しかし、不良をやめ普通の人間に戻ろうと願っただけで解決するような問題ではなかった。
『黒豹』という知れ渡った名前でグループ同士の抗争に歯止めをかけていた恭介がグループを抜けることは
許されざる事だったのだ。
だから、他の方法を考えなければならなかった。
作戦を考えたのは妹の友香だった。
兄のほうはというと、喧嘩などは異常なほどに強いがその分、頭脳戦はとても苦手だった。
そんな彼がなぜ今までリーダーでいられたかと言うと、頭脳戦で挑んでくるグループを力技であっさりねじ伏せることができるほどの強大な力があったからであった。
どうすれば、ヴィンテージヘブンというグループから兄を無事に抜け出させることが出来るのか。
グループ自体を消滅させることは不可能だと分かっているし、他のグループとの併合を図ったとしてもメンバーや相手側のグループは納得がいかないだろう。仮に併合できたとしても強大な力を持つ人間がリーダーで無ければ意味が無い。すぐに内部分裂が始まり元の木阿弥で終わりだろう。やはり最終的には抑止力が必要になるのであった。そうなると。
一つは 恭介の代わりにグループ内で抑止力になってくれる人物を探す。
もう一つは 抑止力になる団体をグループとは別にもう一つ作り上げる。
という具合の結果だ。
とはいっても友香も特段作戦や策略を考えるのが得意な訳ではない。
したがって、考えた作戦もここまでが限界だった。特にいい案が思い浮かんだと言う事でもなかった。
ただ、ヴィンテージヘブンから一時的に抜ける回避方法は見つかった。
ヴィンテージヘブン側ではリーダーは入院中ということになっている。つまり、恭介が退院してもそのまま、入院中ということにしておけばいいのだ。メンバーは入院の見舞いには既に一度来たし、恭介を畏れているメンバーはわざわざ個人で会いにくるなんて真似はしないだろう。
ただそれも、一時的なものに過ぎない。いずれはばれてしまうし、相手側のグループが今の恭介の状態のことを知ったら、ヴィンテージヘブンを潰しにかかってくるだろう。どちらにせよ時間の問題がある。
二人は早急に抑止力になる人物を探すか団体を集めに行かなければならないのだ。
「お兄ちゃん、どこか当てはある?」
「まったく無いな」
「そっかぁー、じゃああたしが適当に調べていくしかないねー?」
「そうだな……悪いな友香」
「いいよ、お兄ちゃんが不良をやめるんならいくらでも協力するよ?」
「そっか……ありがとうな友香」
そして、ネットで調べたり、噂を聞きつけたりして、色々と調べた結果
あたしはゲームの天才を見つけた。
戦略型オンラインゲームの天才だ。
その人物は一つのゲームではなく様々なゲームに精通し、すべて成績は1位だった。
つまり、戦略や策略を考えるのを得意とする、ある意味プロだ。
その人物のハンドルネームは『 chappy 』。
「……ちっぱい?」
兄の頭をグーで殴ってやった。
「違うでしょっ! チャッピーよ! チャッピー!」
「わ、悪い……でもそんな殴らなくても」
「小さいなんていうから!!」
「え? 何がだ?」
「えええ!? くっ……意味も分からずいったのかこの馬鹿兄貴は……あたしの胸をなんだと思って……」
「なんだどういう意味だ? ちっぱい……ちっぱい……ちっぱい……」
「連呼するなぁっ! 馬鹿兄貴ぃっ!」
「な、なぜだっ!? わ、悪い!」
まったく……兄貴……お兄ちゃんの言うchappyはともかくとして、
この人物ならば、あたし達を上手く導けるのではないか。そう思った。
そしてその人物と会うため、あたしはバイクに乗った。
お兄ちゃんと一緒にね。