小説『IS 戦う少年と守護の楯』
作者:天地無用生もの注意()

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6話 たまにはこんな日も


模擬戦が決まってから数日、その間に起こった事といえば。

織斑一夏と篠ノ之箒があたし達の訓練を覗きに来ていて、巻き込んだくらいかな?
と言っても、ISの使用許可がなかなか下りなかったので、2人で組み手をしていたくらい。
剣道場の一部を借りて、胴衣に袴姿で体の動きをチェックしていると、一夏と箒が竹刀を握っていた。
設子の襟にカーボンワイヤーが仕込まれてあったのだが、それはご愛嬌。

少し熱くなって、たまに合気道や柔術で無い手を互いに使い始めたときに篠ノ之が興味をしめし始めた。
そういえば、資料で実家が剣術道場だったはずだ、織斑先生も通っていたらしいので普通の剣道とは違うのだろう。

設子のソレは元暗殺者の技だから色々混じっているからな。興味を持たれるのは分かりきっていた。

―――実際は昼食時に一夏との会話を聞いていたから先回りしていたのが功をそうした。

ターゲットとガードの距離は3つのパターンに分かれる。
・ガードとしてターゲットに常時そばに居る。
・ターゲットと適度な距離を置き、すぐに駆けつけられる状態にいる。
・ターゲットにすらその存在を悟られないこと。

当然あたし達が選んだのは『適度な距離』を保つこと。
きっかけが一番難しいがそこさえクリアすれば、本人も知らないうちにターゲットから情報を引き出す事ができる。
元々IS学園に潜入した段階でこの方法しか選択肢が無かったが、篠ノ之箒は自身が強くなる事を望んでいたし、
織斑一夏は少しでも織斑先生の負担を減らそうとしていたから、あたし達が彼らより強ければきっと成功すると思っていた。

……が、あまりにも計画通りに進んでしまい、彼らがこの先、怪しい壷とか買わされないか心配になった。
それとなく注意をしたが、「疑ったうえで騙されたなら、自分の未熟だし。信じて騙されたなら、人を見る眼が無かった」との事。
本当に課長へ彼らの言葉を聞かせてやりたい。


そんな中、模擬戦までの限られた時間を有効に使いたかったが、天気だけは人の都合通りにはいかないもので外は大雨。
一夏も疲労が溜まっている為に今日だけは体を休める為に使っている。

箒さんはそれでも道場に連れて行こうとしたが、一夏の筋肉が熱を持っている為に柔軟だけで終わりにするように頼んどいた。


そして、計画の時が来た。

今、あたし達の部屋には5人が集まっている。
メンバーはあたし事妙子、設子さん、一夏さんと箒さん。そして、セシリアさん。
クラス代表を争う事になったメンバー+αが集まっている。

今日のミッションは『クラス代表決定戦の前にわだかまりを無くそ〜よ』だ。
―――いかん、女装(ここ重要)していると、変な電波を受けてしまう。課長か? 課長のせいなのか??


「今回は互いの食文化を知ると言う事で、いわゆるアフターディナー・ティーと言う事で日本で言う食後の1杯のお茶を用意しました。
紅茶はあたしが。緑茶の方は一夏さんが準備しました。ハイ、拍手〜♪」

パチパチと拍手してくれるのは設子さんと一夏さんのみ。ちょっと心が折れそうです。

だが、あたしは前に紅茶の入れ方を徹底的に教わったので、自信はある。必ずセシリアさんを唸らせて見せる。
それに、スコーンといくつかのジャム、チョコレートボンボンも用意してある。これはクラスメイトの、のほほんさんこと布仏本音さんのコネで手に入れてもらった。

一夏さんにお願いしたのは、緑茶とそれに合う『歯ごたえのある茶菓子』。今回ばかりは羊羹など音が出ないモノは避けてもらっている。

「妙子さん。わたくしにはイマイチこの主旨が理解できないのですけれど。説明をお願いしますわ」

うん、そうですよね。
セシリアさんは男嫌いらしく、翌日に話しかけたら「あの時はちょっとヒートアップしていました。貴女まで侮辱した事、申し訳ないです」との事。
基本的に悪い子じゃなさそうなんだけど、一夏さんに専用機が用意されると聞いて、ちょっとしたいざこざがあった。

「そうですね。ハッキリ言ってあたしはクラス代表に興味は無いんですが、誰かがならないといけないでしょうから。
決まった後にたとえ無意識でも脚を引っ張るような事はしてほしくないんです。
それに、学園のスケジュールを見ると代表者同士での『クラス対抗戦』というのもあるので、そのときに有利に進めたいと……。
ま、ぶっちゃけ一夏さんとセシリアさんの仲が悪いとクラスの空気が重いんですけどね」

