小説『祟り神と俺』
作者:神たん()

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────場所は戻り、ここはG神社。────


「ようし。これで3日間の滝行がやっと終わったー!よく我慢した息子よ。」

俺は滝行をやりきり、神社へと戻っている。

境内に入ると熊さんが竹箒を持ち掃除をしていた。

参拝に聞いている人も結構いるが今日はカップルが目立つ。

まぁなんたって今日は12月24日。そう、クリスマスイブなのだ。

「熊さんやりきりました−!」

熊さんは俺に気付き近寄ってくる。

「おぉ。よくやったな。それじゃ今日は街に遊びにいってもいいぞ。たまには息抜きをせんとな。」

「まじすか!?よっしゃー!あの・・・沙織ちゃんも誘っていいですか?」

熊さんは一瞬険しい表情になり、俺に言った。

「なにか変な事をしたらただじゃおかんぞ?」

熊さんがそんな事言うとマジで洒落にならん。

俺は慌てて、

「何もしませんよ!!!だって沙織ちゃんもたまには遊びたいだろうし!」

すると、沙織ちゃんが本殿から出てきた。

「なにを叫んでるんですか?」

熊さんは咄嗟にポケットから何かを取り出し俺に投げた。

それをなんとかキャッチする。

「まぁそれで今日一日どっか行ってこい。後は沙織に任せる。」

そう言うと熊さんは本殿の中へと行ってしまった。

俺はキャッチした物を確認してみる。

それはなんと車のカギのようだった。

沙織ちゃんは状況がわからないような顔をしている。

「沙織ちゃん。今日街に遊びに行きませんか?」

俺は久しぶりにドキドキした。
なんか告白しているような気分。

少しの間をあけて沙織ちゃんが、

「えぇ。いいですよ。今日はクリスマスイブですしね」と言う。


(よっしゃーー!!!)

俺は心の中で大きくガッツポーズをし、本当に嬉しかった。

「では、支度してきますね。」

「あっ!俺も着替えてこなくちゃ!」

その後俺は熊さんの部屋へ自分の持ち込んだ荷物の中から服を取り出し着替えた。

元々アシンメトリーの髪型だが今日はワックスを使い髪に遊びを持たせる。

最後に歯磨きをして準備万端。

俺は駐車場へと向かった。

駐車場には熊さんの愛車が停められている。

1966年型のシボレーインパラ。

V8エンジンを積んだ今では滅多にお目にかかれない車だ。

ドアを開けると時代を感じさせる車内。

よく熊さんの体格で座れたものだと関心してしまう。

運転席に座ると左ハンドルの為なんだかしっくりこない。

だが俺はこの車に乗れた事だけで感動ものだ。

すると沙織ちゃんがこちらに歩ってきているのが見えた。

沙織ちゃんの姿はいつもの味気ない素朴な格好とは違い、

都会の娘を思わせるようなオシャレな服装に薄らと化粧をしているのが伺える。

もうあまりの可愛さに間近でみると絶句してしまった。

「お待たせしました。ではお願いします。」

そう言われて、はっ!と我に返りエンジンを掛ける。

ブゥオン・・・ブルブルブル・・・と快音を響かせた。

こんなにも緊張するのは生まれて初めてだ。

大学の頃、文化系のサークルに入っていたが、それも名ばかりで実際は週1での合コン三昧。

今までの女性とは適当に付き合っては別れてが毎回で、
いつも彼女に「本当にうちの事好きなん?」、「うちとなんで付き合ったの?」等よく言われた挙げ句に
去って行くパターンが大半を占めている。

