小説『IS 戦う少年と守護の楯』
作者:天地無用生もの注意()

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12話 作戦会議

「敵を知り己を知れば百戦危うからず。ということで鈴さんの事を調べてきました」

放課後の訓練前に妙子さんが疲れた様子でピット内で説明をしている。
どうでもいいけど、何で千冬姉と同じ格好?
いや、確かに似合っているんだけどさ。

パチパチと拍手の音がしたので俺も拍手をしたが、音がする方を見るとニコニコ顔の設子さんだった。
なぞが一気に解けました。犯人は設子さん貴女ですね。

「操縦者、凰鈴音。使用ISは『甲龍』。えーと、第三世代型、近距離格闘型タイプですね。
ただし、一夏さんと違い、射撃もできるタイプです」

よほど恥ずかしいのか、口調が山田先生と同じ喋り方をしている。
うん。俺だったらわざわざコスプレまでしてこんな事したくは無い。
だが、妙子さんの話を聞いて顔色を変えたのは二人。

「ちょっとお待ちになって、それじゃ、わたくしの存在意義は……」

「はい。セシリアさんがビットに頼っている以上、クラス対抗戦の為の一夏さんへの指導は意味が無いです」

「なるほど。ということは私の」
「残念ながら、箒さんも射撃が苦手のようですので、クラス対抗戦では鈴さんの仮想敵としては意味が無いですね」

すごい。妙子さんこの二人をばっさり切り捨てた。
しかも、千冬姉と同じ格好だから余計反論しにくい。
正確には反論しようと思えば出来るのだろうけど、あの鬼教官と同じ姿なだけに反論しにくい。

まてよ、そこまで考えてあの姿にしたのなら……。
設子さん、なんて恐ろしい子!

「まとめると、鈴を相手にするときには、この二人の特訓だけだと意味が無い。ってことになるのか」

ギン!! と、二人からの視線が俺に集まる。

「ちょっと待ってくれって、射撃と接近戦が得意なのってこの中じゃ妙子さんと設子さんだろ。だったら」
「んー。残念ながらあたしは射撃は苦手なんですよね」

それは確かに。
妙子さんの場合は近距離では散弾銃をよく使う。そして距離が開いたら両手にマシンガンでぶっ放す。
IS学園に来てから知ったのだが、散弾銃とショットガンは同じ銃で、銃に装填するシェル(弾)の種類によって違う使い方が出来るそうだ。
ISの試合にほとんどの人は、シールド・エネルギーをより多く減らすスラッグ弾を使用するが、
妙子さんの場合は「とりあえず当たればいい」らしい。

「つまり、本当の意味で全ての距離を網羅しているのは、設子さんなんですよね」

―――本気で止めて欲しい。設子さんと戦うと本当に殺されるんじゃないか? と、思えるのがすごく嫌なんだが。

前に一度だけ、一対一の模擬戦をしたときは、本当に死ぬと覚悟した。
量産機のラファールなのに白式のスピードがまったく通用しない。
距離をとったらスナイパーライフル、接近戦に持ち込んだら格闘術とコンバットナイフで対応される。
しかも設子さんの身体能力が半端じゃない。気が付いたら首下にナイフって仕事人かよ。
唯一設子さんに勝てることがあるのが設子さんがフォローに徹するタッグマッチのときのみで、それ以外は出来るだけ避けている。

「ちょっと待ってください。わたくしだって格闘技くらいは」
「うん、ダメですね」

それでも食い下がるセシリアに、ニッコリと笑って拒否された。

「狙撃の腕はともかく、格闘戦で一夏さんと互角くらい行かないと。
相手は代表候補ですよ。セシリアさんがビットの扱いと射撃で代表候補になったのですよね。
だったら、相手は格闘と射撃の腕で代表候補になったんです。
それを考えれば、最低でも箒さんみたいに剣道で全国大会優勝くらいの実力が無いと……」

「ならば、二人ががりで」
「意味が無いですね」

箒も発言したそばから撃沈。

「いいですか? 相手は鈴さん一人。
それこそ箒さんにセシリアさんが張り付いて戦えるなら意味があるかもしれませんが、
箒さんはISの操縦技術が代表候補生と同じレベルにはなってないでしょ? 
あたしだってそんなに上手くないのは分かっていますが、箒さんが思うように動かしていないと分かりますから」

口調は山田先生を少し厳しく。格好は千冬姉で、その判断は二人を足して二で割っても千冬姉の個性が強い感じか?

