小説『IS 戦う少年と守護の楯』
作者:天地無用生もの注意()

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13話 小さくても大切な約束

「うんーん」
「困りましたね・・・・・・」
「たえたえ。紅茶お代わり」

今、あたしの部屋には三人いる。
メンバーは、一夏さんと本音さん、それにあたしだけ。
設子さんは箒さんの護衛の為に隣の部屋にお邪魔しています。

「しっかし、その簪さんだっけ? ISを一人で組み立ててるんだろ?
いったい何人の専門家がISを作り上げるのに必要とされているんだっけ??」

言いたい事は分かります。それこそ何十人の専門家が設計・開発に必要なのに・・・・・・。

「一人だけ一から全部作れる人を知っているんだが・・・・・・。アレは規格外だからな」

そうそう、あの人は規格外。変人とかマッドとか言われている科学者なんですよね。内線ですぐに呼び出せますが。

「むー。おりむー。そうじゃなくて、かんちゃんが一人でぜーんぶ済ませよう。って言う方が問題なんだって」

あ、状況説明していませんでしたね。
放課後の訓練の後、クラス対抗戦で偽情報を本音さんに流してもらおうと思ったのですが、
その本音さんが「助けてー」と部屋に乗り込んできました。
ちなみに今日の本音さんのパジャマ代わりは黄色い電気ネズミの着ぐるみです。何でも一番人気だとか・・・・・・。

それはともかく、布仏家はあの更識家に代々仕えているらしく、本音さんの仕えている相手がISを一人で組み上げる。という暴挙に挑戦しているとの事。
本音さんとしては、せめて手伝いくらいしたいのだがそれも断っている。
ハッキリ言って無謀だと思うのだが、姉であるセクハラ生徒会長がその馬鹿なことをやってしまったものだから、『妹』として『姉』と同じ事をしたい。
という、憧れがいつの間にか『何でも自分ひとりでやる』と意地になってしまったようだ。

それでもって、一夏さんはというと、「嫌な予感がしたから逃げてきた」との事。
非科学的だ。とか根拠が無いと言われようが、あたしみたいな職業に就いていると馬鹿に出来ない感覚なのです。
だからこそあたしは、今まで無事・・・に? 
無事かどうかはともかく、何度か命の危機にさらされても生きてこられたのは勘がよかったという事もある。
その感覚を一夏さんはもうすでに持っているみたいだ。

「それはともかく、何で未完成のISなんて引き取ったんだ?」

「うわっ。それかんちゃんの前で絶対言わないでね。
んーとね。かんちゃんの『打鉄弐式』は倉持技研で作っていたんだけれどね、おりむーの白式に人手を取られちゃって・・・・・・」

―――その勘は持っていないようだ。

「分かりました。ごめんなさい。俺のせいですね。二度と言いません。
それはともかく、のほほんさんとしては『打鉄弐式』を完成させたいと」

「だーかーらー、そうじゃないって」

「一夏さん。そう言う訳じゃないんです。
どうやら、簪さんは人に頼る事を是としないみたいですね」

「そうそう」と頷く本音さん。そして持参したポッキーを食べる。
ポリポリと食べるその姿にリスを思い出した。リスも齧歯類だから着ぐるみととても似合う。いや、本音さんが小動物的なのか?
本当に設子さんとは別系統の癒し系だね〜。

んー。それにしても、隣が騒がしいな・・・・・・。

「のほほんさん。その簪さんっていう人の性格とか詳しく教えてくれないか?
でないと逆効果とかあるし、余計に協力しにくい状況になりそうだ。
好きなものとか、はまっている物とか・・・・・・。何でもいいんだ。
それに、のほほんさんは昔から知っているんだろ。だったら」
「一夏!! 幼馴染が来たっていうのに何で部屋にいないのよ!!」

バタンッ!! とドアが勢いよく開かれて鈴さんが現れた。

「本音さん。相手の性格をよく知らないとこうなっちゃうみたいです。実に良い例ですね」

突然現れた鈴さんに驚いて本音さんは食べていたポッキーを握りつぶしてしまったようだ。

「鈴。いくらなんでも非常識だと思うぞ。あと落ち着け。
それと、忘れているかもしれないがここの寮長は千冬姉だ。もし見つかったらただじゃすまない。
で、いったいどうしたんだ?」

