小説『IS 戦う少年と守護の楯』
作者:天地無用生もの注意()

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11話 第二の被害者

「おはー。ねえ聞いて聞いておりむー。なんと転校生が二組に入ったんだって。
しかもクラス代表がその人に変わったらしいよ。でもって中国代表候補生。その中でも専用機持ちー。ウチと一緒だよ〜♪」

朝ののほほんさんって、もっとこう……。「学校行くの面倒〜。もっと寝てたーい」って言っていなかったっけ?
本当に女子って新しいモノ好きなんだな。

「おはよーさん。あれ? まだ四月なのに転校生ってどういう事だ?」

クラス代表パーティー以降、比較的女子とも気軽に話せるようになった。
後から妙子さんに聞いた話だと、こののほほんさんがパーティーの発起人だそうだ。
ありがたや。ありがたや。

「わたくしの存在を危ぶんでの転入かしら」

「いや、それは無いな。この前設子さんのラファールで負けたのだろう」

「あら箒さん。貴女だって、妙子さんの楯で全ての攻撃を防がれたじゃないですか」

―――あー。うん。この二人はいつも通りだな。

クラス代表を決める模擬戦の後、セシリアと妙子さん、設子さんがISの訓練に付き合ってくれるようになった。
断る理由もないし先日の負けがあった為にこの申し出はありがたい。箒は妙子さんが熱心に誘って参加する事になった。
何でも、千冬姉と同門だから太刀筋が似ているからとの事だが、さすがに箒は人間辞めていないぞ。

そしていまだ謎なのが、設子さんは専用機を出したがらない。
整備中と言ってはいるが、いつもブローチをつけているのでたぶん別の理由だろう。たまに設子さんの考えている事が読めない。

「おはようございます」
「みなさん。おはようございます」

おっと、妙子さんと設子さんの仲良しコンビ。
そして、現段階でコンビを組むと前衛の俺と後衛のセシリアコンビでもなかなか勝ち星を拾う事が出来ない。

「妙子さん。すごく眠そうだけど、どうしたんだ?」

「ええ、実は前に変な人と知り合いになったんですが、その人がいまだにスカートの中を覗こうとするんです」

オウ! 覗きは犯罪です。そんな言葉が浮かび上がるが、初日に箒の風呂上りを見てしまったので気まずいです。

「一夏。何を思い出した?」

痛いって! 足の指をグリグリ踏むのは止めてくれ。

「まあ、それでスカートに細工をしていたらちょっと寝不足に……」

「妙子さまは裁縫がとてもお上手なんですよ」

料理だったら負けないのだが針仕事はさすがに手を伸ばしていないな。

「そうだ、一夏さん。制服のズボンってどこで支給されたんですか?」

『支給』って……。確かに支給されたけどさ。普通買うところを聞くんじゃないか?

「えーと。なんだったら予備で使っていないヤツ上げようか?
あ。でも、サイズが違うか」

ガシッと両腕をつかまれ、すごく期待した目で妙子さんが必死な顔で頷いている。

「オヨ? たえたえ。ズボン穿くの〜? ダメだよ〜、せっかく綺麗な足しているんだから隠しちゃダメダメだよ〜」

のほほんさんが反対していると、他の女子も頷いている。
褒められているのに、何で妙子さんはうなだれているんだろう?
俺もしっかり鍛え上げられて綺麗だと思うのにな……。

「一夏。まさかお前、不埒な事を考えているわけじゃ無いだろうな」

「そんなわけ無いだろ。……そうだな、妙子さんは俺の制服より千冬姉と同じですらっとしているから、
どちらかと言えばスーツのようなタイトなパンツ姿の方が良いと思うだが……」

脳内で着がえさせてみると、千冬姉と並んでも引けを取らない。
おお、すごく似合いそうだ。我ながらいい仕事しますな。

「あんたら! いつになったら転校生の話に戻るのよ!!」

教室のドアが勢いよく開き、かなり聞きなれた声が響いた。

「鈴……? お前、鈴なのか?!」

そこに立っていたのは、一年ほど前に国に帰った幼馴染の凰 鈴音。
ツインテールがトレードマークの女の子。
子猫のように体全体で怒りを表している。
―――あ、ダメだぞ。小さいとか言っちゃ。身長は平均くらいなんだけどイメージとして全体的に残念な体型だ。

