小説『祟り神と俺』
作者:神たん()

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インパラの前で熊さんが待っている。

今日も坊さんの格好で行くみたいだ。

車に乗り込み熊さんに聞いてみた。

「どこへ向かうんです?」

熊さんはエンジンを掛けながら答えた。

「ここから30分程東に走ると小さな町がある。そこに住んでいる女性から連絡があった。
息子の様子が最近おかしいみたいでな。念の為見てくれとの事だ。」

「どんな風におかしいんですかね?」

「まぁ話によると最近飯も食わず、塞ぎがちで、突然訳のわからん事を言ったりするらしい。
病院にも連れて行ったみたいだが鬱病としか言われなかったと、言っていたな。」

「それって単純にただの鬱病なんじゃ?」

「そこらへんは見てみんとわからんな。ただあちらさんは藁にもすがる思いなんだろ」

まぁこの世の中じゃ霊的なモノを信じる人は一握りだろうし、ダメ元で頼んだんだろうなと俺は思った。

熊さんは軽快に山道を走らせていく。

すると、小さな町が姿を現した。

なんだか本当に田舎と言う言葉が良く似合う町だ。

周りには大きな建物はあまり無く、田んぼや畑が目立つ。

そんな道を走ること5分。

目的地へ辿り着いた。

そこは普通の一軒家で、築10年といった所か。

熊さんは車を停めて、トランクから大きなバックを取り出した。

玄関からは40前後の奥様らしき方が出てきた。

お互い軽くお辞儀をする。

「わざわざ有り難う御座います。どうぞ、中へ。」

俺達は奥様の後ろについて行った。

リビングへ通され高級そうなソファーに腰を掛ける。

奥様は奥から紅茶を入れて持ってきてくれた。

「どうぞ、お構いなく。それで息子さんは2階ですか?」

熊さんが問いかけると奥様は頷いた。

確かにこの家にあがってからというもの、上の方から嫌な感じがする。

「最近はいつも部屋に籠もりっぱなしで食事を持って行ってもたまにしか食べません。」

奥様はそう言うと、目に涙を浮かべながら熊さんに言った。

「どうか息子を助けて下さい。このままでは死んでしまいます。」

「わかりました。では部屋へ案内して下さい。」

俺達は紅茶に手を付けずに2階へと案内してもらった。

階段を登る度に嫌な感じが強くなってきている。

なんと表現したらいいのか・・・まるで負のオーラと言うべきかな。

一歩一歩階段を登りきり、そして一つのドアの前に到着した。

「アキラ!ドア開けるわよ」

奥様の問いかけに反応は無かった。

熊さんが「失礼。」と言いドアノブに手を掛ける。

ゆっくりとドアノブを回し、ドアがギギィと音をたてて開いた。

部屋の中を見ると俺は咄嗟に口に手をあてて吐きそうになった。

部屋の中は非常に荒れていて、足の踏み場も無いくらいに物が散乱している。
窓には全てカーテンをし、陽の光は一切なくこの空間だけが夜の世界を作りだしているように思えた。

奥にはベッドがあり、その上に息子さんが座っている。

熊さんはズカズカと部屋の中へ入り全てのカーテンを開けた。

やっとこの部屋に光りが入り息子さんの顔がハッキリと見えてきたが、
その顔を見て俺達は言葉を失う。

頬は痩せこけ、目の下にはクマが出来、茶髪の頭はボサボサで目に生気が無く唯々空中を見つめていた。



それに霊の姿もある。



「こりゃまずいな。奥さん、一旦息子さんをリビングに連れて行きますね」

熊さんは息子さんを抱きかかえリビングへと運んだ。

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