3話 IS学園へ
俺はがんぱった。すごく頑張ったんだ。
専用機持ちとしての実力に似合うだけの地獄のような2ヶ月間。
空を翔る感覚が分からないと口に出したら、スカイダイビング(パラシュートは後から投下された)させらてたし、
機体の制御が思うようにいかないと愚痴をこぼせば、海に連れて行かれ水中での高速移動の訓練(潮の流れもあるから空中より負荷がかかり良いとのこと)させられ、
非固定浮遊部位(と言うらしい)の楯が上手く使えないと悩んでいたら、脚を拘束されてISの部分展開させられ特殊要人護衛課の全員がそれぞれの得意武器でたこ殴り……。
アイギスの研究者が言うにはこの楯はどうやら操縦者のイメージで自由に動くらしいとの事。
おかげで、ある程度自由に動かせるようになったし、確かに間違った訓練ではなかったけどさ。
世間では第三世代の装備らしいが俺のは2枚の楯なんだよね。
そして座学。正直、設子がいなかったら3分の1も理解できなかった。
分からない事があるとそれを調べるのにさらに理解できない事があり、しかもこの本、項目があっちこっちに載っている。
この参考書。絶対に参考にならない。世界共通ならもう少し初心者に優しい参考書にしろよ。
睡眠時間を削ってパソコンで関連項目をリンクさせていたら、何とか設子の説明に追いつけるようになったんだ。
―――設子はしっかり理解しているようだけど、初見だと役に立たないぞ。
で、今俺の状況なんだが……。
目の前に打鉄に乗った護衛対象者がでかいブレードを構えている。
しかも口角が上がっている。かなりヤバイ。
「お前の試験官を勤める。織斑千冬だ。
しかし、驚いたぞ。あの束が一夏や箒に護衛をつけると連絡があったんだが、お前本当に…か?」
そういえばこの人は俺の正体を知っているんだよな。
もっとも、護衛対象が貴女も入っているとは束も言っていないようだ。
「そうですよ。今はこんな姿ですが、貴女の弟さんと同じなんです」
「うむ、ハッキリ言って信じられん。
それにガーディアンなど必要ないと思っていたが、それなりに修羅場はくぐっているようだな。
ありがたく思えよ、私がその実力直々に試してやる」
そんな会話が3分前にありました。
俺にとってはその10倍長く感じるんですけどね。
今はボロボロ。
機体はそうでもないけど、精神の方が先に参りそうです。
イグニッション・ブーストってやつを実際に味わってみたけど、ノーモーションからのトップスピード。その後の斬撃。
何とかそれを楯でいなすと、距離を取られ普通に会話をしてくる。
その後にはさらに加速が増したと思ったら、楯を向けていない方向からの刺突。そして切り上げ。あきらかに首を狙っていますよね。
ハイパーセンサーのおかげで何とか回避できたが、この人、移動速度といい呼吸の外し方といい人間辞めてますよね?
束はこの人外も護衛しろって話だけど、本当に必要なのか?
やっと目が慣れてきた頃には、どうやら俺は練習台にされている気がしてならない。
「どうやら危険回避能力がずば抜けているようだな。切る前に機体が動いている。たいしたものだ。
一応合格ラインとしておいといてやる。それに無理に攻撃に移らないのも良い。一応その隙を狙っていたのだが……天性のガードだな。
では、次にいくぞ」
次って何??
「貴女は本当に人間ですか? これでも結構ISを動かすのには慣れてきたんですけどね」
あ、もしかして地雷踏んだ?
目つきが変わったんだけど……。
「どうやら手加減は要らないらしいな。ISの起動時間と鍛錬の度合いが違うだけだ。
それにしてもその機体。エライヤというのか?
短時間でそこまでの動きをするのは筋が良い。
あー。それに似合っているぞ?」
元々、『アイギス』で研究していた機体なので、それにまつわる名前を貰ったんだが、
アイギス→アテナ→ポセイドンとの対決でオリーブで勝利。
しかもアテナは国や家族を守るための戦いの女神。そこでオリーブのギリシャ語『ELAIA(エライヤ)』から貰ったそうだ。
とても良い内容なんだが、このIS。
超高速移動の為、外装が少ないのは俺好みなんだけどさ、ヘットギアが始めて見た時にティアラだと思ったよ。
オリーブの枝を模しているらしいのだが、どう考えたってティアラだろ?
