小説『IS 戦う少年と守護の楯』
作者:天地無用生もの注意()

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クラス対抗戦から二日。
自分の弱さを思い知らされてからの二日目。
早朝に基礎体力作りの為にグラウンドを走り、部屋に戻ろうとしたところで妙な二人を見つけた。

「設子さん、それに妙子さん何しているんですか?」

ジャージ姿の妙子さんの襟を掴んで引きずっている設子さん。

「おはようございます。一夏さま。
妙子さまが体を動かしたいと言ったので、柔軟体操だけだと思ったのですが、ジムでベンチプレスしていたのでお仕置するところです」

なんて人だ。一つ一つの怪我自体は軽傷だが、下手すれば何十箇所にも及ぶはず。
場合によっては熱でうなされるような怪我なのに。

今更ながら寒気が走った。
弱いと思った俺が基礎体力を付けるために走っていたが、この人はいったいどんな鍛え方をしているのだろう?

「一夏さん、一夏さん。頑張るのはいいですけど、体を壊したらダメですよ。
あと、できれば助けて欲しいんですけど」

「妙子さま。自分の事を棚に上げて注意するのはどうかと思いますよ」

冷たい視線を受けてシュンとした妙子さんを設子さんは引きずっていく。


設子さんって意外と力があるんだなぁ。







17話 ただの日常



妙子さんを助ける事は出来ない。(設子さんの表情を見れば分かる)
だけど、せめて見守る事で設子さんの理性を呼び戻す事ぐらいは出来るかもしれないと思い、二人の部屋へ行ったが、全ては無駄だった。

「ごめん。妙子さん。こういうときどうすればいいのか分からないや」

「一夏さんはあたしをいぢめるの?」

たぶんのほほんさんの着ぐるみの一つなんだろうけど、妙子さんのベットに居たのはシマリスの着ぐるみだった。
ご丁寧にも、両手をクルミを持つようにしっかりと縫い付けてあって、身動きが取れないらしい。

とりあえず俺は、「いぢめないよぉ?」と答えたときに設子さんがお盆を持って部屋に帰ってきた。

「あら、一夏さま。これから妙子さまを調きょ…、失礼。お世話をするところでしたのに……。
仕方がありませんね。また別の機会にしますか」

コワイ、怖くて設子さんの後ろに怒り狂ったアライグマの姿が見える。

「それはともかく、妙子さま『あーん』して下さいね♪」

設子さんの持っている小鉢にはうどんに僅かながらに柚子の香りがしている。
消化のいいうどんと殺菌効果のある柚子は妙子さんの体にいいだろうけど、何故そこまで嬉しそうなんですか? 設子さん?

妙子さんは死んだ魚のような目でフルフルと嫌がっている。
そういえば、『死んだ魚の目』ってスーパーの金目鯛くらいしか見たことがないなあ。……激しくどうでもいいけど。

「『フルフル』じゃないですよ。ただ、この状況でご自身で食べられるんですか?
指も結束バンドでしっかり固定してあるのに?」

うわ、設子さんそこまでやるのか? 容赦しないな。
もはや全てを諦めた妙子さんは雛鳥ように食事をしなくてはいけないらしい。
何かしなくてはと思う反面、この二人の間に入るのは野暮だと何故か思う。何故だ?

「そうだ。二人とも一昨日はいろいろありがとう。おかげで助かったよ。
お礼と言っては何だけど、何か俺に出来る事があったら言ってくれ」

「ふふふ。良かったです。もしも一夏さまが謝るのでしたら、私達は余計な事をしたみたいで、
お礼をしていただけただけでも、十分ですわ」

妙子さんの口にうどんを放り込んだ設子さんが満悦の笑みを浮かべている。
―――両手が使えない状態で熱々のうどんを口の中に入れている妙子さんは、「あ、あふい!!」とかなりかなりもがき苦しんでいるが、正気を取り戻したようだ。

「うう、まだ胃の中が熱いです。それはともかく、一夏さんの気持ちは嬉しいんですけど、あたしってガードを目指しているじゃないですか。
それならばあの状況で動ける事が出来た事が、むしろ自信に繋がりましたら気にしないで下さい」

ああ、なんていい人なんだろう。これが鈴だったら「アレくらいは当然よ。で、アンタはそんな私に対してどんな感謝を形にしてくれるの?」というだろうな。
だが、断られる事は予想してある。

「この間のクラス対抗戦でそれなりに身を守れることを証明できたから、今度の休みにやっと外出許可が下りたんだ。
と言っても、特に用事も無い俺としては目的も無くだらだらするのもなんだから、どうせだったら助けてもらったお礼としてどうかな?」

二人は少し迷っているみたいだ。ならば一押し。

「もちろん俺から誘ったんだからある程度は俺のおごりでどうだ?」

あれ? 反応が薄い。鈴だったらすぐさま飛びつくはずなのに。

「一夏さま。箒さまはどうするのでしょうか?」

「えーと、確か。千冬姉の下で一日中反省文を書かされるとか言っていたっけかな?」

二人とも考えている。特に難しい事じゃないのに何でだろう?