でも、今回は違う。俺は本当の意味で惚れてしまったのかもしれない。

沙織ちゃんと一緒にいる時間が何よりも楽しいし、時間を忘れられる。

こんな気持ち初めてだ。

そんな事を運転しながら思ってしまった。

運転しだしてから15分程で山道も抜けて街が見えてきた。

車のラジオからはクリスマスでお決まりの名曲達が流れている。

俺は何か話題を、と思い喋ってみた。

「今日はどこいこっか?」

一応こっちの街にはなんどか遊びにきた事がある為、大体の道は把握している。

「ん〜・・私、映画がみたいです。」

「それじゃ、駅前のシネマクラブにいこっか。」

「はい!」

沙織ちゃんの嬉しそうな表情を見て俺も嬉しくなった。

シネマクラブにはここから5分程で着く。

「何か見たい映画でもあるの?」

俺が聞いてみると、

「クリスマスの奇跡、というのを見てみたいです。」

「あー!こないだ夕飯食べてる時にTVでCM流れてたよね。」

「それですそれです!ずっと気になってました」

沙織ちゃんのキラキラした目がこちらに向く度にドキドキしてしまう。

映画館の駐車場に車を停めて外にでた。

なんだか山の中に比べて街の方は幾分暖かく感じた。

「じゃぁいこっか!」

「はい。」

映画館の自動ドアをくぐり中に入るとやはりクリスマスイブなだけあってカップルで賑わっている。

俺はチケットを買う為に売り場に沙織ちゃんと一緒に並びながら上映時間の表示してある掲示板を眺めていた。

「お!クリスマスの奇跡って後20分で上映じゃん。ちょうど良かったね!」

「やった!でも、席空いてるかなぁ」

「任せな!今日の俺は運がいいから大丈夫さ。なんたってクリスマスイブに沙織ちゃんと遊べてるんだから」

俺は笑いながら言った。

「ふふふ、大袈裟ですよ。でも、私も翔さんとこうやって遊べて嬉しいですよ」

俺はそれを聞いた瞬間、嬉しくて「本当に!?本当に!?」となんども聞いてしまった。

沙織ちゃんも笑いながら「本当です」と答えてくれた。

そこでやっと俺達の番となり、売り場店員に空いているか聞いてみると、

「10:20分上映のクリスマスの奇跡ですね。少々お待ち下さい。・・・・あ!ちょうど2名様席空いてますね」

「じゃぁそこでお願いします」と言い、財布から二人分の映画代を払った。

チケットを受け取り沙織ちゃんに一枚渡す。

「有り難うございます!本当に空いてましたね。」

沙織ちゃんの顔がニコニコしている。

「やっぱ今日の俺は運がいいんだよ」

俺も笑いながら言った。

俺は沙織ちゃんとチケットに書かれた3番シアターへと向かった。

途中で店員にチケットを渡して半券にしてもらう。

3番シアターへ入ると意外と結構広かった。

俺達の席は一番後ろから2列目。

少し端っこ寄りではあるが余り物にしては上出来だ。

席に着くとそれとほぼ同時に暗くなり出した。

最初は新作映画の紹介から始まり、館内の注意事項等が映し出される。

そしてやっとクリスマスの奇跡が始まった。

あまり恋愛モノは見ない俺だがなかなか面白い。

主人公の冴えない男性が一人の女性を好きになってしまい、
なんとか振り向いて貰おうとするけど、いろいろな壁が立ち塞がる。
それを乗り越えて最終的にはクリスマスの日に結ばれるという、コメディ要素を含んだ
恋愛映画となっている。

クライマックスに近づくにつれて盛り上がりが最高潮になり見ているこっちが手に汗にぎる展開になり、
最後男性が告白するシーンで、沙織ちゃんが俺の手を強く握ってきた。

まぁ見事に成功し、ハッピーエンドって感じだったがそれよりも沙織ちゃんの手が気になってしまい俺は映画所では
無くなっていた。

映画が終わり辺りが明るくなると初めてそこで沙織ちゃんは俺の手を握っている事に気付き慌てて謝ってきた。

「ごめんなさい!自分でも無意識で気付きませんでした」

薄らと顔を赤らめている表情がまた可愛い。

「いやいや、全然!最後かなり盛り上がってたししょうがないよ」

俺はそう言い、謝る沙織ちゃんをフォローした。

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