小説『俺と彼女と精霊演舞』
作者:友笠()

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 ……温かい。

 カーテンから漏れた光が射していたが、それだけじゃない。気づけば誰かが俺の頭をなでていた。

「あ、起きられましたか……?」

 どうやら俺が起きたことに気づいたらしい。その人物は昨日俺が助けた金色の少女だった。……だったのだが……。明らかに一点がおかしい。 

 俺はじっと彼女の体を見据えた。

「……?」

 首をかしげる彼女。自分の姿をなにもおかしいと思っていないらしい。え、なに、この子。どんな生活してきたの、今まで。

「……あ、わかりました」

 よかった。彼女も気づいてくれたらしい。

「あいさつですね」

「そうそう、あいさ――あれ?」

 予想していたのと違う答えに辿り着いているんですけど。

「おはようございます」

「お、おはよう」

 ……いやいや。何、普通に返事しているんだ、俺。

「おかげさまで、元気になりました」

 そう言って深々と彼女は頭を下げる。

「そ、そうか。それは良かった」

 ……いや、だからそうじゃなくて!

「あの……」

「はい」

「どうして……そのような格好なのでしょうか?」

 そう。これがおかしい点。彼女はなぜかエプロン以外を身にまとっていなかったのだ。つまり、彼女は現
在、裸エプロンという上級者装備をしているということだ。

 あ、朝から刺激が強すぎっす……。

 おかげさまで、俺の息子は元気いっぱいだった。

「何か間違っていましたか?」

「むしろ間違いしかないけど!?」

「え!? そんな!?」

 驚いた様子の彼女はどこからか本を取り出して広げる。そこには、どアップで、目の前の少女と同じ服装を
したお姉さんが写っていた。さらに、横に大きな文字で『朝は彼女の裸エプロン姿を見てから始まる』とプリ
ントされていた。

 なるほど。だから彼女は勘違いしたのか――

「――って、ちょっと待て! それって俺のエロ本じゃねえか!?」

「エロ本……ですか? 何ですか、それ?」

「い、良いから! 返してくれ!」

 急いで彼女からそれを取り上げると、ゴミ箱に突っ込む。さらば! 我が相棒よ!

「ああ! 何で捨てるのですか!? あれにはここでの知識がいっぱい書かれていたのに!」

「そんな知識覚えなくて良いわ!」

 うう〜と、少々涙目になる彼女。

「聖典が〜……」

「その呼び名は神様泣いちゃうから、やめてあげて! それと、とりあえずこれ着て!」

「はい、わかりました」

 そこら辺に掛けてあったカッターシャツを彼女に渡す。 

 ……はぁ。なんか昨日の疲れがぶり返した気がする。こんなにつっこみを入れたのは初めてだ。人生で初めて。

 その相手が道端で倒れていたのに、誰にも助けられなかった少女とは……。

「……『邪魔者』同士は噛みあうってか……」

「? 何か言いましたか?」

「いや、別に。……そういえば、君。名前は?」

 よくよく考えれば彼女の素性を全く知らない。彼女がどんな事情があったとしても、最低、名前ぐらいは知
っておく必要はあるだろう。

「私ですか?」

「そうそう。あ、敬語じゃなくていいぞ?」

「あ、いえ。これが普段通りですのでお気になさらず」

「へぇ、どこかのお嬢様なのか?」

「はい。私はアルシタシナ家の長女――ミレーユ・アルシタシナと申します。とは言いましても現在は『元ア
ルシタシナ家の長女』ですが……」

「元ってことは、それって……」

「……はい。私は縁を切られ、家を追い出されました」

 彼女は顔を伏せる。しまった。うかつにこんなこと聞くのは失礼だ。嫌な事を思い出させたに違いない。

「ご、ごめん。悪いことしたな……」

「あ、いえ。大丈夫です。慣れていますから」

「……え?」

「私。昔からずっとそうなので。私は『いらない』、『不必要』な『ゴミ』らしいです」

「…………」

 どんな反応をすればいいのかわからなかった。あまりにも唐突過ぎて。いや、それ以上に。悲しすぎるその
現実に。あまりに似すぎた境遇に。

 俺は言葉を発することができなかった。

 少し自嘲気味に彼女はこう俺に告げた。


「私――『邪魔者』――なんです」


 その言葉を聞いた途端、俺は彼女を抱きしめた。

 その気持ちはよくわかるから。俺にはわかるから。

 そして、誰か一人に肯定されるだけでも嬉しいことを俺は知っているから。

 多分、俺はこう告げるのだろう

「君は『邪魔者』なんかじゃない。それを俺が証明してやる」

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