「妙子さま? どうしますか?」

「そうですね。せっかくのお誘いなので、付き合いますか。
ところで一夏さん。どこに行く予定なのですか?」

二人を見ていると改めて不思議だ。操縦技術及び学力とも設子さんの方が上だし、判断力も上のはずなのに主導権は全て妙子さんに任されている。

「特に考えていなかったんだが、リクエストはある?」

「あ、ハイハイ!! ここの学食は美味しいんですけど、美味しいより旨い。そんなお店はありませんか?
実は、どうもここの料理は若い女の子達が好む味付けで、たまに『ガツン』と来るような物が食べたいんですよ。もちろんラーメンでも可です」

おお、それは分かる。ここの食事は女子だけだったせいか一口ずつ味わうような味付けだしな!
―――となると、あそこぐらいしか知らないな。

「だったら、とっておきの店がある。と言っても友達の家がやっている店なんだがな。じゃあ、今度の休みに」




     ◇  ◇  ◇



一夏さんから誘われた日。
正直言ってどう見ても一夏さんが狙われているのに、何故外出許可を出したのか分からなかったが、
箒さんは重要人物保護プログラムで行動制限に慣れているが、一夏さんはある程度ガス抜きをして置けばとっぴな行動はしないらしい。
さすがは織斑先生。ブラコ…、じゃなくて、弟さんの性格をよく理解している。

案内してもらったのは一夏さんの中学時代の親友のお店だそうだ。
一階がお店で二階が住居らしい。引き戸が油で輝いているので、汚れでは無く毎日拭き掃除の結果だろう。この店の『味』と客を迎え入れる『雰囲気』があたし期待感を否が応でも上げてくれる。

いい。実に良い。
テレジアでもIS学園でもそうだが、大盛りのどんぶり飯をかっくらうような食べ方をするとすぐに目立ってしまう。
その点こういった店は少しばかり素が出ても奇異の目で見られることも無いだろうし。まさにリクエスト通りだ!

「ここが五反田食堂だ。名物は『業火野菜炒め』で、噂によるとその裏メニューもあるらしい。
厳さんによると、あっ、……この店の大将なんだけど、味覚の発達が完全に終わる十八歳までは絶対に出してくれないぞ。ある意味十八禁なんだ」

「一夏さん。たぶん厳さんの言っている事は正しいと思いますが、ある意味セクハラですよ」

本人は上手い事言った顔をしているけど、さすがに引きますよ。

ショックを受けている一夏さんをほっといて、ガラガラとお店に入る。
ランチタイムを少し過ぎた時間だが、一目で肉体労働に勤しんでいるお客さんが多い。だが、あたしはそれ以上に店内に満ちている香りがアイギスの訓練していた頃の食堂と同じで懐かしい。

「厳さーん。ご飯おかわり! 大盛りでお願いね〜」

……ものすごく聞き覚えのある声。
その声の持ち主の方を見ると、店内なのにサングラスに髭、一部に白いものが見えるがオールバックの髪にスーツの上からでも鍛え抜かれた体躯。

―――って、バカ親父!!!

「ん? 妙子さん。どうしたんだ?
あの人と知り合いなのか?」

ちょっと思考が停止していたらしく、後ろから一夏さんがあたしの視線の先を見て聞いてくる。
なんで?なんで?なんで!? あの人がここに居るんだ!!

「あ、一夏さん。いらっしゃいませ。お兄から今日来るって聞いていますよ。えーと三名様でよろしいですか?」

長い髪に薄手のワンピースの少女が、大盛りのご飯をあのバカのテーブルに届けてこちらに向かってきた。
一瞬だがあたし達を見た目つきが一夏さんへ向けたものと違っていた。なんかまずい事でもやらかしたっけ?