織斑先生の名前で怯んだと言うより正気に戻ったのか、肩を落としすごすごと部屋に入ってくる。
あれ? この部屋って、あたしと設子さんの部屋ですよね?
まあ、鈴さんに続いて箒さんと設子さんが入ってきてドアを閉めているから、仕方が無いんですけど。
それにしても一夏さんって本当に鈴さんの事よく知っていらっしゃる。今のにまったく動揺していない。

「設子さん。状況説明お願いします」

「鈴さまが部屋に来て箒さまと部屋を代わってほしい欲しいらしいです。
何でも、特訓の後一夏さまが、よく知る相手が同室で助かったとの発言が原因のようです。
それを聞いて、幼馴染だったら自分にも権利があると・・・・・・」

「つまり、被害者同士が加害者に賠償責任を求めている。
そう考えていい良いんでしょうかねぇ?」

あたしのまとめが気に入らないのか、一夏さんは何か言おうとしていたが設子さんの「そんなところです」の一言で撃沈。

「りんりん〜。ポッキーの恨み!! たっちゃん直伝のおしおきだべ〜」

本音さんが抱きつき、鈴さんの体をまさぐりながら手をコショコショとくすぐっている。
あー。この二人、男が近くにいることを忘れていませんか?
鈴さんの服がかなり危ない状態なんですが・・・・・・。

「あ、あの、妙子さま。止めないんですか」

ワタワタと慌てる設子さん。相変わらず猫かぶりが上手いですね。
鈴さんはともかく、本音さんの顔が実に嬉しそうに笑っているところを見ると、特に問題なさそうです。

「一夏さん。さすがにああいうのは見たらダメです。覗き行為になってしまいますから。
なので、お茶にを淹れましょうか。設子さんは部屋の片付けをお願いします。
あと、あの二人は楽しんでいるので気にしないほうがいいみたいです」

何か混沌としてきたなー。




二人部屋なのに、一夏さんご一行と本音さんの計六人が集まっている。
なんとなくこの人数より増えそうなのは気のせいだろうか?
後で大きなちゃぶ台と座布団でも用意してもらうべきか、経費で落ちるかな?

「本音さん。とりあえず、一夏さんの問題から話し合っていいですか?」

「かまわないよー。かんちゃんの方は性格の問題だから、すぐに解決すると思わないしー」

本音さん。一応仕えている立場の人間ですよね? それで良いんでしょうか??

「それにー、仲良くしないと メッ! なんだから」

なごむなー。しっかし、こういう人も居たんだ。
テレジアでは護衛対象が悪魔の子のようだったからな。たぶん大丈夫だと思うけど本音さんにも注意しよう。
設子さんだって最初は・・・・・・うん、あの頃を思い出すのは止めとこう。

「って、本音さん! 人のクローゼットを物色するのは止めて下さい!!」

そこは危ないんだ。バ課長がまた変な仕掛けをしているんだ。

「たえたえ〜。もうすぐ春物に替えといたほうが良いよー。せっかくの学園生活に潤いが無いよ〜」

まったく。残念そうな目で見ないで下さい。スカートなんて穿きたくないからワザワザ女性誌を買ってズボンに合う物ばかりを選んだんです。
スカートは制服だけで十分です。それに、それに素肌を晒すと傷の説明が面倒なんですから。
バ課長は可愛い服を送るし、設子さんは露出の多いちょっときわどい服を選ぶし、あたしにはそんな趣味はありませんからね。
アイギスの休憩所に置きっぱなしにしていた女性職員に感謝しないと。

「妙子さまは昔の怪我で、あまり肌を出したく無いそうなんです。
・・・・・・やっぱり、あの雑誌を休憩室に置いておいてよかった・・・・・・」

ん? 後半がよく聞こえなかったが、分かっているならスリットの入った服を薦めないでくださいよ。

「一夏。ここで話さなくても『私達』の部屋でもいいだろう?」

「そうよ。この話は『私達幼馴染』の問題なんだからさ」

箒さんと鈴さんの戦いは現在も継続中ですか。互いの視線から火花が見えるような気がします。

「んー。みんな友達だから、ここでいいと思うんだけどな〜」

本音さん、あたしの枕を抱きしめて横にならないで下さい。
後で設子さんが拗ねるんです。

「そうですね。お二人も一夏さまと『お友達』なんですから平気だと思いますし、それに・・・・・・」

ちょっと設子さん。二人の気持ちを分かっていて『お友達』って言っているでしょう?