「アンタ、今余計な事考えなかった? それより話を戻しなさいよ」

「そうだな。分かっているじゃないか。もうSHRの時間だ。そして邪魔だ、教室に戻れ」

オウ!! なんてタイミングの悪い。鈴が振り向いた瞬間に顔面に出席簿が……。

「ひっ、ひふゆさん?」

「なんだ? 感動のあまり鼻血でも出そうなのか? それと織斑先生だ。
まったく、近頃のガキは公私を混同するやつが多くて困る」

さっきまでの殺気の入った視線が無くなると、すごすごと下がる。お、『さっきまでの殺気』こちらは絶好調だ。

「また後で来るからね。逃げないでよ、一夏!!」

鈴は千冬姉の方を見ずに言いたいことだけ言って、すたこらさっさと逃げる。
昔からアイツは千冬姉が苦手だったからな。確かに暴力的だけど理不尽な暴力はしないぞ。―――たぶん。

「一夏。今のは誰だ!」
「一夏さん。あの子とはどういう関係ですか!!」

あ、馬鹿。

バシンバシン!!

きっと理不尽な暴力は無いよな……?


    ◇  ◇  ◇


「お前のせいだ」
「あなたのせいですわ」

午前中の授業で織斑先生の教育的指導を受ける事数回、しかも温厚な山田先生に注意される事十回くらい。
授業中ボーとしていたのが悪いのに、何故俺が責められる?

「箒さまもセシリアさまも落ち着いてください。集中力が落ちてしまったらいいのがありますよ」

そう言って設子さんが二人にとても小さな可愛らしい小瓶を手渡している。
中に入っているのは……。コンペイトウ? うん、糖分が必要なんだな。

「あ〜。せっちゃん、私にも〜」

のほほんさんが設子さんに両手を出してねだっている。
ポケットからさらに一瓶出してあげている光景を見ると、設子さんって本当に優しい人なんだよな。

「何はともあれ、食事にしましょうよ。授業は午後もあるんですから、それに食後にお話くらい出来ますよ。待っている人もいるようですしね。
それに、ここにいてもお腹は空くし、時間もなくなりますし。何よりそんな状態で織斑先生の授業は受けたくないですから」

ナイスです。妙子さん。俺の言いたい事を上手くまとめている。
最近になって思うのだが、この二人がIS学園に来て一番相性がいいのかもしれない。
―――なんていったって、暴力振るわないし……。なんていうか? みんなのお姉さん?? そんな感じですね。

「それじゃあ、行きますか」

そう言うと俺達はぞろぞろと移動していった。
なんとなく固定メンバー+αになっているのだが、だいぶ見慣れた光景になっている。




「待っていたわよ、一夏」

「分かったからさ。そこ、通行の邪魔だぞ。それにラーメンはのびると悲惨だ」

鈴も待っていることだし、手早く注文しないとな。と言っても俺はいつもの日替わりランチ。

「一夏さん。奥に設子さんが席を取っているので先に行ってますね」

妙子さんが持っていたのは、俺と同じ日替わりランチのトレーと洋風ランチの二つ。
この混雑した中を汁物をこぼさずに両手で持って歩いていく。

「一夏。何あの人? 日替わりランチのご飯、アンタより大盛りだったけどさ。片手で持てるモンなの?」

「あの人は、山田妙子さんと言って、すごく常識人だけどすごく非常識な鍛え方をした人。
ちなみに入試の相手は千冬姉で、5分持ったそうだ。それにセシリアに教わってからさらに強く……? 粘り強くなった。のか?
そんでもって千冬姉から『自分の腕が鈍っているかどうか、確認するのにはちょうどいい』というコメントがある」

