小説『IS 戦う少年と守護の楯』
作者:天地無用生もの注意()

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アー!! なんて馬鹿なんだよ俺は!!!
この為の護衛なのに。

観客席を保護するシェルターが閉まってから思い出した。
ここがあまりにも心地よい場所でみんなとの時間が楽しかったから……。
ダメだ。言い訳なんてしている暇は無い。
すぐに行かないと。

「妙子さま!! 扉がロックされています」

「すみません! ちょっと、ちょっとどいてください!!」

扉の横のパネルの上下を部分展開したISで殴りつけ、余計な物を剥がし配線をむき出しにさせる。

「たえたえ。どうするつもりなの??」

「何処かでロックされていても、しょせんは機械。
扉の制御回路をカットすれば、後は動力回路のみ。
爆弾と同じ事です」

どこだ、どこだどこだ!!

「わー、言いたい事は分かるけど物騒だよ……。ちょっとどいて。そういうことなら私の方が得意だよー」

振り返ると相変わらず眠そうな目をしているが、雰囲気だけは自信のありそうな本音さんの姿があった。

「お願いします」と場所を空けると、

「うーんとね。これとこれを切ればロックは外れるよ。
でも、さすがに自動では開かないよ」

「十分です。力仕事なら任せてください」

ISを部分展開から完全展開にして扉を開く。

「本音さん。ありがとうございます。
それじゃ、行ってきますね」

「行ってらっしゃーい。
お礼はポッキーでいいよ〜」

本音さんの笑顔と簪さんの戸惑いの表情を後に駆け出す。

どんな事があっても護ってみせる……







15話 守護者



「なんでですか! なんで山田さんのシールド・エネルギーが0になるんですか!!」

室内に響き渡る山田先生の悲鳴にも似た声。

現在モニターに映し出されているのは山田妙子のIS『エライヤ』。

無人機のビームが接触する前にエライヤのシールド・エネルギーが消えている。削られたのではなく完全に無くなっている。
確かに、シールド・エネルギーとISの起動エネルギーは別だし、流用できるがそれはあくまでもシールドが優先順位が高い。
そう、部分展開ならまだしも完全にISを展開している以上こんな事が起きるはずが無い。

だが、『あの』山田妙子ならこの状態を意図的に作り出している可能性はある。
―――アイギスの守護者ならば、そして守護者に依頼をした人物ならば。

「馬鹿者が。お前だって私の生徒だぞ」

奥歯を噛み締めたままつぶやく事しかできない自分が不甲斐無い。

「先輩! どうして?! 何でこんな事が起こるんですか!!」

教師としての顔を忘れて、私に詰め寄ってくる。
束からの依頼で動いている山田妙子に私が関与できることがあまりにも少なすぎた。

バンッ。

「分からん……。分からんと言っているのだ!!」

山田先生が怯えている。そう、私の右腕が壁を殴りつけていた……。
さっきから拳を握り締めていたときに爪が掌に傷をつけたのか、叩き付けた壁に血の跡がついている……。



    ◇  ◇  ◇




『システム『アイギスモード』により『絶対防御』適用外。機体へのシールド・エネルギーを含む全てのエネルギーを楯『メドゥーサ』の維持に……。
負荷により装備の一部を削除』

