小説『IS 戦う少年と守護の楯』
作者:天地無用生もの注意()

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8話 クラス代表とその舞台裏

「ぐぅぅ……」

はぁ……はぁ……。腕が、熱い……。

何とか休憩室に逃げ込んだが、しばらくは動けそうに無い。
痛み止めはまだ飲めない。

「・ぃ。ぉ・・・・しろ!」

これから、一夏の模擬戦だ。みんなに知られないようにしないと。

「山田妙子! ここは安全だ。意識をこちらに向けろ」

クソ。この腕を思いっきりぶつけたくなる。

「はぁ……はぁ。
おりむらせんせい?」

「そうだ。お前、骨までやってないだろうな?」

へえ。織斑先生のこんな顔始めて見た。

設子が、左腕のスーツをめくり上げて、治療を始める。
俺の腕を見たとたん、織斑先生の表情が硬くなった。
銃創やら刻まれた傷を見れば、大抵一般人は引くな。

「設子。手当ては後にしろ。お前がここに居るなら2人は無防備になる」

「そんな事気にす」
「設子! 俺たちはなんだ? お前ならターゲットが2人も揃っている状況で『事故』に見せかける事だって出来るだろ」

そうだ、設子なら簡単にやってのけるだろう。だけど、今の俺たちはガーディアンなんだよ。
俺が動けないなら設子が動いてくれ。

「分かった。絶対にそんな真似はさせない。
織斑先生。後は頼む。こいつはすぐ無茶をするんだ。しっかりした治療を頼む。
私はすぐに任務に戻る。だからせめて痛み止めだけは飲んでおけ」

そうだ、お前はプロとしてのプライドがあるはずだ。ならばやる事は決まっている。

「了解した。無事とは言えないまでも善処はする。
これでも人の壊し方から治し方まで一通りは出来る」

織斑先生の言葉に不満があるのか無表情のまま休憩室から出て行く。
設子から治療を受け継いだ織斑先生の腕は、俺が思っていたより手当てに上手い。
確か、束の資料ではこういった事は苦手だと思っていたのだが……。

「これでいいだろう。お前にも驚かされたが真田にもあんな顔があったのか……。
しかし、お前もずいぶんと無茶をする奴だ。それに何だあの戦い方は? お前ならもう少しマシに出来たはずだが」

痛み止めを渡されるが、テーピングが予想以上に上手い為無理に動かさなければ必要なさそうだ。

「ああ、その事か。束から話を聞いたんだ。白式の装備はブレードしかないって、なら少しはヒントになるんじゃないかな。って」

「なるほどな。だからあんな無茶をしたのか。どうせならイグニッション・ブーストくらいやっておけ」

あの急加速の事か。確かにアレが使えたら便利だろうな。

「なんだ。お前は気が付いていないのか? 入学試験のときにお前はブレードを蹴り上げただろ。
あの時は脚だけだったが、アレを移動時にやれば十分ものになる。そうでなくてはブレード一本で『ブリュンヒルデ』になった私の立場が無いからな」

厳しいだけだと思ったが、そんな顔も出来るのか。
手当ての仕方といい一夏の手本になるように……。

「なあ。もしかしてブラコッ」
「私はな、からかわれるのが嫌いなんだ。
―――そうだな。性別を偽っているお前だけの為に治療の為の部屋が必要だろう? それにお前の機体なら他人に整備を任せるのも危険だしな。
『アイギス』に掛け合って資金を出してもらおうか」


……。後日、寮の一室に開かずの部屋が出来た。噂によるとたまに苦悶の声が聞こえてくるらしい。
ちなみにごく稀にウサギの耳をつけた女性をその付近で見かける事があるとの事。



