森村さんが来たことによってまたみんな自己紹介することになった。
その時、森村さんの自己紹介のときに、「悠くんっ!森村さんじゃなくて彼方って下の名前で呼んでっ!」
と迫真に迫られたので、これからは森村さんのことは彼方と呼ぶことになった。
「えっと……」
一通り自己紹介を終えたところで、友香がごほんと咳払いをした。
「心音ちゃん……いや、チャッピーにお願いがあるの!」
「……な、なななんで私のぬいぐるみの名前知ってるの!?」
友香はこの子は何をいってるの?と言わんばかりに首を傾げる。
その様子に疑問を感じた心音も目の前にいる友香と同じ方向に首を傾げる。
「何この娘達っ! すっごく可愛いッ!!」
互いに同じ方向に首を傾けている二人の様子を見て大興奮している彼方は、興奮しすぎて腕を壁に思いっきりぶつけた。
「痛い……」と唸る彼女。ほんとドジだ。
「えっと……、あなたのハンドルネーム、チャッピーでしょ?」
「え、あ、あ、そっちか! うん、そうだよ」
友香は安堵の嘆息をついて、心音に説明を始めた。
「さっきグループのリーダーを抜けたうちの兄が追われているって話したよね。でもそれは無断で抜けてきただけなの。だからちゃんとグループから抜けられるようにしたいのよ」
「ちゃんとって言うと?」 俺は疑問を口にした。
「兄のグループは他のグループから喧嘩を売られることが最近ほとんど無かったの。それは兄がものすごく強いから。でもそんな兄がグループから抜けてしまったらどうなると思う?」
「……他のグループが恭介のグループを叩こうとする?」
「そう、だから兄は必要な存在なの。でもグループを辞めたい。だから困ってるのよ……」
「なるほど……」 つまり肝心のアイデアが無いって事か。
「そこで!」
友香は改めて心音を見つめると、
「心音ちゃんに……チャッピーに戦略を考えてもらいたいの! お金ならいくらでも出すから……!」
話は分かったが、そんな危ない事に心音を巻き込みたくなんてない。ヤクザだろうと不良グループだろうと危ないことには変わりないからな。まぁでも、それ以前にこんな話を心音が簡単に呑む分けないが。
「悪いが、危ないことに心音を―――― 」
巻き込みたくない。そう言おうとした時、
「……分かった」
「…………え?」
え? と言ったのは俺だ。
「でも……条件一つ。 私と、……その、と、と、友達になって……?お金はいらないから」
「え、あぁ、うん、……いいよ?」
友香は口をぽかんと開けて、心音を見つめている。それは俺も同じだった。友達になってと条件を出すことも、頼みを引き受けるのも、どちらも俺にとって予想外のことだった。
「わぁー、二人ともお友達だー! ついでに私も友達になっていいかなー?」
友香と心音、二人の手をとってはしゃぐ彼方。まるでお母さんにおもちゃを買ってもらった子供のようだ。
「そ、そうだね……お友達だね!それにお兄ちゃん許可でたよ!やったね!」
「そうだな! すまないっ心音さん!恩をするーっ!」
「それ、多分恩に着るでしょ、お兄ちゃん」
みんな喜んでいる。良かった。
いや……これでいいのか?
心音は自ら友達を作りにいった。その友達の頼みごとも引き受けた。
とってもいいことだ。
心音はいつのまに成長していたんだ?
だけど……このモヤモヤ感はなんだ。
引き受けた頼みごとが、危ないことだから?
だから俺は心音をそこから遠ざけようとしていた?
いや。
「待て、そもそも心音にそんな戦略のアイデアが出せるのか?」
「出せる!あたしが保障する。だって複数のゲームでの成績はすべてランキング一位。戦術もすごかった。じ、実はあたしも同じオンラインゲームやってて、チャッピーのファンだったから、分かるの」
友香は少し照れくさそうに頭をかく。
戦略型のオンラインゲーム、複数においてすべて成績1位?
確かに心音は頭は良いが、そんなにすごいのか?
心音はそんなこと何も言ってなかった。
チャッピーがなんなのかもこの間、聞いたばっかりだ。
俺以外の4人は倉庫の中で楽しそうにしている。
頼みごとを引き受けてくれたこと、友達が出来たこと、理由は何にせよ、みんな楽しそうに笑っている。
そんな中、俺だけが素直に笑えなかった。
なぜだろう。
心にぽっかりの空洞が出来たような感覚。
今までここに詰まっていたものが消え去ってしまったような、そんな感覚。