「ちょっとアンタ。それどういう意味よ」

「そうですね。一夏さま、もしこの部屋の中で同室になるとしたら誰がいいですか?」

「そりゃ、箒だろ。もう、一ヶ月も生活しているし生活リズムも知っているから」

即答した一夏さん。その言葉に喜びと優越感が表情に出る箒さん。
だが、甘い。こういう時の設子さんは侮れないですよ。

「では、今日から本音さまと同室になるように織斑先生から言われたらいかがですか?」

「そうだな。初めは戸惑うと思うけど、平気だと思うぞ。
あ、でものほほんさんは朝に弱そうだから、起こすのが大変そうだな」

「おりむー、失礼だよ」と本音さん。でも、想像してみると一夏さんなら『今なら』平気そうだ。

「では、私や妙子さまだったらどうですか?」

「妙子さんだったら平気な気がする。ただ、設子さんだと勉強とか厳しそうだな」

なるほどね。入学当初ならまだしも、今の段階では一夏さんにとっては同じ『友達』でしかないんだ。
やっぱり策士だねー、設子さんは。

「と言う訳で、『今は同じ友達同士』なんですから一夏さまはあまり気にしていないようですよ」

ガックリと項垂れる二人。この場合行動に移していなかった二人が悪いな。

「それと、もうすぐ五月です。おそらく一夏さん用の部屋も用意されているのではないでしょうか?
あの織斑先生がこのままの状況を良しとしないでしょうし、学園としても『間違い』があったら困りますから。
先生方も今はクラス対抗戦でお忙しいと思うので、それが終わった頃に一人部屋になるのではないでしょうか?」

単純に一人部屋の可能性に喜ぶ一夏さん。それと対照的なのがその可能性をまったく考えていなかった箒さん。
具体的な『間違い』を想像して、赤くなる鈴さんと本音さん。『間違い』があったら、束はともかく織斑先生の手で一夏さんは遠くの人になってしまいますよ。
一応これで解決になるのかな。

「うー。納得はいかないけど分かったわよ。
ところで、一夏。あのときの約束は覚えている?」

「鈴との約束? 海にも行ったし、買い物とか映画とかにも付き合ったし。後は・・・・・・」

―――この人、駄目だ。行動に移していないのが悪いと思ったが、この鈍い人が悪い。
なにが、デートしたこともないだ。それは十分にデートになる。
IS関係での護衛任務なんですけど、今まで女の子に刺されていなかった方がびっくりだわ。

「ああ、小学校のときに鈴の料理の腕が上がったら、毎日酢豚を奢ってくれるってヤツか!!」

この鈍感!! 何得意そうな顔しているんだよ。鈴さんの気持ちを考えるとあきらかに間違ってるだろ!!
鈴さんの顔を見なくても分かるわ!!

パアン!

「・・・・・・最っっ低! 豆腐の角で頭打って死んじゃえ。この馬鹿」

涙をこらえて部屋を出て行く鈴さん。そして、呆けた顔でひっぱたかれた頬を押さえる一夏さん。

「今のは、おりむーが悪いよ」
「不本意ながら鈴に同情する」
「アレはひどい」
「女の子の勇気を・・・・・・今回ばかりは一夏さまが悪いです」

あたしたち全員に責められるても、いまいち納得がいかないようだ。さすがにあたしでも分かりますよ。

「一夏。馬に蹴られて死ね」

代表して箒さんがみんなの思いを告げて、部屋を出て行く。

「んー。ところでおりむー? 酢豚にパイナップルはダメな人? 私は平気な人」

本音さん、そこは激しくどうでもいいです。ちなみにあたしはダメな人ですけどね。

「俺はダメだな。温かくて甘いものだけだったら平気だけど、それに酢が入るとちょっと・・・・・・」

「女の敵さん。そんな事より、鈴さんに謝りに行ったほうがいいと思いますよ」

「でも、理由も分からずに謝っていも、しょうがないだろ? 
今は怒り狂ってるから、少し落ち着いてから互いの間違えを確認したほうがいいんだ」

―――なんだろう? 正論なんだけどこの人にだけは言われたくない。







後書きみたいなもの
セカン党の方ごめんなさい。
おいらにとっては鈴さんは扱いやすく、本音さんとのギャグ要員としておいらにとって最高なんです。
そのうち見せ場があるかも・・・・・・。

酢豚にパイナップル。これを書きたいが為に本音さんに登場してもらいました。
簪さんはオマケですね。ただ話しに加わった以上、何とかして更識姉妹を登場させなければ・・・・・・。
いつも通りの無計画です。

今読んでいたら↓になのこれシリーズ IS VOL.2 に本音さんのちょうどいい姿が・・・・・・。
本音さんは今回あんな格好です。

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