「妙子さん。何でそんなに燃えてるんですか?」

おかしい。いつもだったらみんなが納得できるようにするタイプなのに、今回は率先して行動している。
ジーと見つめていたら、ちょっとばつが悪そうに、

「妙子さま。学食のデザート半年フリーパスですね。
一夏さま。最近食後に本音さまがお菓子を持って部屋に来るので、妙子さまがよく紅茶を淹れるようになったんです」

「まったく困ったものです」と言いながらジト目で妙子さんを見ている。
初めて妙子さん改め、妙子先生がうろたえた。

「し、仕方ないじゃないですか。紅茶を飲んでいるとどうしても甘いものが食べたくなるんです!」

どうやら妙子さんの行動に違和感を覚えたのは俺だけじゃ無いみたいで、
「ほー」「その気持ちは分かりますわ」と二人とも納得している。
まあ、その気持ちは分かる。俺は日本茶派だが、その気持ちは分かるぞ。
食後ならまだしも、何も胃に入れないでお茶だけだと確かに口元が寂しい。

「あ、でも。あたしか設子さんが一夏さんの相手をした後で、お二人には一夏さんの相手をお願いします。
なんと言っても、白式の操縦技術が上がるのはあたし達にとっては重要な事ですので」

げ、もしかしてお昼に言っていた地獄って……。

「それに一夏さん。、白式には拡張領域が空いていないって事は他のクラスには知られていないんですよね。
だったら、セシリアさんに射撃場で実際に銃を撃ってもらって、射撃の訓練をしているように他のクラスの人が誤解を招くようにして下さい。
そして、箒さんには引き続き剣道場でしごいて貰って下さい。
いいですか? 今まで、雪片弐型しか使わなかったのは銃を使った事が無いからだ。と、思わせて下さいね。
それに、のほほんさんにもそういう噂を流してもらいましょう」

え゛、もうやめて! 俺のライフはとっくにゼロよ。
と言うネタがネットであったな。☆野監督、元気かな〜。

っといかん。現実逃避してしまった。

「妙子先生マジですか?」

「先生じゃないんですけど。クラスみんなが幸せになる為に頑張りましょうね」

「分かりましたわ。情報戦も含めての『クラス』での『対抗戦』というわけですね。それなら異存ありませんわ」

「確かに、そういうことなら私はみっちり妙子さんの期待に答えよう」

ヤバイ。二人が本気になっている。
妙子さんの腹黒い一面を始めて見た。




とりあえず何とか説得して、今日のところは設子さんじゃなく妙子さんとの一騎打ち。
せっかく打鉄とラファールを借りたのだからと、箒と設子さんはアリーナの反対側で訓練している。
その後、設子さんと妙子さんの対戦と、箒&セシリアと俺の訓練とは名ばかりのいじめが待っている。

「一夏さーん。あたし達もそろそろ始めますよー」

俺の前には初めのうちは槍を使っていたが、薙ぎ払う事ができるという事薙刀に装備を変えたエライヤ。……正直あまり似合っていない。
でも、拡張領域が空いているっていいよな。

俺も雪片弐型を構えているが、この人相手に油断なんてモノは出来ない。
トータルの対戦成績では、勝ってもいないが負けてもいない。なぜなら……。


「では、始めましょう」その言葉で、エライヤの二つの楯がゆっくりと動き出す。
この楯、物理防御・エネルギー防御に優れているが、当然攻撃を受けるとシールド・エネルギーを消費する。
訓練当初は防御だけに使っていたけど、今だと結構自由に動かせられるようになって侮れない存在だ。