音すら光に飲み込まれた世界で、あたしはISからの情報は直接脳に響き渡る。

両腕の装備が消え、ビームを受け止めている楯からの熱で両手が焼けるように熱い。
それでも、楯の『メドゥーサ』からひび割れた破片が四肢のあちこちを傷つけていく。

『脚部装備を削除。これ以上は危険です』

脚部に付いていたスラスターが無くなったせいで、体のバランスが崩れるが背中のスラスターだけだと徐々に後ろに押されていく。

「設子。準備は」

『OKだ。射撃装備『アザミ』。対象を消滅させる』

プライベートチャンネルからの声。
光の中なのに焦りすら感じさせないが、ハッキリ耳へと届く。

そして、零落白夜をもかすんで見える白い光が横を通り過ぎ、衝撃と共に敵からの攻撃が止まった。

設子の一撃であたしの緊張の糸が切れたのだろう、痛くないところなんて無い。
よく考えれば、アリーナの防御壁すら突破できる火力なんだから命があるだけましなのだろう。

まさかこのタイミングで敵が襲ってくるとは思わなかった。だけど、間に合ってよかった。

『アイギスモード解除。操縦者の負荷を少なくする為に『絶対防御』を作動します』

この後の記憶は飛び飛びだった。


たぶん地上への激突を防いでくれたのは一夏さん。

それに、織斑先生が力強く陣頭指揮を取っている姿。

白い天井と設子さんの顔。

そこまでしか覚えていない。



    ◇  ◇  ◇



アリーナの遮断シールドを突き破るほどの威力だ。だが避ける事は出来ない。背後にはまだ箒がいるからだ。
まだ、ISを装備した俺が受けたほうがマシだ!!

「たとえ変えられない運命の星の下に生まれても、僕は君の事守る楯になるよ。
―――『アイギスモード』起動」

下手したら死ぬかもと思っていたときにその声が聞こえた。

パシュン!!ジジジジ……。

目の前の光の滝が裂けている。
ハイパー・センサーで確認するとそこには。

『アイギス所属 操縦者 山田妙子 機体ネーム エライヤ』の文字。

ちょっと待て! あのシルエットは確かにエライヤだが、何であの戦闘機と同じく『IS』の文字が抜けているんだよ!!

「妙子さん! そこから離れろ!! そいつはアリーナのシールドを破るんだぞ」

「一夏。アンタもそこから離れなさい!! アイツを完全にぶっ壊すわよ」

鈴が、俺の腕を取り射線上から無理やり引き離す。

この距離でも聞こえないかもしれない。それでも叫び続ける。

「箒! 早く逃げろ。でないと、妙子さんが!!」

チクショウ! 守ると誓ったのに。なんでこんな事になるんだよ。

動けない妙子さんを背を向けアイツを少しでも早く沈黙させる為に移動したそのとき、
中継室の上からあの戦闘機に向けて同等の光が打ち出される。

そこに居たのは若紫のIS
『アイギス所属 操縦者 真田設子 ISネーム 紫陽花』
右手を突き出し、掌からあの戦闘機と同等の出力のビームを放っている。

似ている。
妙子さんの『エライヤ』では無く、俺の『白式』に似すぎている。

紫陽花からの攻撃で戦闘機が沈黙した為に網膜に光が残るほどのエネルギーが消えていく。
そして、残ったのは殆どのパーツが消えたエライヤとボロボロの楯、体中に楯の破片が飛び散った為に傷ついた妙子さんだった。
ゆっくりと地面に落ちていく妙子さんを抱きかかえると、ISスーツのあちこちが破れて血が滲んでいる。
そして、妙子さんのISスーツが他の人よりも肌を隠している面積が広い理由を知ってしまった。

「一夏さま。妙子さまを治療するので渡して下さい」

「設子さん……。妙子さんって」
「早く渡して下さい」

怖かった。いつも困った顔で笑う妙子さんのこの姿も、その先を想像できる運命も、
普段の優しい笑顔の設子さんがISを展開して目に涙を浮かべながら無表情で近づいてくるのも怖かった。

