小説『祟り神と俺』
作者:神たん()

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何分経ったのだろうか、もう時間の感覚すら曖昧になっている。

人間の身体とは不思議なモノだ。

今いる環境に適用しようとしているからか、最初ほど痛みや寒さを感じなくなった。

いや・・・でもただ端に感覚が麻痺してしまってるだけかも・・・それでも最初より楽になった。

ふと違う事を考える余裕が出来てしまい、俺は自分の息子さんの事が気になってしまった。

こんな寒いとこに晒されてどれだけ縮こまってしまっているのか。

もしかして、機能停止に陥ってないだろうか・・。

俺は少しだけ目を開き息子さんに目をやった。



まさに衝撃的。



そこには、これでもかという程小さくなり、もはや完全に沈黙している息子の姿があった。


俺は絶句した。


この滝行でもしかしたら俺は男の人生のうち8割を占める欲望を失うのではないかと・・。

俺は必死に息子に力を送った。

すると、「ピクッ」と微かに動き、「僕はまだ終わってないよ」と言うように反応してくれた。

それを見て一安心し、ふと冷静になって考えてみた。


(これこそ邪念ではないのか!?)と・・・。

俺はまた目を瞑った。

もう、感覚も無く、先程まで五月蠅い程に滝の流れる音が耳に入っていたが、
今ではほぼ無音に近い。

俺は(これが無の境地ってやつか!?)なんて思ったがその感情すらすぐに忘れ、
ひたすら滝に打たれ続けた。

すると、遠くの方から声が聞こえた気がした。

少し目を開いてみると、向こうの方から沙織ちゃんがタオルと着替えを持って、
歩いて来ているのが見えた。



(そろそろいい時間なのかな?)


なんて思いながらゆっくりと岩の上から降りる。


水の中を自分の脱いだ服が置いてある場所まで歩いているとさおりちゃんがその場所まで
やってきた。

ようやく水辺から出ながら沙織ちゃんの顔を見ると、なぜか顔を反らしている。


俺はどうしたんだろう?と思い、ふと自分の身体に目をやった。


その瞬間、まさに時間が止まったように思えた。


そう。俺は今全裸・・。


「ご、ごご、ごめん!!今服着るから!!」

俺は慌てながら沙織ちゃんの持ってきた服を着た。

まだ沙織ちゃんは顔をそらしている。


「あ、あの〜・・もしかして見ちゃった・・?」


俺が言うとドキッて感じで慌てながら沙織ちゃんが答えた。


「なな何も見てません!」



「・・・・。」


(完全に見られたな。しかもよりによって死にかけの息子さんを・・)


俺は初めて死にたいと思った。

「あ、あの・・昼食の準備が出来ましたのでお呼びに参りました。」

少しまだ沙織ちゃんの頬が赤らめているのがわかる。

「は、はい。じゃぁ支度します。」

俺は自分の服やもろもろを持ち沙織ちゃんの後をついて行った。

お互い何も喋らず黙々と歩き続ける。

すると沙織ちゃんの方から口を開いた。

「あの・・滝行どうでしたか?」

「いや・・案外思ってたよりは辛くなかったね。逆にスッキリした気だする。」

「そうですか。それは良かった。いろいろと大変みたいですが、お身体に気を付けて頑張って下さいね」

そう言われて俺は素直にお礼を言った。

神社の中へ戻ると熊さんが門の所に立っている。

「いい顔してるじゃねぇか。滝に打たれて何か変わったみたいだな。」

「はい。心の中のモヤモヤしたモノが取れた気がします。」

「よし。それじゃ今日の滝行は終いだ。さぁて飯を食おう。」

俺は「はい。」と言い熊さんの後ろをついて行った。

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