「おう、ちなみにこの二人はクラスメイトの山田妙子さんと真田設子さん。
でもって、この可愛い店員さんはこの五反田食堂の看板娘で、俺の親友の妹の五反田蘭」

可愛いって……。まあ、確かに可愛らしいけどそういう事をナチュラルに言葉に出来る一夏さんがすごいですね。
この子も顔を赤くしているし、本当にIS関係よりも女性関係でガードが必要になるのかもしれないですね。

「あー。一応三人なんだけど……。妙子さん、あの人と知り合いなの?」
「知りません」
「無関係ですわ。一夏さま」

あたしと設子さんは即答したんですが、「妙ちゃ〜ん。パパの顔を忘れたの〜」とあのバカ。

「妙子さん。こう言っちゃなんだが、家族っていうのはとても大切な物だと俺は思うんだが」

分かっています。あたしにとっては『アイギス』が家族と思っています。ですが、何で一応極秘任務中に上司が接触する奴がいるんですか。
嫌がらせですか? 暇なんですか? 死にたいんですか??

「なあ、妙子さん。なんかあの人本気で泣きそうだから挨拶ぐらいはしたほうがいいと……」

あたしと課長の関係をきちんと決めていないから、ボロがでるのは避けたい。だが、放置プレイするのはこのお店にも迷惑がかかる。
普段の言動から想像もつかないがアドリブだけは上手いから何とかしてもらうしかないな。
覚悟を決めて行くしかないか。

「まったく、何しているんですか?」

「ん。ここが美味しいって聞いたから一度来てみたらそれ以来はまっちゃって、今では『いつもの』で通じるようになっちゃった。まあまま、座って注文しなさい」
(イチカ ユウジン ゴエイ)

なるほどね。でも、箸で手旗信号はあまりマナーはよくないがそういうことなら仕方がない。
課長と向き合うようにあたしと設子さんが座り、一夏さんは課長の隣の席についた。
課長は箸を置くと、「あ。蘭ちゃんここの『オーダー』は俺が持つから会計一緒にしといて」と、意外と太っ腹……、でもないか。結構安いし。

「分かりました。ちなみにその定食はなんですか?」

「なんと『裏業火野菜炒め』定食だ。ピリ辛で癖になる。四日連続で通っていたら裏メニューがあるって知ってからそれ一本だ」
(オーダー シリョウ アリ)

一夏さんにバレ無いように指で信号を送ってくる。意外と器用なんだよな……。

「裏メニューですか。ならば『色々』な事を『お任せ』してもいいですか?」

「もちろんだ。それはそうと、この少年の事を聞いてもいいかな?」
(マカセロ)

あ、すっかり忘れていた。あたしと課長の関係をどう説明するかで置き去りにしていた。

「あ、そうでした。えーと、こちらがクラスメイトの織斑一夏さん。で、この方が養父の……」

ここまでは前に話してしまったから後は任せました。

「自己紹介ぐらいさせてもらえるかな。私はアイギスの神崎恭一郎。
山田家の親戚なんだが、若い頃にオイタガすぎて勘当された身だったんだが、本家が逆恨みにあったという情報をアイギスから仕入れてな。
山田家が集まる正月に向かったんだが……。一足遅くてな、火事に巻き込まれたんだ。そこで助けられたのが幼い妙ちゃんぐらいだったものだ。
それ以来、私が男手一つで育てたから、寂しい思いをさせてしまったかもしれん。ちょっとばかり女らしさに欠けてしまったが私の大切な娘だ」

……なんでこんなに嘘がすらすら出るんだ?
一夏さんも何気に感動してるし。

「まあ、辛気臭い話はここまでにして注文しないと蘭ちゃんが困っているよ」そう言うと、店員の蘭さんが悲しそうな顔でこちらを見ている。

「そうですね。さいわいあたしは小さかった為にその頃の記憶なんてほとんど無いので気にしないで下さい。
えーと、一夏さんから聞いた業火野菜炒めをお願いしますね」

「私も妙子さまと同じもので」

「それじゃ俺は金目の煮つけで」

それぞれが注文すると蘭さんは元気良く注文を繰り返して奥へ向かっていく。
いやー、元気があって可愛らしいものだね。

「それにしても偶然とはいえ、良く会えましたね」

「まったくだな。だが、厳さんの野菜炒めを味わうと他では食べられなくなるぞ」
(イチカ トウチョウ)

何やっているんだよバ課長は!!
まあいい。こっちも気になる事があったし。

「そうですね。俺も何度か再現しようとしているんですけど、どうしても上手くできないんですよ」

なぬ?? ひょっとして一夏さんは……。

「もしかして、一夏さまはお料理が得意な方なのですか……?」

「ん。まあ、ウチって二人しか居ないからさ。学校が終わったら千冬姉が帰ってくるまでにやる事がなかったから家事は得意だぞ」

なんと! あれか?! あたしが裁縫が得意なのと同じようなものですか??

