小説『祟り神と俺』
作者:神たん()

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「アキラしっかりして!」

奥さんは息子さんに声を掛け続けているが、反応はない。
歳は10代後半といった所か。

「翔。ちょっとこっちへ来てくれ。」

俺は熊さんに呼ばれ一旦外に出た。

「翔。あいつに憑いてる霊が見えたか?」

「はい。見えました。なんか顔が無い赤ちゃんみたいなのが3体と息子さんの肩に細い腕が巻き付いてましたね」

熊さんは頷き、かなり神妙な面持ちで答えた。

「ありゃ水子だ。しかも3体おる。それに加えて女の霊までおったわ。多分母親だろう。」

俺は水子と聞いて納得した。

昔親父に聞いた事があったからだ。

水子は妊娠後に中絶する事により生まれる。

悲しさや、悔しさ、嫉みなどといった負の力が非常に強く一般的な浮遊霊と違い必ず血の繋がったモノに取り憑く。

力が強い為早めに供養をしないと取り返しのつかない事になるから、とりあえずセックスする時は避妊しろと
親父が言っていた。

「それにあそこまで霊障によって衰弱しきっているとなるともう・・・無理かもしれんな」

「じゃぁ何もしないで帰るんですか?」

熊さんは珍しく困った顔をしている。

「彼はもう手遅れだが、彼を取り込んだ後、他の親族にまで影響が及ぶだろうからそれだけは防がねばならんな」

「奥様には・・・なんて言うんですか?」

「そうじゃのう。やるだけの事はやるが保証は出来ないと言うしかないか。」

その後俺達は家へと再び戻ったがその足取りはとても重かった。

俺達はリビングへ戻ると、熊さんが泣きながら息子の名前を呼ぶ奥様に問いかけた。

「奥さん。息子さんの事ですが・・・水子の霊が取り憑いております。
分かる範囲で宜しいのですが、息子さんは以前女性を妊娠させた事はありますか?」

「え?そんな話聞いた事ないですわ!何かの間違いでは・・」

「いいえ。息子さんには3体の水子が取り憑いています。それに多分その水子の母親の霊も見えます。
霊を慰める上で、どのようにしてこうなったか真実が知りたいのです。」

奥様は何かを思い出そうと考えているが「わからない」と言うだけだった。

「奥さん。とりあえず、やるだけの事はやってみますが、息子さんが助かるかは保証できません。」

「御願い・・・息子を助けて・・・大事な1人息子なの・・・・」

熊さんは大きな鞄から

蝋燭、数珠、日本酒、日本酒を注ぐのであろう器、塩、お札、そして最後に布にくるまった何かを取り出す。

俺はその布にくるまった何かを見た時、実家にあるオキツネ様の銅像を思い出した。

熊さんはその布を広げて床に敷く。

その布の中から出てきたのは、白い牙のようなモノだった。

布の上に火の点いた蝋燭、日本酒を注いだ器、その目の前に白い牙のようなモノを置いた。

そして息子さんに塩を一つまみ振り掛けて胸の辺りにお札を貼り付ける。

塩が掛かった瞬間息子さんの表情が一瞬苦悶の表情になった気がした。

「よし。これで霊は息子さんから離れられなくなったので、除霊中に我々に危害が及ぶ事はないでしょう。
では、始めますので奥さんは別室でお待ちになっていて下さい。」

「え?なぜですか?」

「これから息子さんが苦しんだり、叫んだりするかもしれないので、それを見て奥さんが万が一取り乱したりすると、こちらも危なくなりますのでどうぞ別室でお待ち下さい。」

熊さんにそう言われ渋々奥様は2階へと登っていった。

「翔。うちの神様が何か知ってるんだっけか?」

「いえ。ただ境内の所々に犬の置物があったのでそっち系かと・・」

「そうだ。うちは代々犬神様を祭る神社だからの。まぁ犬というか実際は狼じゃけれど。
 じゃぁ早速始めるぞ。」

熊さんは先程の布の上に蝋燭や酒の器を置いて作った簡易的な祭壇の前に正座しお経を読み上げ始めた。

俺も熊さんの後ろに正座し、目を瞑り精神を落ち着かせる。

すると、瞼の裏に光が差し込んできたのでゆっくり目を開けた。

目の前にはお経を読み上げる熊さんと、祭壇の横に黒い大きな狼が佇んでいる。

狼の口には鋭い牙が見え隠れし、凛々しくも見える。

すると熊さんのお経が終わった。

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