二人とも自覚があるせいか、少しばかり顔を伏せる。

もう1つの狙いは資料に書いていない、セシリア・オルコットの脅威だ。
おそらく今はまだ、一夏に対しては『男だから』という理由だが、それが悪い方向へ変化するのを食い止める必要がある。
自尊心や嫌悪感をちょっと刺激すれば気がつかないうちに一夏を危険な目に晒す事にもなる。

「理解しましたわ。でもいいのですか? もしかしたら専用機が貰える可能性があるのに代表に興味が無いなんて」

「ん。妙子さんは専用機持っているんじゃないのか?
あの時に、『あたしのISは』って言っていたじゃないか」

しまった。あの時は代表を回避することだけを考えていた。
織斑一夏。普段は鈍いと思っていたのに、意外と侮れない。資料では鈍感やら唐変木と書いてあったのに。

「妙子さまの『エライヤ』は、綺麗なんですよ。それに比べてわたくしの『紫陽花』はちょっと距離を選ばない分、エライヤに比べて機体が大きくて困るんですよね。
妙子さま。後はお願いしますね」

設子さんがカップやティーポットを準備してくれいる間にあたしが集めた理由を話し終わった。

「ちょっと待ってください。貴方達も専用機を?」

「はい。セシリアさま。『アイギス』もIS部門を立ち上げたばかりなので、配分された2つのコアはわたくし達が使わせてもらっています」

あたしはネックレス。設子さんはブローチを見えるようにする。
両方ともデザインは設子さんが手がけたものだ。青い石と赤い石の差があるが、基本的に同じデザイン。スペックがまったく違うんですけどね。

「あたしが防御専門で、設子さんがカウンターの役割になっています。だからセシリアさんに模擬戦で勝つことは無いんですよね」

「ちょっと待て。山田さんは試合に勝つことを放棄しているのか?」

今まで無言だった箒さんがはじめて口を開いた。

「正確に言うと目的が違うんですよね。あと、あたしの事は妙子でいいですよ。
それにほら、あたしはガードを目指しているから、強くなくちゃダメなんですけど一番は、護ると決めた人を危険に晒さない事。
それが、一番大切なんです。育ての父にそう教わったんですよ。
それに、初めて専用機を展開したら、武器が無かったんですよ。あの時はさすがに泣きました。設子さん相手に拳を一撃入れるのが精一杯でしたからね」

うん。そろそろいいかな?
5人のカップに紅茶を注いで、配膳する。
良い香りです。

一夏さんに目配せをして、日本茶の準備をしてもらう。

「あ、貴女。いったい誰に教わったのですか!? 香りもそうですが、苦味が少なく旨味が良く引き出されていますわよ」

よし! 本場の人に認めてもらった。

「良かったです。学校の先輩に教わったんですけどね。結構厳しくて泣きそうになりました。
では、今度は緑茶を飲んでみましょう」

一夏さんが湯飲みに人数分のお茶と白菜の浅漬けを爪楊枝に刺して、お盆で運んできた。
何故に?
確かに歯ごたえのあるお茶に合うものだけどさ……。

「ちょっと予想外なんですが、えーと……」

うまくフォローできるかな?

「セシリアさま。緑茶も紅茶も同じ種類のお茶の葉なのはご存知ですよね? 元は同じなのに中国ではウーロン茶にもなりますよ。
日本には日本の風土。それに、料理にも使われています。これも文化の違いですね」

うん、さすが設子さん。文化の違いを強調している。
あたしはそっと一夏さんに目配せをすると、

「あー。セシリアさん。あの時は頭に血が上っていたとはいえ、イギリスに対して偏見でモノを言ってしまった。
すいませんでした」

一夏さんがそう言うとテーブルに両手を着いて頭を下げる。
さて、イギリス貴族であるセシリアさんはどう答えるか?

「え! ええそうですよね。わたくしもこちらに来たばかりで、日本の文化を尊重しないでイギリスの風習を当てはめた事がそもそもの間違いでした。
そうですね。このお茶と漬物は確かに合います。漬物は音が出るのは当たり前ですしね。
そのような事を無視したわたくしの方が非があります。どうぞ頭を上げてください」

さてはて、これは貴族のプライドか、セシリアさんの本心なのかは分からないが、表立っていがみ合う事は無いと思う。

「ですが、クラス代表は全力で戦いましょう。そうでないと、せっかく織斑先生の行為が無駄になってしまいますからね」

その後はお茶とお菓子でゆったりとした時間が過ぎていった。
意外と多いイギリスと日本の共通点など十分に楽しい時間を堪能できた。

   ◇  ◇  ◇

「修史。たまには課長に定時連絡をしたらどうだ?」

シャワーから上がった設子がそういってきたので、先ほどの時間があまりにも楽しくて気軽な気持ちで連絡を入れた。

「修ちゃんが、修ちゃんが、パパの事を友達に自慢するなんて……。
パパ。嬉しい!!」

は? 盗聴器は全て撤去したはずだが??

