小説『ニートな少女の活動記録』
作者:しゃいねす()

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【第二章】 
     _____( グループ抗争編 )_____   


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        8『トンデモ兄妹』





 さて、学校も終わったしいつものように心音の所に行きますか。

 歩いて商店街を抜け、心音の家の前にたどり着いた。
 玄関にたどり着くためには階段を上り、2階に着かなくてはいけないのだが、その途中で目を引くものがあった。

「バイク……?」

 心音の家の前にバイクが止まっている。いや、正確に言うと心音の住んでいる建物の前にバイクが止まっている。
 建物の1階は、今は空っぽの状態だが昔何かのお店が営業していたのだろう。

 で、何故ここにバイクがあるんだ?しかも良く見るとかなりでかい。大型のバイクだ。思考をめぐらせてみるが分からない。とりあえず心音のところに行けば、何か事が進むだろう。

 俺は階段を上り2階にたどり着く。
 そして玄関を開けると異様な光景が目に飛び込んできた。

 まず暴走族のような特攻服を着た男、男は何かに恐れているのか臨戦態勢を整えて構えている。
 そしてその後ろに隠れるようにして顔を覗かせている小柄で小さな女の子。
 肝心の心音はというと、目の前の暴走族系の男にクマのぬいぐるみを突き出した状態で静止していた。

「えっと……どうなってるんだ」

 口に出てしまったっ。3人の視線がいっせいにこっちのほうを向く。

 暴走族系の男は瞬時に体をこっちに向け臨戦態勢を再び整えた。そしてさらに警戒する女の子。
 そして俺の存在に気づいた心音は一目散にこっちに向かって走ってきた。

「悠〜っ!! 何この人たちっ!! 悠の知り合いなのっ?」

 いや、俺の知り合いにこんな暴走族系の男はいなかったはずだが。

「心音、お前の知り合いじゃないのか!」

「こんな暴走族系の男と友達な訳ないじゃんっ!」

「だよなやっぱり」

 怪しい二人に向かって俺は警戒せずにはいられなかった。だからとりあえず質問してみることにした。

「お前らは誰なんだ?」

「おおお前らこそ何だ!? そんな物騒なもの持ちやがってっ!!」

「そーだそーだっ!お兄ちゃんの言うとおりだーっ!」

 ……ん?物騒なものって何だ?別に俺は危ないものなんて何ももってないし。
 まさか、心音?
 心音のほうを見てみるが、手にクマのぬいぐるみを持っているがそれだけだ。
 危ないものなんて何もないじゃないか。何をいっているんだこいつは。

「何不思議そうな顔してんだよ、お前っ!! お前の連れのそれだっ!」

「なにがそれだよ、ただのくまのぬいぐるみじゃないか」

「な!?……それは爆弾だぞ!?」

 何をいってるんだこいつは。馬鹿なのか?

「おおお前達、死にたいのか!? わたしの持っているこのクマ爆弾で吹っ飛ばして……く、く、くれようかぁっ!!」

 え、心音!?
 お前まで何を言ってるんだ。お前までこの暴走族系男みたいに馬鹿になってしまったのか!?
 なんだ、この空間はっ!誰かに馬鹿になる薬でも撒かれたのかっ!

「やめろっ! やめてくれっ! 俺のことはいいから妹だけでも助けてやってくれーっ!」

「お、お兄ちゃんっ!! ダメだよっ! わたしお兄ちゃんがいなくなったら嫌だよぉーっ!!」

「いいんだ、友香、お前だけは守る!! だからその爆弾は俺に当ててくれ!」

「うわぁぁん、お兄ちゃん!!それだとわたしも巻き込まれて死んじゃうよぉぉ!!」

「それでもいいんだっ!俺はお前を守る!!」

「うわぁぁぁぁん! お兄ちゃんが自己陶酔してしてるよぉぉ! 意味が分からないよぉぉ!!」

 お、俺はどうすればいいんだ!?
 なんだかもう俺じゃ収拾をつかせるなんてことできない気がする!
 はぁ……仕方ない……俺もここに混ざって無理やりこの茶番を終わらす感じで。

「……心音、その爆弾(ぬいぐるみ)を投げよう」

「え、でもそれだとっ! (このぬいぐるみが本当は爆弾じゃないってばれちゃうっ!) 」

「いいんだ、俺達の手ですべてを終わらそう (この茶番劇を) 」

「でもそれだとわたしたちも死んじゃうっ! (あいつが襲ってきそうっ!)」

「それは大丈夫だ。(きっと何かと勘違いしているだけだから)」

「なんでそんなことがいえるの!? 」

「俺は (この暴走族系男がものすごく馬鹿なことを) 信じてるからさ 」

「そ、そう……! (ゆ、悠が……わたしの事を……!?)」



 俺はぬいぐるみを投げるように心音に指示を出した。

 心音の腕は半円を描き、腰の高さまで来たと同時に手を離した。

 その爆弾はゆっくりと宙を舞っていった。

 悠々と宙を舞うその姿は、まるでぬいぐるみのようだった。クマの。

 そして、半回転目を迎えたとき今まで背を向けていたそいつの顔が僅かに見えた。

 そいつの顔が……少しだけ笑っているように見えたのは……



        俺だけだったのかな?




「うわぁぁぁぁぁあ!! 馬鹿ぁぁぁあああ!!  爆発するーーーっ!!」

「うわぁぁぁぁあ!! お兄ちゃんっ!! 助けてーーっ!!」

「うわぁぁぁぁあ!! 悠っ!!」

 ちょっと待て、犯人であり、真実を知っているお前までもが何故叫ぶ。




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