小説『IS 戦う少年と守護の楯』
作者:天地無用生もの注意()

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「まったく、アンタ達馬鹿なの? あの人は自分の意思でやったのよ。
そんな顔していたらあの人に申し訳ないと思わないの??」

部屋から出てきた二人の辛気臭い顔を見ると頭に来る。
自分は自分の責任の下に行動した。
この二人はそれを冒涜している顔だ。

「ああ……、すまん」
「『すまん』じゃないって言ってるでしょ。アンタはあの人に『ありがとう』って言わないといけないのよ!!
―――で、そっちはそっちで落ち込んでます。って言うポーズのつもり?
っざけんじゃないわよ!!
いったい何様のつもり?
良かれと思った事が最悪の結果になっただけじゃない。
ウチの両親だってね、離婚したんだからね。本人達は納得しているかもしれないけど、私にとっては店をたたんで中国に帰る事になったんだからね」

私の家の事を知っている一夏は驚いた表情をしている。
―――だけど、今はこんなヤツにかまっている暇は無い。

「だが、私のした事は妙子さんを傷つけてしまった。……会わせる顔が無い」

っとうにムカつくわね。
今にもこの学園から去ろうというような顔。
少し前まで、ライバルになると思っていたのに。

「アンタさ。あの『篠ノ之束』の妹でしょ?
ISっていうのは、元々宇宙開発の為の装備なのよ。それが大人達の勝手な思惑で今の形になっちゃったんだけどさ、
少なくても私はあの人を尊敬できるわ。
だって、目標の為に一人でISを作っちゃったんだもん。
それなのにアンタは何もしていない。
ただただ、現状を甘んじているだけじゃない」

「―――じゃないか……。仕方ないじゃないか! 妙子さんがああなったのは私の責任だ。だったら……」
「だったら何? ここから出て行くって訳? 
バッカじゃないの。そうやって辛い事から逃げていく人生を送るの?
今回がダメだったら、次に繋げればいいじゃない。
それともアンタは『ごめんなさい』と『ありがとう』も言えないような人間なわけ?
少ない時間だったけど、アンタはそんな事ないと思っていたんだけど……。どうなの『篠ノ之箒』」

ぎゅうっと拳を握り締めている箒。さっきまでの後悔とは違う決意の表れが見えた。

責任を取らない大人は一緒の空気を吸うのが耐えられないほど嫌いだ。
だが、責任を感じて身を引くような軟弱者はまだマシだ。お父さんなんて話し合う猶予もなかった。
だからこそ、私は箒に対して怒れることが出来た。

まったく、世話が焼けるんだから……。






16話 ISとは……




「しかし自分で呼んでおいてなんだが、この学園のセキュリティをどうやって抜けてきたんだ?」

そういえば、束の居場所って一般には伏せられているんだよな。織斑先生にも言っていないんだ。

「ちーちゃんの為なら例え火の中水の中、ってね。
それはともかく、呼んどいてそれはないんじゃないかなー? かなー?」

無駄にリアクションの多い束。そしてそれを冷たい目で見ている。
たぶんいつもの事なんだろうけど、誰もツッコミまないのかな?

「ふん、まあいい。それで、あの無人機の事なんだが」

え? 一応怪我人の俺を置いてそっちに行くの?

「あー、ちーちゃん。それは違うよ」と束。

「アレは確かに束さんが設計した『ゴーレム?』なんだけど、ずいぶんと昔の作品なんだよね。
でも、まさかアレを完成させられるとは思わなかったよ。特に『劣化コア』なんて作れるとは思わなかったしね」

「束さま。『劣化コア』とは?」

立っているのが疲れたのか、俺のベットに座る束。
―――勘弁してほしい。今の状態だと、えーと……その、女性の象徴のふくらみが目立つんだ。

「あれあれ? タエちゃん、もしかして束さんに欲情しちゃった? 怪我をしたって聞いたからワザワザこの服で来たのに」

あー。この人の考えている事がいまいち分からないが、いつもの機械で出来たウサギ耳とナース服はどうかと思うんだが……。
設子の視線が怖いしな。

「いろいろすまんな、山田妙子。この馬鹿は昔からこうなんだ」と織斑先生。
イエイエ、ウチのバ課長と意気投合している時点でろくでもない奴だと理解してますから。

「じゃあ、なぜなにISを始めようか」

(この無駄に技術を使うのは、何とかならないんですか?)