「あ・あ…あの。いきなりで申し訳ございませんが、私に料理を教えてもらえないでしょうか?」

げ!!
ヤバイ!! これはかなりヤバイ。何がと言うとあたしの精神面だけでなく一夏さんの心労もかなりものが容易に想像できる。

「設子さんもそう言っているなら妙ちゃんも一緒に教わったらどうだ?」

何言っているんだよこのバ課長!! 何とか誤魔化さないと。

「え…えーと、さすがにそれは一夏さんも大変じゃないですか。
それに……。ほら、一夏さんはISの事以外でも学ばなくてはいけませんし。ですよね、一夏さん!!」

「いや。大体料理なんて簡単に出来るだろ? 最悪材料を切って煮込めば、普通に鍋になるんだし。
そんなに手間じゃないんだけどなー」

言質を取った為か設子さんは嬉しそうにしている。
―――アマイデス。世ノ中、予想ノ斜メ上ヲイク人ガ居ルンデス。

「ふむ、こんな事もあろうかと用意してあったものが役に立つとはな」

なんですかバ課長。これ以上あたしの精神をヤスリで削らないで下さい。

足元にある紙袋から取り出して広げたのはエプロンだった。

「ほら、なかなか可愛いだろ〜。寮暮らしという事で用意してあったんだ。選ぶのに苦労したんだ。
今回は機能美も追及してあるが、新緑のような生地に白い水玉模様! もちろん大きなポケットもついているが、最大の魅力がウエストのピンクのリボン!!
これで、女子力アップ間違いない!! ブギャ」

殴ったのは悪くないよね?

「お待ちどうさまー。って、それ可愛いですね。ウチはお店だからさすがにそんな格好じゃ拙いんですが一つ欲しいくらいです」

大き目のトレーからテーブルの上に置いていく。
豆板醤や醤油、ごま油の匂いが胃を刺激してくる。

「そんな事もあろうかと、もう一つ用意してあるんだが……。残念ながらこれは妙ちゃん用なんだ」

「あたしは必要ありません!! 蘭さんにさし上げますからどうぞ使ってください」

目を輝かせる蘭さんと「せっかく妙ちゃんに似合うと思って自腹で買ったのに……」と嘆くバ課長。
フ、さすがに蘭さんの期待を裏切るようなマネはしないよな?

「しかっし、厳さんの野菜炒めは美味しそうだよな。工程はなんとなく分かるんだが、どうしてもその味にならないんだよなー」

さすが一夏さん見事なスルー力。ISの勉強よりも料理人の方が合っているんじゃないでしょか?
もしかしたら、材料さえ揃えば作ってもらえるのでしょうか?

野菜炒めからキャベツを箸で掴み匂いと食感に意識を向ける。芯のとことだったので僅かながら野菜のシャリシャリとした歯ごたえもある。
あたしが作ったらもっと水っぽくなるはずなのに香ばしさもある。

「何でこんなに歯ごたえがいいのかは分からないですが、ごま油とピーナッツの香り、それに豆板醤とネギ、山椒とにんにくに……」
「待て、嬢ちゃん。味を盗まれるのは俺の未熟。だが、他人に教えるとなると話は変わってくるぞ」

厨房から出てきたご老人、ってか、鋼のような腕。もしかしたらシールド3の宗像先輩と腕相撲でもいいところまでいくんじゃないか?
それに比べてどうしてあたしは筋肉が付きにくい体質なんだろう。

「一夏。オメエさんは大体の工程を知っている。料理人たる者、試行錯誤して自分の味を作り出すんだ」

「ハイ」って、一夏さん? 貴方は料理人じゃないんですけど。
その返事に満足したのか厳さんは厨房に戻っていった。

「ゴメン。どうしてもあの人には逆らえないんだ。ちなみに業火野菜炒めの『業火』って、熱した油を野菜にかけるときに火が上がるとこ……」
ヒュンッ―――カラン。

厨房から飛んできたおたまが、一夏さんに当たる前に課長が箸で擦るようにして軌道をずらして床に落ちる。

「厳さーん。的は良かったけど少年が倒れたりしたらせっかくの美味しい料理が冷めちゃうじゃない。
少年もアレくらい自分で避けるか受け止めるかしないとISなんかただの持ち腐れだぞ」

