小説『祟り神と俺』
作者:神たん()

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俺達は映画の余韻が冷めぬまま一旦喫茶店に入る事にした。

その喫茶店は映画館の前の交差点を渡るとある。

外観が色とりどりの煉瓦で覆われており、どこか真新しい感じがした。

中に入ると店内は昭和の時代を思わせるようなレトロな雰囲気で、時計や壁に描かれた絵なども
時代を感じさせるようなモノだった。
広さも、5つの4人掛けのテーブルがあるだけなので、入れて20人といった所だろう。

お客さんも一組だけ既にいる。

すると可愛らしいエプロンを身に付けた若い女性が奥から出てきた。

「いらっしゃいませ。お好きな席にお座り下さい。」

俺達は一番入り口から遠い所に座った。

「ご注文がお決まりの頃伺いますね。」

そう言い、また奥へと行ってしまった。

多分そこが厨房なのだろう。

俺はメニュー表を手に取りテーブルに広げると、そこにはいろんな種類のオムライスやパスタ等の
普通の洋食屋さんのメニューからサイドメニューまでいろいろとあった。

もうお昼だという事もあり俺はカルボナーラパスタを、沙織ちゃんはオムライスを頼んだ。

料理が来る間も先程の映画の「あのシーンが良かったね」、「あの俳優さん誰だろう?」と
話が盛り上がっていると新たにお客さんが入ってくるのが見えた。

30代ほどの紺のコートを来た男性だ。

表情は何処か暗く、陰湿な雰囲気がある。

それになにか背後に黒いモノが蠢いているような、ハッキリとはわからないが変なモノが見えた気がした。

沙織ちゃんがまだ映画の事を楽しそうに話しかけていたが、俺の目線に気付き男性の方に振り返った。

すると、沙織ちゃんはすぐにこちらに顔を戻し小さな声で・・

「あんまり気にしない方がいいよ。翔さんにも見えてるんでしょ?」

俺は最初何の事だか分からなかった。でもすぐに分かる事となる。

「あの人何か良くないモノに憑かれてるね。」

「え?もしかして俺さっきあの人の背後に黒い変なモノが見えたのって、
これももしかして奴の・・・祟り神の力のせい?」

「ハッキリとは分かりませんが、私も霊感があるのであの人を見た瞬間何か嫌な感じがしました。
私もお父さんから聞いたのですが、封印してある祟り神の力は翔さんが干渉した事により
少し移ってしまったらしいのですが、この滝行によって殆どその嫌な力は感じなくなったみたいです。
ただ、滝行は神の道に従う者にとっての修行の一つなので、それを行う事によって翔さん自体に今まで
眠っていた霊感等が少しずつ目覚めて来てくるかもと言っていました。」

俺はそれを聞いて納得した。

「・・俺最近神社に参拝にくる人を見てると、顔がぼやけて見えたり、変な風に写る事があったのは
そのせいだったのか・・」

「とりあえず、これからはそういったモノを見かけた時はあまり気にしないようにした方がいいですね。
最悪向こうにこちらが気付いている事を知られると憑いてきてしまう事がありますので。」

俺は今までそんな事気にしながら生活してこなかったから、なんだか現実味が無いけどこの1週間程で
非現実的な事が間近で次々と起きていた為信じるしか無かった。

「わかった。気をつけるようにするよ。」

俺はその後特に気にする事なく沙織ちゃんとまた雑談を始めた頃に料理が運ばれてきた。

久しぶりにカルボナーラを食べたがなかなか美味い。

沙織ちゃんのオムライスも美味しかったらしく満足してくれたようだ。

そして、そろそろ出よっかとなり席を立ち上がる。

俺は先程の男性に視線を移すと、何か本を読んでいるようだった。

そしてレジへと向かう際にその本の表紙を横目で覗いてみた。


”〜歴史に隠された影〜”

と書かれていた。


(歴史の暗い所を知るのが好きなのかなぁ。)

などと思ったが、まぁその男の雰囲気からしてオカルトちっくなモノが好きでも納得できるなと思った。

俺は会計を済ませ外に出ると沙織ちゃんが「ご馳走様でした。今日奢って貰ってばかりですが大丈夫ですか?」
と、聞いてきたので、「全然大丈夫だよ」と答えた。

でも実際フリーターの俺には今日一日奢るのが精一杯だった。

そこで初めて忘れていた事を思い出した。


(バイト先に休暇もらうの忘れてた・・・。クビだな・・・・。)

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