(それを含めてすまんと言っているんだ)

織斑先生とのアイコンタクトがあった理由は、投影型ディスプレイに白式のスペックが表示されているのは分かるが、
室内のテレビにデフォルメされた白式が動いている。
しかも、束は白式を動かす為に現在進行中で投影型キーボードで操っているからだ。

「ちーちゃんには今更だから聞いていても面白くないけど、あの作業機を作った理由にもなるから聞いていてね♪」

「ちょっと待て、アレが作業機なのか? 俺のエライヤでもあの攻撃は危険だったんだが……」

「もちろんそうだよ。それを含めて説明するね。
うーんとね、あの作業機はISとは呼ばないよ。ISって言うのは人が動かしてISって言うんだ。
タエちゃん。君は……いや、世界はISを誤解しているよ。
ISのコアにはそれぞれ擬似人格が存在するんだ。擬似人格は人と触れ合って初めてISを動かせるようになる。
だから、今回の作業機はISの定義に入っていない。だからね、タエちゃんのお願いで『絶対防御』を外すシステムを組み込んだんだけど、
これもISの定義にはあってはならない事なんだ。
って言うか、せっかく束さんが説明してるのに質問を入れない。質問があるときは手を上げてからが常識だよ」

この人に常識を諭されるなんて……。
設子さんが頭を撫でて慰めてくれるが、できれば仕事モードに切り替わって欲しい。優しさってときには人を傷つけるんだ。

ピピピピピ……。

通信機が呼び出し音が。
正直嫌な予感しかしない。

「もしも」
『妙ちゃん。怪我したって本当!!
うぬぬぬぬ。こうなったら我がアイギスの全能力を持って、相手をせんめ』
「ウルサイ。今俺たちは大事な事を聞いているんだ、後にしてくれ」

ピ。ツー・ツー・ツー。

「あ。さっきのは気にしないで下さい。続きをどうぞ」

冷ややかな視線が集まる。俺か? 俺が悪いのか??

「―――山田妙子。その姿で『俺』と呼んでいると違和感があるんだが」

一応ここに居るメンバーは全員俺が男だと知っているはずだが、何故そんな哀れみの目で見るんだ?
まあ、ウイッグも着けてるし多少の違和感が……。

「何でこんな服着ているんだよ!!」

「あら、お気に入りませんでしたか? そのベビードールのネグリジェ。
一夏さまがいらっしゃったので、怪しまれないように偽装したんですよ」

設子さん。またアンタの仕業か。
確かにこれだと一夏は傷口を見ようとはしないはずだが、いくらなんでもやりすぎじゃないのか?

「いやー。まさか束さんのペースを乱す人が居るとはね。ちょっとびっくりだよ」

気が付いたらこんな格好になっている俺の方がびっくりだよ。

「なんかもう説明が面倒臭くなっちゃったんだけど。しかも似合っているのがすごく腹立たしいんだけどさ。
とりあえず、ISって言うのは人が宇宙空間での活動の為のマルチフォーム・スーツフォーム・スーツなんだよ。
だから、今回の作業機はISの定義に入っていないんだ」

画面上で白式が手作り感溢れる星の間を飛んでいる。
いったいこの人は何をしたいんだろうか?

「でもね。宇宙では何が起こるか分からない。それこそISだけでは突破できない空間を調査とデブリ(宇宙ゴミ)の排除の為の作業用ロボット。
それが『ゴーレム?』なんだよね。
ついでに言うと、『ゴーレム?』は資材搬送用で、『ゴーレム?』は万能型。もっとも、二つとも設計までしかやっていないんだよ」

白式がビームを放つゴーレムの後ろをニコニコと飛んでいる。

確かに宇宙空間には沢山の異物がある。そんな中をISだけで行くのは無謀だな。

設子が手を上げて「質問です」と律儀に束に合わせている。

「うーん。タエちゃんのお嫁さんはいい子だね。で、何?」

「ISは『絶対防御』が発動すると、操縦者が気を失うのは何故なんでしょうか?」

「実にいい質問ですね〜。ではお答えしましょう。
ISに隕石が当たったらどうなると思う?
当然機体なんてあっという間に壊れちゃうよね。
機体が壊れたときに自暴自棄になって衝動的に自ら命を絶つ。ってこともあるんじゃないかな? でも、そんな事はさせたくない。
そうゆう状況になったときに、『絶対防御』が働いて、操縦者の意識を刈取り、残ったエネルギーで救援を待つ為のものだよ。
それが、『絶対防御』の役目なんだ。
タエちゃんは護衛に付く為に絶対防御が発動したら意味が無いって言っていたけど、できるだけ『アイギスモード』は使わないでね」

