一章
焼ける匂いがした。
夏の太陽がコンクリートを焼いている匂いだ。
放課後の道路。黒いランドセルをしたまま、僕はその少女がいる場所に向かっていた。
地面を蹴り、森を抜けて、長い階段を登る。
朱と白の君のいる場所。
鳥居を潜り抜けた先にその少女はいた。
「以外に早かったね」
「走ってきたからね」
息切れをしながら、歯切れよく言葉を返す。
少女は、はいっと言って手に持ったピンク色のタオルを手渡した。
「お、結構準備が良いね」
「なんとなく、走ってくる気がしたからね、一応」
タオルを受け取って、顔や腕に付いた汗をふき取る。
最近の自分の行動が彼女に読まれすぎていて、軽く恐怖を感じる。この前なんか日直で遅れることまで予測されていたし。
「幽霊ってやっぱりそういう力とかあるのか?」
「幽霊て呼ばないの」
人差し指で僕の唇を押さえて、少しむっとした表情をした。
彼女はどうも、自分が幽霊と呼ばれるのが嫌いらしく、幽霊という言葉には敏感に反応してくる。それが面白くてついつい幽霊って呼んでしまうときもあったりする。
少女は少しの間むっとした顔をしてたけれど、すぐに表情はいつも通りの微笑みに変わった。
「さて、今日は何して遊ぼうか!」
いつも通りの笑顔で少女は言った。
僕もいつも通りの顔で少女の手を取った。
そうやって、僕らはいつも通り、夕暮れになるまで遊んだのだった。