小説『祟り神と俺』
作者:神たん()

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その頃、俺の親父は・・・・・・。






夜の繁華街へと繰り出していた・・・。

服装もいつもの住職の服とは違い気合いの入ったグレーのスーツにグラサン。
ピカピカに磨いた革靴。それに頭はツルツルとくればもはや、ヤクザさんにしか
見えない風貌だった。

そして獲物を探すような視線で夜の街を物色する。

そこにキャッチのお兄さんが声を掛けてきた。


「どうですかぁ今晩一杯?可愛い娘揃ってますよ〜。」

「いや、今日は先約があってな・・悪いが遠慮するよ。」

渋く決めた。と思いきや・・

「1時間2千円にしますからワンタイムだけでもどうですか?」

「何!?ワンタイム2千円だと・・・・仕方がないワンタイムだけだぞ。」

そう言うと、ピンクのネオンに輝く「美少女クラブM」と書かれたキャバクラへ姿を消していった。

中に入ると、薄暗い店内には最近人気のアーティストの曲が流れている。

ソファーでテーブルを囲む席が5席程有り、既に4席埋まっていた。

残りの一席に勿論案内された。

テーブルには焼酎のボトル、水、ウーロン茶、氷、グラス、灰皿とまぁ一般的なモノが
用意されている。

しばらくすると赤い胸元の開けたドレスを纏い、20代後半であろう女性が隣に座った。

「麻里です。よろしくお願いしま〜す。何飲みますぅ?」

「じゃぁウーロンハイで頼む。」

親父は胸ポケットからタバコを取り出すと即座にキャバ嬢はライターを取り出し点けてくれた。

キャバ嬢ならこれぐらい出来て当たり前。

勿論親父もお見通しだ。

親父の狙いは別にある。

そう、キャバ嬢が火を点けようとこちらに寄った時に親父はグラサンの奥に鋭く光る眼光で谷間を
ガン視していたのだ。

まさにどうしようもない親父である。

そうこうしているうちにウーロンハイが目の前に出された。

ウーロンハイを一口飲み、キャバ嬢と楽しくトークをしているとボーイが来て女の子の入れ替えとなった。

大体どの店もそうだが基本的に3回程入れ替わる。

まぁそんなこんなで鼻の下を終始伸ばしながら楽しんだ親父。

最後は完全に酔っ払い、外見からは想像つかない程キャバ嬢に甘えきったいた。

ボーイが最後に延長をオススメしてきたが、やっと本来の目的を思い出しキッパリ断った。

だが、キャバ嬢の名刺だけはちゃんと胸ポケットにしまい、「また来まちゅ〜」とキャバ嬢に告げ、
店を後にした。

親父は足下ふらつきながら歩き続け、一軒のバーの前までやってきた。


看板には「ビジョン」と書かれている。


中に入ると薄暗い店内には10席程のカウンター席と3つのテーブル席があった。

ただし、お客は一人もいない。

グラスを磨いていたマスターがこちらに顔を向ける。

「いらっしゃいませ。」

「よう。あんま繁盛してないみたいだな。」

「兄貴かよ・・なんだよその格好は。」

そう。このマスターが親父の唯一の兄弟であり弟の拓也である。

「バーに来るのに住職の格好じゃまずいから気合い入れてスーツで来てやったんだよ。」

「・・・まぁいいや。座んなよ。」

親父は拓也の前のカウンターに腰を下ろした。

「突然どうしたんだよ。」

「とりあえずリーガルを一杯くれよ。」

拓也はシーバス・リーガルと書かれた瓶を手に取り、手際よく氷の入ったコップに注いで親父の前に差し出した。

親父は氷を1回、2回と転がしながら口に含み、味わいながらゆっくりと喉に通した。

「拓也、2週間後に封印の儀式をやる。」

それを聞いた拓也は思い出しかのような表情をしている。

「あー、もうあれから20年経つのか・・。まさかびびっちまったとかじゃねぇだろうな。」

拓也は笑いながら言った。

だが親父の顔に笑みは無かった。

「俺の息子が・・翔が、奴に魅入られちまった。」

それを聞いた拓也の顔から笑みが一瞬にして消え去り、強ばった表情になった。

拓也は声を荒げながら言った。


「どうしてそんな事が起きたんだよ?しかもなんで翔なんだ!?だってあいつには霊感の類は無かった筈だろ?」

「いや・・多分あいつの中で目覚めていないだけなんだ。
そもそもこの一族に産まれて霊感を持たないなんて今まで聞いた事がない。
それに、翔が生まれた時に一度あいつの力を感じた事がある。まぁ赤ん坊だし生命力に満ち溢れているから
たまたまそう感じただけだと思っていたが・・・あれは勘違いでは無かったという事だな。」

親父の顔にはいつもの余裕は無く、どこか思い詰めているようだった。

「どうするつもりなんだ?」

拓也が聞いてくると、少し沈黙を挟み親父が口を開いた。

「拓也。俺はな、どうしようもない父親だと思っている。育児にしても嫁に全て任せっきりで、
父親としてやれた事なんて殆どない。だけどな、翔は俺の息子だ。一度くらい親父らしい所を
見せてやりたいんだよ。だから万が一儀式が失敗した時は俺が命をかけて翔を守ろうと思う。」

「まさか・・身代わりになるつもりか?」

「さぁな。まぁ儀式さえ上手くいけば問題ないんだが。でもお前には伝えて起きたくってな。
俺がこんな事言えるのはお前しかいないだろ?」


親父の目は正に覚悟を決めた男の目だった。
そんな親父を見つめる拓也も観念したように、

「わかったよ。万が一そうなっちまった時は俺に後の事は任せろ。
全く・・・また婚期が遅れちまうぜ。」

皮肉を言いながらも熱く心に決める拓也であった。

親父はその後、兄弟話に花を咲かせ気付くともう夜の12時を回ろうとしていた。

その頃になると店の中もそこそこお客が入り静かなBGMのもと皆お酒を飲みながら楽しんでいる。

「ほんじゃそろそろ帰るわ。仕事がんばれよ。」

「あぁ。兄貴も身体に気をつけてな。」

親父は右手を挙げてゆっくりと店を後にした。

外にはクリスマスシーズンの為、店毎に色とりどりのイルミネーションを輝かせ夜の世界を
彩っている。

「さぁて帰ろう。」

そう呟くと親父は駅へと向かった。

電車に20分程揺られて最寄りの駅へと辿り着く。

そこから家までは徒歩5分程。

家に着くと嫁の美智子が帰りを待っていた。

「ただいま。」

「おかえり。遅かったわね。ご飯は?」

テーブルには今日の晩ご飯であったのだろうハンバーグの乗った皿にラップがかかっていた。

「いや。今日はいいや。拓也の所で一杯やっちったからさ。」

そう言いながら親父はスーツの上着を脱ぎ、ソファーに置いた。

そのスーツを美智子は手に取りハンガーへ掛けている。

「拓也さんは元気そうだった。」

「あぁ。結構店の方も上手くいってそうだったしな。」

「それは良かったじゃない。ん?なにかしら??」

美智子はハンガーに掛けた上着の胸ポケットからピンク色の紙を3枚取り出した。

「そ・・それは・・・・・」

「あなた・・・これ何?」

美智子の手には先程行ったキャバクラの女の子の名刺が三枚ある。

もはや先程まで穏やかだった美智子の顔が今や見る影を失い般若の形相になっていた。

「ち、違うんだ!それは・・・(ダメだ−!いい訳が思いつかねー!!)」

「あなたちょっとこっちへいらっしゃい・・」

その後、美智子のお説教は朝方まで続いた。

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