確かに…。宇宙空間で一人きりになってしまったら、とてもじゃないが耐えられる気がしないな。
織斑先生との入試試験で絶対防御が働いてしまった為に、システム的にカットしてエネルギーを楯に集中してもらったんだが、そういうことなら納得出来るな。

「それにね。
ISは『コア・ネットワーク』で繋がっているから、もし事故があったときに位置座標が分かるようになっているんだ」

おおー。そういったシステムが組み込まれているのは知っていたが、そういう理由だったんだ。

「あ。だったら、束。IS自体は何であんなに露出度が多いんだ?
それこそ、あの作業機みたいに全身装甲にしないんだ?」

正直、アレは目の毒なんだよ。

「ん? そんなの簡単だよ。今のISは競技用になったんだから、私が嬉しいに決まっているじゃない。
大体、最初につくった『白騎士』は完全装甲なんだよ。って、一般には知られていないのかな??
それにたかが競技とは言えちーちゃんが装備するんだよ。どうせだったらそのスタイルを余すことなく全世界へ公開したいじゃない」

趣味の人だな。
まー、束らしいちゃらしいけどさ。まあ、織斑先生のチョップをくらったのは仕方がないと思う。

ISを世界に知らしめた『白騎士事件』存在自体は誰もが知っているが、完全には情報公開されていない。
せいぜい、ピントの合わない映像がネットに流れたくらいだ。

「俺が見たのはぼんやりとしか見えなかったな。
なあ、束。そういえばあの白騎士事件ってお前がやったんだろ? 今だから言うがミサイルが一つでも落ちて、一般人に被害が有ったならお前を許さなかったぞ」

正直、『あの事件』のおかげで各国がミサイル開発よりもIS開発に力を注いで、俺や設子のような戦争孤児が生まれる可能性が少なくなったのはありがたいが、
それでも何も知らない人を危険にさらしたのは間違いない。
俺もそうだが、人を傷つける武器を持つ以上、自分の命を失う覚悟は出来ている。束はそのことを理解しているのだろうか?

「う……。いや、えっと……ね。あのときは束さんも若かったから、ちょーっと無茶をしちゃったんだよ。
でもでも、触接信管のミサイルはちー……、白騎士さんが居るところにだけに使ったし、……それにほら、白騎士さんの集中力が残っている前半だけで、後半は不発になるように仕組んでいたから……。
―――だめ?」

束にしては珍しく、上目遣いで許しを請う仕草だが、今の状況でやられると、その、胸が強調されるんだ。特にその服装だと……。

「あ゛ーーー! 被害が無かったから良かったものの二度とやるんじゃないぞ」

クソ、こいつ俺の性格を見切ってやってやがる。少しずつ俺のほうににじり寄って来るんだから間違いない。
謝られたり、頼まれたりするとイヤと言えない自分の性格が憎たらしい!!

「あー。良かった。タエちゃんに嫌われるとさすがに傷つくからね」

だからその胸を抑えるなって、同じ人間なのに女って生き物は何でそんなに軟らかい生き物なんだよ!!

「えっと、話を戻すけれど、そういった事で『絶対防御』と『コア・ネットワーク』はISに欠かせないモノなんだ。
んー。そうなると『エライヤ』は命を護るタエちゃんだから『アイギスモード』なんてものを使ったときはどうなるんだろうかな? やっぱり定義には外れるから『アイギスモード』発動中なんかはISではないんだよ」

ほてった顔に風を送りつつ聞いていると、さすがISの開発者。教本に載っていない裏事情どんどん出て来る。

「おい。そろそろこちらの質問に移って良いか?
あの無人機…。いや、束の言う作業機はいったい誰が作ったんだ?」

「知らない」

へ?

「待て、束。お前が知らないってどうゆうことだ?」

うん。悪いが俺も織斑先生と同じ意見だぞ。
しかも、束が言っていた劣化コアってヤツを作れるのは相当な技術力じゃないと出来ないはずだ。

「え? あれ?! ちょっとみんな誤解してるよ。
束さんは科学者であって、情報屋じゃ無いんだからね」

「では博士。その『ゴーレム』の設計図と『劣化コア』両方作れる組織は?
また、その情報が漏れる可能性は?」

―――設子。切り替えが早いな。

「うーん。『ゴーレム』自体ならISとほとんど同じだから、ISを製造している国ならばいけると思う。
あと、『劣化コア』と言っても普通のコアに近いだけで、まったく別物なんだよね。
ISのコアは擬似人格と操縦者のの意思が合わさって動くんだけど、『劣化コア』は操縦者に合わせない分、ほとんどロボットに近いんだよ。
今回の作業機は詳しく調べていないからハッキリとは言えないけど、あそこまで動かせるとなると……。
―――人の脳を使ったのかもしれない」

