もう今日は帰ろうか」
「え?何で?」
「ちょっと、気分が悪いんだ」
顔を少しゆがめて、覗き込むように見る。
「大丈夫?顔色少し悪そうだけど」
「うん、今日はすぐ帰って寝るよ」
荷物を持って立ち上がり、自宅へと向かう。
「あっ荷物持つよ」
「ううん、大丈夫だから」
ぷうっと頬を膨らまして拗ねる様に目を細める。
やっぱり、この選択は正しかったんだ。あのまま、あの公園にいたら彼女は
きっと………
全身から力を抜いて、ため息をふうっと吐く。
そんな時だった。
ふと、視界を回りに移してみると、周りの人は皆上を見上げ口を開けていた。
何一つ変わらない。最悪の出来事。

「君達!!危ない!!」

そんな声が周りから聞こえたときにはもう遅かった。
激しい音とともに、頬にどろどろとしたものが滴る。
落下してきた鉄柱が彼女を貫いて突き刺さったのだった。
「え………」
何が起こったのか、一瞬理解ができなかった。
………いや、理解したくなかった。
夢とは違うけど、同じ出来事。
劈く悲鳴と風鈴の音は木々の隙間で空回りする。
「………違う………」
違う、これは夢だ。そう思い込もうとしたとき、またあの声が聞こえた。
「夢じゃないぞ」
陽炎のあざ嗤う声だ。
「くっ………お前は………お前は」
言葉にならないほどの何かが一気にこみ上げてきて、爆発した。
「お前は一体何がしたいんだ!!!」
あざ嗤う声は止まらない。
涙が頬を滴り視界がぼやける。
眩む視界に浮かぶ君の横顔が、笑っているような気がした

-3-
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