小説『鏡の中の僕に、花束を・・・』
作者:mz(mz箱)

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「ここか?」
そこは住宅街にある一軒家だった。どうみても会社には見えない。しかし、表札には太田とある。社長の名前は合っている。悩んだ。
メモには電話番号もあった。ここに電話すれば、合っているかどうかわかるはずだ。さっそく、携帯を取り出す。
「なんだよ・・・。」
相変わらず、こう言う時についていないらしい。電池切れだ。ここに来るまで、電車でゲームをやり過ぎた。
となると、直接聞いてみるしかない。こんなに緊張しながらチャイムを押すのは、小学校のピンポンダッシュ以来だ。
チャイムを押すと、女の人の声が聞こえてきた。
「はい。」
「あの、ここは太田クラフトさんですか?」
沈黙があった。
間違えた。僕は逃げ出したくなった。
「社長、お客さんですよ。」
合っていたらしい。胸を撫で下ろした。しばらくすると、玄関が開き、中から中年の男が出てきた。もし父親が生きていたら、多分父親くらいの年齢だろう。
「えっと、千代田君?」
顔を見て、僕が千代田だと思ったようだ。話は通っているらしい。
「そうです。母に言われて来ました。」
「いや、待ってたよ。さぁ、中に入って。」
面接に来たのに歓迎されるとは、なんとも不思議な感じだ。
「お邪魔します。」
作りは本当に普通の家だ。思わず口から出た。
「じゃ、ここに座って。」
通されたのは応接間だ。リビングなんてしゃれた言葉で言ってはいけない。日本家屋にありがちな応接間だ。どうやら、畳の上に絨毯を敷き、そこにソファやらを置いたようだ。絨毯のハジから畳の縁が見えているし、照明は和室の時のままだ。我が家よりもイケてない。

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