妙子さんとの間に楯が通り過ぎたときには、構えていた薙刀がマシンガンに変わっていた。
やはりと言うか当然と言うか……。

いつものように俺は白式の高度を上げて何とかロックから外れる事と、少しでも接近戦が出来るような隙を探し出す。
今度は俺が楯を利用して近づくと、エライヤは予想していたように散弾銃に持ち替えていた。

妙子さんの厄介なのは銃器を使うときに、よくセンサー・リンクを平気で切るところだ。
そのために、ロックされている事に気が付かないで一方的な試合になる場合があるが、今回は俺もそれを読んでいる。

接近戦に持ち込む為に使った楯を左足で蹴り上げ、回転して雪片で斬りつけるがもう一枚の楯が断頭台の刃のように真上から襲ってくる。
楯と銃口から逃れるように左に避けるが、それを気にせずに散弾銃が火を噴く。多少喰らったが、試合には問題ない。
本当の問題はまた距離を取られたことだ。

「相変わらず非常識な真似をしますね。火器管制システムを切るなんてなんて無茶な」

「あの距離で殆ど避ける方が非常識だと思うんですけどねっ」

銃から薙刀へ持ち替えて妙子さんは右手のみを使いで背後に構える。その姿はいつでも跳びだせるアスリートのようにぶれが無い。

嫌な事だがこれで俺の勝ちはほとんど無くなる。
接近戦しか出来ない白式だけど、この人防御がめちゃくちゃ上手いんだよ。
あの千冬姉でさえ初見で5分掛ったくらいなんだから、何とかしたいんだけどいまだ突破口が見つからない。

「妙子さんを相手にしていると、銃口と視線、それに指の動きを意識していないと負けちゃうじゃないですか」

まあ、それのおかげで意識すればISが自動的に発射のタイミングを読むようにシステムが構築されてきている。

「まったく非常識な人ですね。あたしだって相当訓練して何とか防ぐ事が出来るようになったのに。
一ヶ月もしないでそこまで行きますか。さすが織斑先生の弟さんですね」

「何言っているんですか。妙子さんだって同じことを設子さん相手にやっているじゃないですか、
あの人相手だと出来ませんよ」

こんな会話をしていても、妙子さんの二つの楯はゆっくりと動いている。

「さて、今日はどうしますか?」

これは、この後の訓練のやり方だ。
生身でも妙子さんを相手に勝つのは難しいのにISとなると、あの楯がかなり厄介になる。

だけど、家族を守ると宣言した以上手心をもらうのは主義に反する。

「いつも通りでお願いします」

そう、いつも通り。妙子さんは二つの楯と近接武器での戦いになる。
雪片しか持っていない俺には、妙子さんの防御を崩さないと他の人相手に戦いにならない。

「分かりました。では、どうぞ」

銃器は苦手との事だが彼女は、あのセシリアさんにだって黒星をもらうことは少ない。
攻撃は苦手な分それを補っても余りある防御能力。―――そして、集中力と体力。

『トータルの対戦成績では、勝ってもいないが負けてもいない』
これは、殆どが引き分けに終わるからだ。
それでも、彼女と戦った者は負けを認めている。いくら攻撃しても怯まない。
そして、こちらのエネルギーが底を着きそうになる頃にはもはや体力の限界だが、彼女達はまだ余裕がある。

「それじゃ、行きます!!」

宙に浮いている足元に向かって、イグニッション・ブーストで接近して彼女の足を雪片で切りつけるが当然避けられる。
だが、力いっぱい振るった雪片を無理やり止めて、その運動エネルギーを支点に一回転して踵で浴びせ蹴りを仕掛ける。

「残念賞」そう言うと、長い柄を使い防ぐどころか足を絡め取る。
両足のスラスターを使い、地面に向けて逃げる。
それを追ってくるエライヤ。
地面すれすれで急上昇してやり過ごすと、目の前に楯が立ちふさがる。後ろからは土煙を振り切って接近するエライヤ。