「ちょっと待て、そんな事言ったか?」

一応、すっ呆けてみる。

「何を言う。きちんと録音してあるぞ。なんだったら聞かせてやろうか?」

『あたしはガードを目指しているから、強くなくちゃダメなんですけど一番は、護ると決めた人を危険に晒さない事。
それが、一番大切なんです。育ての父にそう教わったんですよ。』

言っていた。確かに言っていたが、この部屋の盗聴器は全て外したはずだ。

「なあ、何でこれが録音されているんだ? どうやって手に入れた?」

「フフフ。修史君は甘いな。寮の館内放送のスピーカーをいじったに決まっているじゃないか。トランシーバーと同じだ。
それに、エージェントの潜入の考査に使わせてもらっている。修ちゃんの成長期Vo.645に残してあるぞ。
まっ、ついでと言えば、修史君の部屋に無断に入る輩がいないか24時間体勢で監視しているぞ。安心して学園生活を送りたまえ」

あのバ課長め。本当に無駄に俺に対して嫌がらせしてどうする。仕事はできるんだろうけど。
いや、きっとできるから課長なんだろうな……。
アイギスの上層部って本当に大丈夫?

「あ。設子さんとのひと時は記録に残していないから安心してくれ。
では、引き続き任務を頼む」

足元から冷たい空気が、ジワジワと伝わってくる。

「課長さん。どうやら小父様には色々秘密がありそうですね?」

「うむ。いい男には秘密の1つや2つはある物だ」

課長! 今の設子は暗殺者としての『設子モード』だ。気が付いてくれ!!

「秘密は墓まで守り通したほうがいいですよね」

課長の口元が引きつってきた。やっと気が付いたか。

「いや。だがこれは私の老後の思い出として……」

「小父様は小父様のままで、みんなの素敵な思い出になるといいですわね。
24時間ご苦労様です。もう疲れたでしょう? ゆっくりとお休み下さい」

課長。俺はともかく設子さんをからかうから。

「ゴメンナサイ。モウニドトシマセン。今夜ハユックリト休ンデ下サイ」

そう言って切られた。
俺のプライベートは守られた!



一方その頃、隣の部屋では……。

「なあ、箒。妙子さんってすごいよな。
なんていうか、千冬姉とは方向が違う姉のような人だな」

照明が消された部屋の中で、一夏はゆっくりと口を開く。

「そうか? 私には戦う意思の無い軟弱者だとおもうが」

箒の言葉は辛辣だが、それは彼女が正直に思っている事だから、それでいいと一夏は思っている。

「そうじゃ無いよ。なんていうかさ、妙子さんって、セシリアさんと俺の問題を巻き込んだのに、怒るどころかさっきのように気を使ってくれる。
それにさ、積極的に戦うんじゃなく。『護る為に強くなる』そう言っていたろ。そういう意思がしっかりとしている。
なんていうか、かっこいいよな」

一夏から出た言葉は紛れも無い憧れの言葉だった。

「(クッ。またライバルが増えたのか?)」
………
……




後書きみたいなもの

セッシーと一夏のごたごたを無理やり解決しました。
読んでいる方は不満はあるでしょうが、おいらにはこれが精一杯です。
無計画は自分の首を絞めますね。
緊急時の館内放送は独自設定です。

ノア様。コメントありがとうございます。
返信を書いていて、たった今課長のシーンを追加しました。(少し存在を忘れていました)

ま。基本的に、『恋する乙女と守護の楯』の発売元のファンなので、シリアス展開だろうが台無しにします。
(いまさらながらの注意事項ですね)
やはり、舞台は『IS』で『恋楯』らしくなる方が、おいらは書いていて楽しいです。



―――ラスト妙子さん(修史としてではありません)が一夏にフラグを立てたような気が?
ま。恋楯では主人公ですから……。
それに別のルートでは妙子さんに「なんて完璧な女装!!」と言ったキャラがいます。
なので一夏さんは妙子さんを完全に女性として見ています。
でも、いわゆる『腐』の方には進みませんよ。

一応、恋楯を知らない人でも名前の出てくるキャラクター(現在の予定)では、それなりに過去の説明がついたかな?
※『設子モード』暗殺者としての真田設子。
 『設子さんモード』お嬢様の仮面を被った真田設子。となっています。

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