小説『祟り神と俺』
作者:神たん()

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コップの中のホットミルクを飲み干し、俺はそのまま朝食の準備を手伝う事にした。

もう辺りもうっすらと明るくなり始め、一日の始まりを告げるように陽の光が差し込める。

今日の朝食は目玉焼き、ウインナー、味噌汁、サラダ、納豆と一般的な家庭のような内容だ。

朝食の準備が終わる頃に熊さんも起きてきた。

「おはよう。」

「おはようございます。」

「なんだ翔、あまり眠らなかったのか?」

「いや〜何となく目が覚めてしまいまして・・朝食の準備を手伝わせて貰いました。」

俺はそう言うと、熊さんはテーブルの上に広げられた料理を見て、

「うまそうだ。早速皆で頂くとしようか。」

みんなが料理を囲むように座り、「頂きます」と一声だし箸に手を伸ばす。

今日行う滝行の事を話しながら箸を進める。

話によると滝は神社の裏手にあるそうで、熊さんも若い時は修行で滝行をやったが、
とても過酷だそうだ。

心を無にして寒さ、痛みといった感覚までも忘れ去るような感じでやれと言われたが、
この寒い冬に滝行をやってもはや、感覚なくなる頃には天に召されていそうだな。

朝食も終わり、熊さんに付いてくるように言われた。

外にでると、お日様が出ているとはいえ、とても寒い。

そのままついて行くと、神社の裏口に辿り着い。

そのドアはかなり錆付いていてしばらく誰も使用していない事が伺えた。

熊さんがゆっくりとドアを開く。

そこは木々が生い茂り、まるで森のようになっている。

僅かに人が通って出来たのだろうという細い道がありそこを熊さんは進んでいく。

5分程歩っただろうか、滝のザーー・・といった音が聞こえる。

すると目の前に岩に囲まれて小さい池のようになった場所に滝が現れた。

初めて生で見たが、凄い迫力がある。



「ここで滝行をやるぞ。いいか、限界だと思ったら無理せず上がれ。ここで死なれちゃ困るからな」

「はい。わかりました。どうやればいいですか?」

「とりあえず、滝の中心に行き目を瞑り心を静めてひたすら邪念を振り払え。
お前の親父に3時間やらせてくれと言われているからあくまで目安は3時間だ。
ただ休憩しながらやれよな。」

「わかりました。」

「じゃぁ3時間後にまたくるから頑張れよ」

「有り難う御座います。」

熊さんは後ろを向き来た道を戻っている。

すると突然後ろを振り返り俺に叫んだ。

「そうそう!わすれてたわ。お前の親父が全裸でやれってさ。ほんじゃな!」



「・・・・・。」



はいはい。わかりましたよ。
どうせ水に濡れるんだから服着てようがそんな変わらんだろう。


だがその考えが甘い事にすぐ気付く事なる。

一人きりになり滝を眺めていると、それだけで心が浄化されていく気がした。

自然のエネルギーというものなのだろうか。

呪いの事さえちっぽけに思えてくる。

まぁ兎に角やってみるか。

俺は身につけているモノを全て脱ぎ、完全に全裸になった。

「うぅ〜寒い・・」

12月の山は都会でいう1月、2月程の気温であろう。

俺は一歩ずつ滝へと近づく。

そして水辺に足を踏み入れた。

まさに凍るように冷たい。

「まじでこれ10分もいたら死んじまいそうじゃねぇかよ」

それでも俺は前に進んだ。

進むにつれて水が腰の辺りまで浸かった。

ようやく滝の目の前までやってくると、その滝を受け止めているかのように、
滝の真下には平らな岩があった。

俺は滑らないように気をつけながらその岩へ登る。

滝に身体が触れる度に鋭利なモノで刺されるような痛みが走った。

意を決して俺は滝の真下に身を委ねた。

身体全体に痛みが伝わる。

もう頭の中は痛みと寒さしか考えられない。

俺はひたすら目を瞑り、必死に堪えた。

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