楯にタックルを仕掛け無理やり逃れようとするが、寸前で進路が空く。
しまった!! と思ったが、楯の影からもう一枚の楯が、ガ○ラのように回転しながら襲ってくる。
左右に逃げても軌道を修正されるだけなら、少しでも当たる確率の低い上へ。

かすっただけだが、互いに速度がある以上機体の制御が出来ないまま回転しアリーナの壁に激突する。

「せっかくハイパー・センサーがあるんですから、面では無く空間として認識したほうがいいですよ」

「了解しました。妙子先生!!」

「まだそのネタを引っ張りますか?」と呟いている相手に雪片で接近し逆袈裟切りを仕掛けるが、薙刀で止められる。
が、この人相手にまともな攻撃方法は殆どいなされてしまう。だから、雪片をその空間に置くようにして、イグニッション・ブーストで肘鉄で攻撃する。
妙子さんの体勢が崩れたところを思いっきり蹴り飛ばす。

「よし!!」

「『よし!!』じゃ無いです!
女の人の顔を蹴るのは嫌われますよ」

「問題無い。今まで、もてたためしが無いからな。
それに、しっかりガードしているじゃないですか」

自慢ではないが、デートすらしたことが無い。
リア充爆発しろ!

「・・・・・・」何か呟いているが、声に出していないのでハイパー・センサーでも拾えない。何故かとても不愉快な事を言っているような?

「一夏さん。朴念仁って言葉知ってます?」

「無愛想な人の事だろ? それくらいは知ってるけど、それが何か?」

箒は小さい頃から難しい言葉をよく使っている。
意味が分からなくて、よく辞書を引いたもんだ。・・・・・・そう言えば箒も朴念仁って言っていたような。
俺はこんなに友達がいるのに、無愛想とはこれいかに??

「了解しました。では、ちょっと厳しくしますよ」

・・・・・・

・・・



「ISで関節技は卑怯だと思います。それこそ女子がやる事ではないと思うんですけど」

「何言っているんですか。地面に叩きつけて外した人が」

「それに、スキンバリアー(皮膜装甲)の限界までジャイアント・スイングするのはどうかと・・・・・・」

「それこそ、あのGでブースターで飛んで行ったくせに」

「せっかく『零落白夜』を使ったのに全部避けるなんて」

「それは一夏さんの使い方が悪いです。使い始めたら最後までずっと起動し続けているからバレバレじゃないですか。
せめて、通常モードの合間に使えばあたしだって負ける可能性があったんですよ」

「体力お化け」

「失礼な。鍛え方と起動時間が違うだけです。白式を装備ではなく体の一部にして下さい」

妙子さんは、模擬戦に関しては一切妥協を許してくれない。

「セシリアさーん。一夏さんが白式を自分のモノにしたいそうなので、ビットでの訓練を希望してまーす。
箒さーん。体力をつけたいそうなので、後で道場で相手をして欲しいらしいですよ」

げ、地獄を見るって言っていたが、妙子さんがその道を切り開いている。

今日は死んだかな?






後書きみたいなもの

女性に興奮すると強くなる人(ヒスる人)が出てくる小説を参考に戦闘途中で会話を混ぜたのですが、上手くいきましたでしょうか?
さすがに難しいですね。
あぁ、本来なら『酢豚』の所まで行きたかったのに・・・・・・。また行き当たりばったり。


※裏設定
妙子さんは匂いや音、それと経験で生身のまま銃撃を防ぎますが、
一夏君はハイパーセンサーを利用してます。
最適化のときに戦い方を観察していた為に、『見る』・『情報を知る』事が原作より上になっています。
それとセンサー・リンクを切るとロックされたことに気が付かない。とは、自己解釈です。
二巻で一夏君がラウラさんに命中させた事があるので、火器管制システムを使わないと相手は気が付かないとしました。

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