終章
「もう行くな」
何もないところに向かって、別れを告げた。
見えないけれど、多分、少女はそこにいるのだろう。
笑っているのだろうか、泣いているのだろうか。それすらも分からない。
僕と少女との思い出だけが僕らを繋いでいた。
神社に背中を向け、階段を下りようとした、その時だった。
「ばいばい」
慌てて振り返った。背後でそんな声が聞こえたからだ。
成長することも変化することもないままの、少女の声だった。
「そこに……いるの?」
何もないところに向かって話しかける。
返事はない。けれど、少女の匂いがした。
少女はそこにいた。見ることはできないけれど、確かにそこにいたのだ。一分ほど呆けた様な顔で神社の方を見ていた。
うれしいような、悲しいような、変な感覚だった。けれど一つだけわかったことがある。
再び、神社に背を向ける。
笑っているのか、泣いているのかだって?そんなの決まっている。
「行って来る」
少女はいつも通りの笑顔だった
僕もいつも通りの顔で少女の手を振った
またいつか会えることを願って。