小説『祟り神と俺』
作者:神たん()

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――─ここは翔の夢の中―――


あの日以来の夢だ。

だが、前と違い目の前には見慣れた光景が広がっていた。

「ここって・・・G神社?」

もう陽も落ち始め、夕日が赤々と光っている中、俺は鳥居の前に立っていた。

そして俺の目の前には一人の紺のコートを羽織った男が立っている。

手には黒い鞄を持ち微動だにしない。。


(この人どこかで見たような気がするなぁ)

などと、思っているとコートの男が歩き出した。

本殿に向かって一直線に歩いている。

俺もその後ろを追いかけた。

本殿に入り、2階へ続く階段へ向かっているようだ。

上からは沙織ちゃんと熊さんの声が聞こえてくる。

コートの男は階段の前で足を止め、鞄から何かを探しているようだった。

そしてゆっくりと鞄から手を引き抜くとそこには刃渡り30センチはある包丁を握りしめていた。

「おい!お前何する気だ!!」

俺はそいつの腕を押さえようとしたが身体がすり抜けてしまった。

奴には俺の声も届いていないようだ。

すると一歩ずつ階段を登り始めた。

「熊さーん!沙織ちゃん!!逃げるんだ!!!」

俺は大声で叫んだがなんの反応もない。

やはり俺の存在自体がこの夢の中だと無いようだ。

俺はコートの男をすり抜けて先に2階へ登った。

コタツのある居間へ向かうと熊さんと沙織ちゃんがコタツに入り何か話しをしている。

「ん?誰か来たのか??」

熊さんが足音に気付き立ち上がった。

「やめるんだ!熊さん!!」

俺の声が届かない事は分かっていたが叫ばずにはいられなかった。

熊さんが障子を開けた途端目の前にコートの男が立ち塞がり、熊さんは「うおっ」と後ずさりしたが
コートの男はゆっくり近づき熊さんの胸めがけて一突きした。

「ぐはっ・・」

熊さんの巨体がうめき声と共に倒れる。

その直後に沙織ちゃんの悲鳴が聞こえた。

沙織ちゃんはコタツからでて逃げようとするが、そのコートの男もまたゆっくりと近づいていく。

もはや沙織ちゃんは泣きながら「来ないで!」と叫んでいた。

それでもコートの男は止まらない。

俺はあまりの惨状に呆然としていた。

コートの男は沙織ちゃんの目の前まで来ると半分以上血で濡れた包丁を構える。

俺は咄嗟にコートの男と沙織ちゃんの間に入り盾になろうとしたが、無情にも包丁は俺の身体をすり抜け、
沙織ちゃんの肩へと突き刺さった。


沙織ちゃんは「痛い!痛い!!」と叫びながら肩を押さえその場に倒れこんだ。

それでも四つん這いになりながらも必死に逃げる。

だが、コートの男は沙織ちゃんに近づくと包丁を逆手に持ち振りかぶりながら背中に突き刺した。

「うおおおおおおおお!!てめぇぇぇ!!!!」

俺は男の胸ぐらを掴もうとしたがすり抜けてしまう。

するとバタバタと階段を駆け上る音が聞こえた。

そこに現れたのは、俺だった。

息を切らした俺が目の前にいる。

不思議な光景だった。

この世界の俺は一面血の海となったこの部屋を見て固まっている。

「お・・お前がやったのか・・?」

声が震えている。

だが、コートの男は黙って動かない。

「なんで・・・なんでこうなる!ふざけんなよ!!」

目の前の俺は怒りにプルプルと震えている。

すると、初めてコートの男が口を開いた。

「イッショニキテモラオウ」

なんとも無機質で生きてる人間の声とは思えなかった。

目の前の俺はなぜかその声を聞いた途端に先程まで怒りに満ちていた目から
生気がなくなり、ゆっくりと歩くコートの男の後ろについて行ってしまった。

俺はあまりの光景に唯々呆然としていると、そこで目が覚めた。

枕が濡れている。

俺は夢を見ながら泣いていたようだ。

部屋には朝日が差し込んでおり、隣に熊さんの姿はなかった。

俺は心配になり、急いで居間へと向かう。

そこには夢の世界とは別モノのいつもの光景が広がっていた。

「あら。おはよう御座います。今日は遅かったですね。あれ?目が充血してますよ?」

沙織ちゃんは掃除をしているようだった。

手にはハンドモップが握られている。

「おはよう・・ございます。あ・・ごめん。なんか目が痒くって。でも、良かった。熊さんは?」

沙織ちゃんはいつもの笑顔を見せながら「急な用事が入ったようで今は部屋で準備してますわ。」と言った。

すると、熊さんがこっちにやってきて・・

「翔。今日は修行が出来なくなってしまった。急遽お祓いに行く事になっちまってな。翔も手伝ってくれや」

突然の事に俺はビックリした。

お祓いなんてやった事ないし、でも霊的なモノが見えるようになったから少し興味が沸き、
行く事を了承した。

俺も急いで準備をし、駐車場へ向かった。

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