「織斑! 突っ立っているだけなら、早く真田に山田妙子を渡せ。後は私が治療する」

走ってきた千冬姉に言われたままの行動をすると、手が震えているのが始めて気付いた。そして、何も出来ないまま俺は地面に座り込んだ。

「千冬さん! だったら私も」
「篠ノ之。織斑が動けなかったのはお前が居たからだ。そしてそれを護る為に山田妙子が動かざるをえなかった」

「箒さま。本当に貴女は分かっていないんですか?」

自分の無力さを思い知らされているところに、箒まで巻き込まれている。
それ以上に、あの優しい設子さんの目尻に涙が溜まっている。

「妙子さまの体には、たくさんの傷があるんです。それこそ、今のように誰かを守るために傷ついた痕が、
一夏さまなら、この意味は分かりますよね」

そうだ、俺を護って防弾性のISスーツがあちこち破れていた。
そして、その隙間からわずかに見えた素肌には引きつったような白い痕がたくさん見えた。
破れた所もほんの一部だが、血が流れている傷口のそばに古い傷痕がたくさんあった。・・・・・・そう、有り過ぎた。
結局俺はこの人のお荷物でしかなかった。

「妙子さまは優しい人です。ですが、原因を作った貴女を今は許せるほど私は優しくないんです」

―――申し訳ないと思うが、俺には箒を庇う事が出来ない。
俺みたいな無力の人間を護る為に・・・・・・、傷の位置からして現実に命の危機に陥った事もあるのだろう。
それを隠して笑顔でいられるということは、男だったら誇れる事だが妙子さんのような女子には相当の覚悟と実力が無くてはいけない。

「箒。これ以上設子さんを・・・それだけじゃない。妙子さんを困らせないで上げて欲しい。
俺たちじゃダメなんだ。心配する事は出来ても、それを理由に自分の罪悪感を少しでも減らす事だけはしちゃいけない」

俺は強くなった。
わずかな時間とはいえ、代表候補の鈴と渡り合えるくらい強くなった気がしていただけだった。
それでも足りない。こうして怪我を負わせてしまうくらい弱い。
そんな俺達が彼女の気遣いを暴くような事だけはしちゃいけないんだ。

「一夏さまはご理解なさったようですね。
ならば、強くなってください。妙子さまが無茶をしないくらい強くなってください」

そう言って設子さんは『アイギスの守護者』を抱きかかえ立ち去っていく。

ドガン!!

俺は自分の力の無さを地面に叩きつけるだけしか出来なかった。


「ああ、強く。強くなってみせる」


ISを手に入れて千冬姉の負担を減らしたと思っていたが、仲間の足を引っ張るような弱いままの俺は要らない。







「篠ノ之。お前は山田妙子が動けるまで回復するまで部屋を移れ。そして、この部屋に近づくな。
織斑が移動する予定だった部屋にたった今から移動しろ」

治療が終わり、やっと面会の許可を得ることが出来た妙子さん達の部屋で包帯に巻かれて眠っている姿を立ったまま俺達は見ている。

「織斑先生! ですが、私のせいで……」

「そうだ。山田妙子が無茶をしてこうなったのは、お前の浅はかな行動のせいだ。
真田。すぐにこいつらを移動させる。だからもう少し落ち着いてくれ」

落ち着く? 何を言っているんだ。設子さんはずっと妙子さんの手を握っているだけだ。命に別状がないと告げられたときから変わっていない。

「ですが、せめて詫びを……」
「声を落としてください、箒さま。少しでも休ませて下さい」

いつもと同じだ。そう、いつもと同じ設子さんの喋り方。
なのに、どうして体が言う事を聞いてくれないのだろう。

「箒さま。貴女は本当にあの天才篠ノ之博士の妹ですか? 
妙子さまが大浴場を使った事が無いのを理解していますか?
この人の体は傷だらけです。そのような体を他の方に見せるのは相手にとって負担がかかると思ってずっとシャワーだけで済ませていました。
貴女が居ると妙子さまが気を使うんです。そんな優しすぎる妙子さまにこれ以上迷惑をかけるのでしょうか?」

