小説『ニートな少女の活動記録』
作者:しゃいねす()

しおりをはさむ/はずす ここまでで読み終える << 前のページへ 次のページへ >>

      10『 chappy 』




 冬だ。俺は手袋とマフラーを身に着けて、外に出た。例のごとく、心音のところへ行くためだ。
 心音は今の時間PCと睨めっこでもしているのだろうかなどと考えつつ、見慣れた商店を抜け心音のもとへとたどり着いた。

「この間はあの兄妹のバイクがあったけど……流石に今日はないか」

 この間の兄妹というのは、ぬいぐるみ爆弾を投下して心音と一緒にギャーギャーと騒いでいたあの兄妹のことだ。あのはちゃめちゃ兄妹はまた、ここに来るのだろうか。

 玄関のチャイムを押してから 「ん〜」 という返事らしからぬ返事があったのでドアを引いて中に入った。

「今日も来たんだ」

「あぁ、暇だったからな」

「そう」

 俺と一言二言の会話をしながらも、心音の視線はPCに向けられていた。。

「あ、クッキーもって来たぞ」

「え、あ、ちょっと待って、食べる」

 カタカタとキーボードで何かを打ち込みながら、返事をする心音。心音は何をやってるのだろうか。

「あ、悠、忙しいからちょっと悠が……こう……やって」

 PCの画面に集中していて、手もキーボードを打つのに忙しいようだ。くいくいとあごで指示をしてくる。

「やってって……クッキーを食べさせろと?」

 うんうんと頷く心音。

「……しょうがないな」

 俺は持ってきた袋の中からチョコクッキーを数枚出して心音の口に近づけた。
 はむっ

「…………」

「…………おいしい」

「こ、心音、俺の指ごと食べるな」

「んぅ…………ぅ?」

 俺の指ごと口に加えた心音。顔が引き攣ってる。

「うわぁぁぁぁっ!!」

 顔を真っ赤にしながら、俺の指から口を離した。
 そして口をぱくぱくさせたり、手を当てたりしだした。

「殺す気なのっ!?」

「まてっ!どっちかっていうとそのセリフは俺のほうがあってると思うぞ!」

「悠の指のせいでクッキーの味がどこかいっちゃったっ!」

「俺の指、どんな強烈な味がするんだよっ」

「え、海の味した……!」

「……なんでだよっ」

 確かに塩分って意味ならまぁそうなんだがな……。

「わたしの指はなめないでねっ!」

「別になめないよっ!」

 お口直しに、とか言いながらファンタを口にする心音。
 飲んだ後ちょっとむせてるし。大丈夫か?

「はぁ……話変わるけど……最近暇。どうすればいい悠?」

「学校は?」

「やだ」

「即答かよっ」

「当たり前じゃん」

「バイトとかまたやりたいとかは……」

「思わないっ!しばらくはもう何もやりたくないっ!でも暇っ!」

 なんと我が侭なやつだ。
 そういや学校に言っていない心音は、勉強とかは大丈夫なのだろうか。

「学校いってないけど、勉強とかはしないの?」

「勉強? あれ、私って今中学2年なんだっけ?」

「それは一応覚えとけよ、仮にも所属はしてるんだから」

「うん、じゃあ大丈夫中学範囲はすべて終わってるもんっ!」

「そ、そうなのかっ!? す、すごいな……」

「うん、フェルマーの最終定理も解けるよっ? でも話すと長くなるからここでは話さないっ」

「それは中学範囲どうこうではなく、単に飛躍のしすぎだっ!」

「ふふん、まぁ私の実力はこんなもんってとこよっ!」

ドヤ顔するな! まぁ、さっきの(中学範囲を終わらせた)が本当ならそれは、……ほんとにすごいけどな

「でも、コミュニケーション能力は皆無だったと。残念だ心音」

「うううるさいっ! ゲームの中では相手と戦いながらコミュニケーションとっとるわぁっ!!」

「それをリアルで生かせればいいんだけどなぁ……」




                     ☆



 あたし達は、ぬいぐるみ爆弾事件(仮)があった後の帰り道にこんな話をした。





「お兄ちゃん……流石だよね」

「ん……?何がだ?」

「あのぬいぐるみほんとに爆弾だと思ってたでしょ」

「……違うのか!?」

「違うよぉぉっ!!」

 あぁぁぁうちの兄貴馬鹿だぁ……たちまち馬鹿だぁ…………。
 あれはただのぬいぐるみなのに……。

「じゃあなんだ、あれは」

「ただのぬいぐるみだよお兄ちゃんっ!!」

「な……!騙されたっ……!」

「普通騙されないからねっ!!」

「俺が特別な人間だったってことか」

「なんでかっこいい言い方してんのよ……。あれはぬいぐるみ、で、きっとCHAPPYは後から来た男のほうだと思
う。」

「なぜ男のほうだと思うんだ?」

「常識的に考えてあんな小さい娘がCHAPPYな訳ないでしょ」

「お前と同じくらいだが」

「う……そう、だから、だからよっ!どうせ胸もとかいいたいんでしょ!」

「いや、胸なんてちっとも、どっちかっていうと友香の……あ、いいいや、なんでもないっ!」

「ば、馬鹿兄貴めぇ……」

「悪い悪い……」

 ということであたし達は、この間のあの男にもう一度会わなければならない。
 もしかしたらあっちの小さい女の子という事もあるかもしれないが、多分違うと思う、うん。
 だってあたしと同じくらいの娘だし、そんな訳ないよ。

 強引な手なのかもしれないけど、chappyと早く会って案を考えてもらおう。

-15-
Copyright ©しゃいねす All Rights Reserved 
<< 前のページへ 次のページへ >> ここまでで読み終える