その頃、実家の神社では、親父と長兄が慌ただしく動いていた。
「おい!敦!なにか変わった事はないか!?」
敦とは長兄の名である。
「いや!カギが壊された以外特に触られた形跡もないよ!」
「若い奴が面白半分にこじ開けたってか!?」
親父と長兄がいるのは鳥居を潜り本堂の裏手にある小さな小屋だった。
そう。そこが、封印の間なのである。
いつもは、拳ほどもある南京錠で堅く閉ざしてあるのだが、
今日親父が別件の用事があり神社に来ると南京錠が何者かによってこじ開けられていたらしい。
「こんな時期に素人があの部屋に入っちまったらどうなるかわからんぞ!」
親父はいつになく声を荒げている。
「親父。少し落ち着いてくれよ。とりあえず小屋の中は荒らされていなかったからドア開けてビビって帰ったんじゃねぇか?」
「それでも、時期が時期だけに心配だ。奴の力は日増しに強くなって来ている。何も起こらなければいいんだが・・」
長兄がとりあえず新しい南京錠を取り付けその上にお札を貼り付けた。
「兎に角これからは見回りを行うようにするか。」
「そうだね。」
親父達は小屋を背に鳥居へと歩き出す。
その時突然親父の背中に悪寒が走った。
先程まで吹いていた風の音も木々の揺れる音も全て消えている。
まさに無音の世界。
今まで味わった事の無い程の激しい悪寒だ。
身体を動かす事さえ出来ない。
ドサッ!
親父は横目で音のした方を見ると長兄が倒れている。
声を出そうとしたが何故か声を出す事もできない。
その直後、脳へ直接語りかけるように声が聞こえてきた。
「汚らわしき・・人間よ・・・いくら足掻こうと・・もう時既に遅い・・・。
何百年と待ち続け・・とうとう贄となる者が現れおったわ・・・・。
貴様の息子がわらわの忌々しい鎖を・・・砕いてくれよう・・・・。
ひとつ問おう・・・・新月の夜までわらわが待つと思っておるのか?」
親父は何かを言い出そうとしているが声がでない。
だが、思った事が奴には通じているようだった。
「貴様に息子はやらん!待つも何も貴様はまだ封印されているんだから何もできんだろうが!」
「フフフッ・・愚かな・・・・。わらわの力を甘く見ない事だな。
わらわが復活した際は貴様の一族を根絶やしにしてくれるわ・・」
「言いたい放題言いやがってこの糞野郎!貴様の思い通りにはさせん!」
「神に向かって暴言を吐くとは・・・まぁ良かろう。精々頑張る事だな。」
すると、先程までの悪寒は消え去り音のある世界へと戻ったようだった。
親父は長兄に駆け寄る。
「おい。しっかりしろ!」
親父が呼びかけると長兄は・・
「ん・・あれ?なんで俺・・」
あまり状況が掴めていないようだ。
親父は今起こった事を説明した。
・・・。
「まさか奴の力がこれほどまでになっているとは、思わんかったわ。」
「親父・・翔の方は大丈夫かな?」
「あいつの所には熊さんもいるし大丈夫だと思うが・・一応連絡しておくか。」
そうしてようやく家へと歩きだした。