テーピング自体にアイシング効果があるのか、ずいぶんと痛みが引いてきたので、二人でピットに戻るとそこには『白』がいた。

「おう、お帰り。それとサンキューな。妙子のおかげで『最適化』が終わったところだ」

ニヤリと笑うその姿はまさに織斑先生の弟。
その後ろには箒さんが腕を組んで頷いている。

対照的に冷めた瞳でその姿を見ているのは設子だ。

「一夏。妙子さんが時間をかせいでくれたんだ。男だったら勝ってこい」

「ああ、もちろんだ。どうせやるからには勝たないとな」

『白』がふわりと浮くとピット・ゲートへ進んでいった。
その後姿だけは、合戦前のまだ若い武士のようだ。

山田先生は簡易モニターに、箒はゲートから一夏さんを見送っている。
設子はこちらに近づくと、織斑先生が口を開いた。

「で、ガーディアンの2人はこの勝負どう見る?」

「負けですね」
「負けだな」

異口同音の答えに肩を落とす。

「だろうな。お調子者の馬鹿者め。せっかくの時間を無意味なものにして……。すまないな」

「はぁ」と、ため息をついてモニターへと歩いていった。

「修史。どうやらこの任務は長くなりそうだ」

「だな。だが設子、一応ここは校内だ。口調が戻っているぞ」

白い目で俺を見ている。
ああ、分かっているよ。俺もなんだろ?
正直ここまで厄介な任務だとはな、自分から危険に行く奴だとは思ってもいなかった。



   ◇  ◇  ◇


ピット・ゲートの出入り口。
そこが私達の立っている場所。
そして目の前には、高さ15メートルの手すりの無い突き出た場所で両膝をそろえて座っている(ようは正座中)一夏さん。
とある情報によると、人は12メートルくらいの高さが一番怖いらしいが、このゲートの高さはそれをちょっと高くしたらしい。
何でも、戦う前に恐怖心を克服できるかどうかを試しているとの事。
以上、設子さんからの豆知識終わり。

「一夏。私とのゲートでのやり取りを覚えているか?」

「篠ノ之。それは酷と言うものだ。せっかく目の前でISの戦闘を見る良い機会があったのに、それを活かしきれない馬鹿者なんだぞ」

「妙子さまが怪我を押してまで頑張ってくださったのに……ハァ」

「み、みなさん。織斑君はがんばったと思いますよ。
それに……そ、そうです。セシリアさんのビット攻撃を上手くかわして、ビットを4機も撃墜したじゃないですか!
それに最後に使ったイグニッション・ブーストも簡単に出来るものじゃないんですよ!
先生は織斑君がここまで出来るとは思ってもいませんでしたよ」

「山田先生。残念ですが、その言い方だと一夏さんが負けるのが当然。むしろ、この試合自体が無謀な事だって、言っているようですよ」

山田先生って、予想通り天然さんだったみたいだ。たぶん一番心に突き刺さっている言葉なんだろうな。
ええ、もちろん。あたしがその釘にハンマーで打ち込みましたが? 何か問題でも??

実際、一夏さんの試合はそんなに悪くなかった。
むしろ、これが2度目のIS起動での戦闘だとは思えないほどの試合だった。
初めのうちこそ猪のようにビットの攻撃をもらっても突っ込んではいたが、中盤には冷静さを取り戻しなんと最後は盛り返した。

それなのに、

その最後が最悪の展開になった。
自身のシールド・エネルギーを消費するワンオフ・アビリティー『零落白夜』。
エネルギー性質のものであればたとえなんであれ無効化、そしてISの最大の防御シールド・エネルギーすら消滅させる白式最大にして諸刃の攻撃能力。
最初の無茶な戦闘が無ければ勝っていたのかもしれない。

「ああ、良い風ですね。天気もいいですし、もうしばらくこのままいたいです。ここならきっと夕焼けも綺麗でしょうね」

「あら、妙子さま。さすがにこのまま風に当たっていると、怪我の治りも遅くなりますよ。でも、夕焼けは見てみたいですね」

設子さんもノリノリですね。
箒さんはちょっと呆れた顔をしているが止めはしない。

「山田先生。頑張った生徒がいるんだ。ここはひとつ温かいコーヒーでも3人に奢ってやろうか。
そうだな、今いる5人分で十分だな。代表候補生なのに素人に危うく負けそうになった生徒は気にしないで良いぞ」

「ちょっと、千冬姉! 俺もせい・・と。なんでもないです」

いやー。織斑先生の視線ってすごいや。あたしに向けられたわけでもないのにゾクっときましたよ。
山田先生ですらフォローが出てこないどころか、本当にコーヒーを淹れに小走りに逃げていく。

「しかし困ったな。クラス代表の中1人は体調管理もできない馬鹿者で、1人はド素人に負けそうになる代表候補生か。
こうなったら本人の意思に任せるか」

「俺。存在を否定されてる?」

「それなら、あたしは拒否してもいいですか? さすがにあのエライヤでクラス代表っていうのはちょっと恥ずかしいです」

「ああ、仕方が無い認めよう。一応代表候補生とやらがお前が辞退した事は伝えとく。
だが、十分にアップも済ませたのに『ド素人』とと互角の戦いをした代表候補が辞退したらクラスの投票で決めるぞ。
―――しかし、私のクラスだけ馬鹿者を集めているのか?」

ワーイ、スゴイヤ織斑先生。一夏さんはスルーで、この場にいない人も容赦しない。
それどころか鼻で笑ってる。

「では、明日にクラス代表を決めるという事で良いでしょうかね」

あたしがまとめると、ゆったりとした時間が流れていく。



もちろん、一夏さんは試合後の汗も拭けずに放置しました。





後書きみたいなもの

久々の2連休。区切りのいいところまで書けたので投稿させてもらいます。
キャラクターの過去とかはもう少しお待ち下さい。
今の登場人物だけだと暗くなってしまうので……。

-8-
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