―――現役を引退したはずなのになんなんだこの人は?
あたしでも受け止める事しか対処できない事を平然と出来るって……。ちょっとショックです。

追伸。
料理は騒がずに楽しく食べましょう。
ちなみにあたしの分のエプロンは蘭さんに差し上げました。




それなりに楽しかった休日を終え、IS学園の寮に入っていっても一夏さんは落ち込んだままだ。

「ああ……。お金が、お金が……」

「一夏さまは自業自得ですね」

一夏さんは食事の後、ゲームセンターに行き対戦型の『IS/VS』でかなりのお金をつぎ込んでしまった。
家庭用の『IS/VS』はコントローラーでの操縦になるのだが、ゲームセンターの筐体だとヘッドギアによって脳の電気信号によって操縦でき、観客は大画面で対戦を見れる。
元々ISの技術を使った物で、男でも使用可能な為に大人気らしい。(一夏さん談)
設子さんから聞いた話では、『IS/VS』の発売によってイメージ・インターフェイスの技術が上がり、第三世代のISの足がかりになったそうだ。

学園でも実践訓練の前に操縦を覚える。
と言う事で何度か使った事があるが、起動の前段階で織斑先生に周囲の状況や、ダメージレベルの確認。起動しても装備の確認、終了したら使った弾数のチェックで駄目だしされた恐怖の授業である。

―――しっかし、ISの訓練機が使えない時に学園で使用されている物の劣化版のはずなのに、素人さんにどれだけ負けているんだか……。
実技練習が足りなさ過ぎですよ、一夏さん。

「一夏さん。今日はとても楽しかったです。そしてご馳走様でした」

対戦ゲームで負け越したのが痛かったのであろう、財布のあたりをまださすっている。

うーん、このままだとモチベーションが危ないですね。ここは一つ賭けを持ちかけましょう。

「あー、そうですね。今度の個人トーナメントであたしが優勝したら付き合ってくださいね」

耳元で「また一夏さんのおごりで」と言うと、

「―――!! 分かった。その挑戦状確かに受け取った!! だが、もし俺が優勝したら付き合ってもらうぞ!」

お、いい顔してます。
これならば、訓練にも身が入るでしょう。
なにせ、今日だけでも結構な出費になったのですからね。



   ◇  ◇  ◇



部屋に戻ると何故か同僚が胡坐をかいてビールを飲んでいる。
まったく、ただでさえ機嫌が悪いのにこいつは片付けもしない。掃除するこっちの身にもなって欲しい。

「じゃましてるぜー。あと、何かつまみになるもん作ってくれよ」

いったい何様なんだこいつは。
と言っても、作らなかったら作らないで鬱陶しい。
冷蔵庫の中を確認して卵と小麦粉・塩・砂糖・醤油を混ぜ水でのばし、適当に切ったニラを加えてフライパンで両面を焼き、最後にごま油をかけて皿に乗せる。

「何だ、チヂミか。お前にしてはずいぶんと手抜きだな」

「うるさい。文句があるなら出て行け」

何を言っても無駄なことは知ってはいるが、今日ばかりはイライラする。




「ところでエム。ずいぶんと機嫌が悪いな」

「うるさい。まさか織斑一夏があそこまで弱い奴だとは思わなかっただけだ」

そう、何故あんな奴がねえさんの隣にのうのうと居るんだ……。


彼女は知らない。ねえさんと呼んでいる弟とほとんど同じ事をしている事には……。






後書きみたいなもの

一月はイベントが多いので不定期更新になります。
おいらも一応社会人なので。
疲れていた為に多少変なネタが入っています。
もし気になる方は「シマリス アライグマ ラッコ」で検索すると分かると思います。


裏設定(ネタも含む)
ゲームセンターでのヘッドギアの『IS/VS』はもちろんソードアートオンラインのですが、完全なバーチャルリアリティでは無いです。
学園で使用していると言うのは原作通りだと、さすがに実技が遅いんじゃ無いか? と思い勝手に付け加えました。
ただ、風の抵抗とかそこまで再現できていないので、あくまで感覚を掴む為のものと思ってください。

レースゲームと同じ感覚です。


さすがにラストが手抜きのようだったので、少し修正しました。

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