ウイッグがずれないように頼んだけど、こんな姿になるなんて……。
どう考えても女性を思わせる姿なんだよな。白銀のパーツに所々澄んだ青。用意してくれたISスーツは白。
映像で見た事のあるISと違って北欧神話に出てくる戦乙女を元にしたらしい。
束とバ課長の手が入った時点で警戒すべきだったが、座学のほうに追いやられていたので計画的な犯行だな。
「お褒めにあずかり、恐悦至極ってね。でも正直嬉しくないです。
うちの上司って、やる事がとんでもないんですけどね。
実際に動かしたのは1ヶ月チョイで何とか此処まで来れたんですが、まだまだのようで」
「殻も破れないようなヒヨッコを此処まで動かせるのなら、今度学園に特別講師として呼んでみるか」
なんて恐ろしい事を言うんだこの人は。
アレと対抗できるのは、人の話を聞かない束ぐらいだぞ。
「止めといた方がいいですよ。束は周囲を巻き込む『天災』なら、
課長は自分の求めるものなら手を抜かない。目的の為には最も効果的な方法があるなら何故使わない? ソレが狂っているというなら目的の意味がない。
そんな事を平気でいう『最狂』ですから、ちなみに2人揃うと化学反応が起きます。
このISを見れば分かってもらえませんか? 目立たないように濃い色を希望したのに、起動したら白銀でこんな姿ですよ」
おや? 隙だらけになった。今のうちにナイフだけでも出しておくか。
「―――すまん。どうやらお前を甘く見ていたようだ。何か困った事があったらすぐに教えて欲しい。
できる限りの事はする」
なんだろう……。このやるせなさい気持ちは。
「では、早くこの試験を終わりにして、寮のチェックをしたいんです。
きっと盗聴器とかカメラとか仕掛けられてる可能性があるので」
自分の荷物でさえ色々なモノが紛れ込んでいたんだから、束が用意した部屋は絶対に何か仕掛けてある。
どうしてもそんな気がしてならない。
早く終わりにしたいという気持ちを読んでくれたのか、ブレードを正眼に構えて、って! なんでイグニッション・ブーストを使うんだよ!!
楯でいなして、2の太刀が来る前に逆手に握ったナイフで殴りつける。
予想通りと言うか、予想より早くブレードが右手を狙うが、ナイフで受け止めたのだが衝撃で飛んでいった。
負けるのは分かっているが、一矢報いたい。
右足のスラスターを噴かして、相手の腕ごとブレードを蹴り上げ、握力のない腕と脚を使い関節技に持ち込もうとした所で、俺の意識は無くなった。
後で聞いた話では、後頭部に蹴りが入ったらしい。そのおかげで絶対防御が働いて意識を無くしたんだそうだ。
◇ ◇ ◇
私は、意識を無くしたガードを担いで休憩室まで運んでやると、落ち込んでいる山田先生を見つけた。
「一夏に突っ込んで負けた。山田先生? まだ落ち込んでいるんですか?」
ガバッと顔を上げたその目は少し潤んでいる。
これだから、からかうと面白い。
「それは言わないで下さい。って、その子大丈夫なんですか!?」
「後頭部に蹴りを入れたら、絶対防御が働いて気を失っているだけですよ。
それで、もう1人の『アイギス』の試験はどうなりました?」
「あうう」、と肩を落としてまた落ち込んだ。
まさか、また負けたんじゃないだろうな。
そしたら、学生時代のように模擬戦でもするか?
「引き分けなんですが、どうも狙って引き分けにされたような……。
射撃のみで終わったんですが、牽制で撃ったら予想通りに動くんですが本命は避けられるし、あの子は撃つまでの動作がすっごく早いし……」
「つまり、元代表候補が踊らされた。そういうわけですね。
どうやら山田先生は、勘が鈍っているようなので私と一緒に勘を取り戻しましょうか」
「やっぱりー」と言って机に沈んでいく。
「織斑先生ー。その子どうするんですか? 救護班を呼ばなくていいんですか?」
「現実から逃げるのは良くない傾向ですよ。生徒が真似したらどうするんです。
まあ、幸い寮の部屋は決まっているので、もう一人と一緒に部屋で休ませれば大丈夫でしょう。
2人とも試験といっても形だけのモノですから、問題は無いですし、鍛えれば専用機持ちとして十分に使えるようです」
後書きみたいなもの
つ、次こそ原作に……。