「何その化け物」鈴、ボソッと言ったつもりでも十分聞こえてるぞ。

それぞれが食事を受け取って設子さんの待つ席に向かう。
食事を持ってぞろぞろと。なんかアリの行列みたいだな。

「鈴、いつ日本に帰ってきたんだ? それにいつの間に代表候補生になったんだ?」

「うっさい。早く席に着かないと麺がのびるでしょ。候補生になったのは中国に帰国して少し経ってからよ」

こいつ、相変わらず変わりないな。このやり取り一年前とまったくブレない。

「一夏、そろそろどういう関係か説明してほしいのだが」

「うっさい、このメロン! アンタ絶対私の隣に座らないでよね」

箒は急に俺から距離を置く。
しかし、さっき見たとき箒はきつねうどんだったからメロンは乗っていないはずなんだが、というかうどんとメロンは合わないと思うぞ。

「あれー、りんりん。そんな事気にしていたの? ダメだよ。そんな事気にしていたら、ここでは生きていけないよ」

「りんりん言うな」と鈴。あー、のほほんさんそれも禁句なんだ。

「えー、可愛いのに。でもでも、中国代表候補の弱点はっけんだー♪」

「私にそんな弱点なんか無いのよ! いい? そこのスイカ。絶対にぜーったいに私の隣だけは座らないでよね」

メロンがスイカに変わったが、スイカは夏の定番だぞ。そして今は四月だ。

「ほほう。それは暗に隣に座れと言っているんだな」

なるほど、よく分からんが、TVによく出るお笑い3人組だな。

「とりあえず、飯にしようぜ。それと鈴ははただの幼馴染みだぞ」

箒が小学校四年で引っ越していって、鈴が小学五年の時に転校して来た、それから中学二年の終わりに帰国するまでの凡そ四年間。よく一緒に遊んだ幼馴染み。
中学から五反田弾が仲間に入ってさらに騒がしくなったが……。
なんだろう、あの頃がすごく懐かしい。

「で、鈴。何故俺を睨む?」

「なんでもない」

「でもって、箒が……。ほら、前に話したろ小学校からの幼馴染だ。後はIS学園に入ってからの友達だ」

「昔から友達作るのだけは得意なんだよな」と呟くと、箒と鈴、それにセシリアまでもが互いの顔を見て同情しているようだ。

「って事は、アンタが最初の被害者か?」

「そうなる。すまんが鈴と呼ばせてもらうぞ。鈴が二人目の被害者か」

「まあ、そうなるかも。でもこいつの事だから本当に二人目かどうかは分からないけどね。
で、そっちが三人・・・いや、知り合いの妹が三人目だから四人目?」

「あたくしの事はセシリアでかまいません。鈴さんの言う通りなら四人目。になりますけど、
その妹さんの事を知らなかったので、もっと居そうですね。ですが、一応四人目とさせていただきますわ」

「鈴さま。ちなみに私と妙子さまは違いますよ」

「おりむー。世紀の大犯罪者だね」

失礼な。被害者とは俺のほうだぞ。訓練と称した数の暴力、プライベートでも箒に木刀で追いかけられる事もあるんだ。

「あ!! そういうことでしたか。なるほど、それは確かに犯罪的ですね」

何かに気付いた妙子さん。
納得していないで、理由を知りたいのですが……。

「ちなみに理由は自分で探してくださいね。
それと、今日の訓練はたぶん地獄を見る事になりそうですから、しっかり食べておかないとが体が持ちませんよ」

「何? アンタ達一夏の訓練に付き合ってるの? 私もまぜなさいよ」

ちょっと待ってくれ妙子さん。今でこそ一杯一杯なのにさらに地獄を見ろと?

「鈴さんは二組のクラス代表なんですよね。
しばらくしたらクラス代表戦がありますし、出来ればこちらの手の内を晒したくないんですが、どうでしょう?」

妙子さん。意外と負けず嫌い? って、俺に期待しすぎていないか?

「分かったわよ。じゃあコーチの役目は譲ってあげる。でも、それ以外では譲らないからね」

―――なんか、俺の意思とは関係ない所で俺の予定が組み上がっていく。
箒とセシリアなんかすごくヤル気です。

「それじゃ一夏。終わったら行くから空けといてね」

ラーメンのスープを飲み干してそのまま食堂から出て行く。

「鈴さんか……。この間の模擬戦で白式の情報は二組にも知れわたっている可能性があるから、気合を入れないと」

「そうですね、妙子さま。作戦を練らないとあっという間に負けてしまいますね」

そこ、ちょっと黒いですよ……。




後書きのようなもの
一応題名が「『戦う少年』と守護の楯」なので一夏君にも強くなってもらわないと……。
と言うのは建前で私生活で友人に妙子さんの口調(あたしと言ってしまい)で話してしまい「お前……」となったから、一夏君視点を入れました。
ちなみに一部(発売元が同じ)『イトカノ』の食事風景を織り交ぜてお送りしました。

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