「束、俺からも質問だ。お前はそんなものを作ったのか?
もしそうならこの依頼は降りるぞ」

いくらなんでもやってはいけない事がある。人の命なんてものは簡単に失ってしまう事が多い。だからこそ故意にそんな事をする奴たとえ仕事でも関わりたくない。
俺の知っている『アイギス』……。いや、課長なら理解してくれるはずだ。

「違う違う違う!! 『劣化コア』っていうのは束さんがプログラムした擬似人格なんだけど、操縦者との共存する事が出来なかったんだってば!!
それを改良したのがISのコアなんだって。他にも知られていない事があるんだけどさ。
それに、あの作業機が本当に人の脳を使った『劣化コア』だって、決まったわけじゃないんだから、信じてよ!!」

ふむ。いくらなんでもさすがにそこまで非道にはならないようだな。
そうなると本当に裏側の組織、又は国……、は無いな。いくらなんでもリスキーすぎる。

「お前が馬鹿なのは知っていたがな。さすがに非人道的な事をやったら幼馴染である私がきちんと(生命活動を)止めてやる」

「あのー。ちーちゃん? さっきすごく物騒な事言わなかった?? 処刑台に送り込まれそうな気がするんだけど」

「小さい事は気にするな。それで、イギリスでISが強奪されたのは知っているな? 
そいつ等と関係あるのか?」

そういえば、更識楯無がそんな事を言っていたな。

「んー。可能性は無くはないけど、かなり少ないよ。
だって、『ゴーレム?』が大量生産されれば、たかが代表候補生ぐらいわけないじゃない。
だから、別の組織だと思っていいよ。
それにあの子はネットワークから外されちゃったから、今の束さんでも居場所が分からないんだよね〜。
……ひょっとして反抗期?」

「博士。そうなるとISを強奪する組織と、『ゴーレム?』を製造した組織は別の狙いがあると……。
その内一つは織斑一夏を狙っている……。そう考えていいんですね」

「うん、そういうことー。
理解が早い人は好きだよー。アデッ」

危機感の無い束を織斑先生が拳骨を落とし、

「お前は理解が足りない。一夏が狙われているのならば、一緒に行動するお前の妹の箒も危険が迫っているんだぞ」

「うー。ちーちゃんは肉体言語が多いよ。でもそんな所も大好き♪
待った待った! アイアンクローは止めて! 箒ちゃんにも自衛手段を作っているんだから」

―――嫌な予感しかしないなー。

おおう! 織斑先生が束を片腕だけで持ち上げている。
俺もリンゴくらい潰せるが、天災でも女の人だからな〜。さすがに躊躇しているんだけど、この人すごいわー。





「ピンチ。束さんがピンチなんだよ!! アイギスの人は守ってくれないの!?」







後書きみたいなもの

わーい。ヤバイなー。オープニング(仮)を書いていて、このままでは福音戦で箒さんが無茶をしなくなるようになっちゃった。
その前に福音が(束の手で)暴走させると、妙子さんが怒るし……。
まぁいっか。何とかするし。

クロス物を書いていてそのうち原作ブレイクしそうだなー。と、気軽に考えていたけど、意外と厄介なもんですね。
書いていて初めてその事を実感しました。
これで小説版だと一巻は終わりになります。
予定外に更識姉妹も登場させてしまったし、何とかしないとなー(困っているわりには意外と気楽、なぜなら深く考えていないから)

久々に『ガンヘッド』という映画を見ました。アーマード・コアより古くて泥臭い映画です。
そのうちそういう場面が書きたいものです。

黄金拍車様、突っ込みありがとうございます。
『白騎士事件』のミサイルをすっかり忘れていました。
命を護る修史君としては白騎士事件と聞いて、ミサイルで狙われたという事実は許せない事です。
この話の束さんはやってしまったが、後悔はしている。だけど『ミサイルを撃墜した』という事実が欲しかった為で、何も知らない一般人の被害を出さないように注意をはらっています。
箒・千冬・一夏はとても大切に思っていますが、その人たちの友人に被害があり悲しませる事は束の本心ではありません。
(ただ、軍などの職に就いている人はそれにあたりません)
ですので、修史君は(信管を制御して)結果オーライだったし後悔しているのなら許してしまっている。としました。(設子さんも暗殺者なのに許してしまっているので)
うん、ますます福音暴走が束さんの手で起こる事がなくなったな。



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