声がでない。
それ以上に呼吸すら意識をしないと上手くできない。
最強の名を持つ実の姉とは違った恐怖を体が感じ取っている。

「真田。少しは落ち着け。
言っておくが今のお前の気配の方が落ち着かんぞ」

その言葉に設子さんの肩がピクリと動いて、カーテンからの陽の光が初めて差し込んだ気がした。

剣術道場に通っていたから、殺気というモノを実感しているが、今までの設子さんのソレは殺気の種類が違う。
セシリアのは針のように突き刺さるし、箒は斬りこむ瞬間にその太刀筋に沿って襲ってくる。鈴はハンマーのように叩きつけられる。
千冬姉は俺とは桁が違いすぎてよく分からない。

それを考えても設子さんの殺気のようなモノは明らかに異質だった。
俺達全てを飲み込み閉じ込められるような感覚を今まさに味わった。いったいこの人はどんな経歴を持っているのか……。

「織斑、お前もこの部屋から出て行け。
山田妙子のバイタルは正常に戻ってきている。しばらくすれば意識も回復するだろう……。
だが、さすがにこの人数では多すぎる。私と真田だけで十分だ」

「分かりました。
では、箒の手伝いをしています。妙子さんが落ち着いたらまた来ます」

千冬姉の言葉があって助かった。
逃げたい…。いや、正直に逃げ出したかった。設子さんの雰囲気もそうだが、俺には今の妙子さんの姿を見続けるのが苦痛だったのだ。
俺が弱くて、守られるだけの自分が生み出した結果なんだけど、きっと妙子さんはそんな俺の情け無い顔なんか見たくない。
そう思う事でこの場から立ち去りたかった。今は軟弱者と呼ばれてもいい。
だけど、設子さんと約束したように必ず強くなる。目の前の現実を受け入れられるくらい……。



   ◇  ◇  ◇



また一人扉から出て行った。
話の内容からすると、今部屋に残っているのは設子と織斑先生のみのようだ。
それを確認するためにゆっくりと瞼を開く。

「やはり意識は有ったようだな。脳波は起きている状態なのに眼球移動していないとなると、狸寝入りしかないぞ。
―――それで、今回ばかりはきちんとした説明をして貰いたいんだが、後の方がいいか?」

設子の目が心配そうに揺れているが、今回ばかりは無視させてもらう。

「設子、さっきの戦気は素人さんにはきつかったと思うぞ」

「ISに乗る以上、アレくらいは経験しておかないと動けなくなりますから」

「分かったよ。それじゃ、織斑先生。こっちも聞きたいことがあるから束を呼び出しますね」

「まあ待て、アイツはもう呼んでいる。今回はあの馬鹿が狙われたんだ。それにあの無人機についても聞きたかったからな。
束!! 出て来い」

「ホイホーイ。束さんの登場だよ♪
ちーちゃん、ヒドイよ。せっかく箒ちゃんと会えると思ったのにな」

織斑先生が移動すると、ベットの下から束が出てきた。
?? 何故そこに居たんだ?





後書きみたいなもの
ちょっと長くなったので分割しました。次回は説明が多いのでもう少しお待ち下さい。

それと今頃になって楯の名前が出ました。
「恋楯」のアイギスのマークで瞳が一つだったのでメドゥーサの瞳が二つという意味と、
アイギスの双楯の二つ繋がりでなんとなく二つの楯にしました。

自己解釈の『気』関係のメモ
気配(平常時)<戦気(格闘技の試合等で観客も熱くなる感じ)<殺意(殺す為の手段が滲み出ている。刀の太刀筋等)<殺気(どんな手段でも必ず殺すという気持ち)
一夏さんは箒さんの太刀筋の前に殺意を感じて避けたり防いだりしています。
なので、千冬さんの殺気は漠然としか、感じられません。
殺気とか分かりやすかったら格闘技で避けまくってますからね……。



『紫陽花』の花言葉。「あなたは美しいが冷淡だ」 等
『アザミ』の花言葉。「厳格」「復讐」「触れないで」 等

設子さんのISは花言葉を使っています。ただ、そんなに多くは無いですけど。
と言うか自分で名づけて花言葉が怖い。

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