小説『祟り神と俺』
作者:神たん()

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「犬神様。お呼び出し致して申し訳ない。」

犬神様は日本酒をペロペロ飲んでいる。

その後脳内に直接語り掛けてきた。

「こやつはもう無理じゃな。水子共の悲しみはもう癒えんじゃろう。それに母親の恨みも強いのぅ」

「どうにかする方法はございませんか?」

「母親がこの者を許し成仏すれば自ずと子供達も連れて行ってくれるじゃろうが・・難しいのう。」

犬神様は外見の凜々しさから想像出来ない程お腹を出しながらゴロゴロしている。

「む?その若いのは誰ぞ?」

「紹介が遅れました。こちら翔と言う者で祟り神の所のせがれです。」

「ほぅ。また数奇な運命をお持ちのようだ。どれどれ御主の中身を見てみるかの。」

犬神様は口元をハァハァ言わせてこちらを見つめている。

「犬神様はその人の深い所まで見通す力がおありだからお前の眠っているモノがなにかわかるかもしれんな。」

と、熊さんが言った。

しばらくするとまた脳内に声が聞こえた。

「なんと・・・神産巣日神様の面影が見える。まさか・・・この世に生まれる前に愛されたとでもいうのか」

「神産巣日神様?」

俺は初めて聞いた名前だった。すると熊さんが声を荒げながら言った。

「神産巣日神様ですと!??それは本当ですか?」

「ワシには面影が見える。御主は神産巣日神様を知らんのか。我々日本の神の最初の女神様じゃ。
 熊よ。後で説明してやれい。」

「わ、わかりました。」

俺にはさっぱり意味が分からなかった。

「さぁてどうしたものかのぉ」

犬神様も困っているようだ。

「犬神様からこの霊達に語りかけて貰えませぬか?」

「うむ。熊よ。お経を読み続けよ。」

熊さんは「はい。」と言うとまたお経を読み始めた。

なにか先程とは違うように聞こえる。

やはり神様を呼び出す為のモノと別れているようだ。

俺は特にやれる事がないので息子さんを見つめていた。

息子さんの身体にのし掛かるように3体の顔の無い赤ん坊がいる。

首には細い腕が巻き付き、未だに母親の霊は姿を現さない。

俺は何も出来ないながらも目を瞑り心から赤ん坊達が成仏出来るように祈った。




・・・。



どれくらい経っただろうか。

俺はゆっくり目を開けてみた。

するとそこには息子の身体から赤ん坊達が離れて俺の目の前までやってきていた。

俺は咄嗟に「うわっ」と声を上げてしまったら熊さんもお経を止めこちらに振り返った。

なぜか先程までいた犬神様の姿が見当たらない。

熊さんが叫んでいる。

「このお札で出れんようにした筈だが、この水子共どうやって出やがった!?翔!離れろ!!」

俺は熊さんにそう言われたが何故か離れなかった。

いや・・離れられなかったというべきか。

なぜならその赤ん坊達に悪い気が感じられなかったからである。

それに先程までとは違い3体の赤ん坊には顔があった。

目は閉じていてお母さんを必死に探しているようにゆっくりとこちらへ近づいてくる。

俺はなぜか涙が出てきた。

日頃から余程の事がないと泣かない俺が泣いているんだ。

俺はそっと一体の赤ん坊を抱きあげる。

すると赤ん坊は先程までとは違い、安らかな表情をした後に消えていってしまった。

残りの2体も同様に俺が抱きかかえると皆落ち着いた優しい表情になり消えていった。

まさに成仏とはこのような事をいうのだろうか・・


「どういう事だ・・赤ん坊に悪い気が無くなったから出れたのか?
 だが何故そうなったんだ?」


熊さんが問いかけると突然また脳内に声が響いた。


そう。犬神様だ。

「翔よ。御主は心から子供達の成仏を願う事により子供達がそれに反応したのだろう。
 だがそれも、神産巣日神様のお力があってだの。熊に説明させるつもりじゃったがワシが
 話してやろう。神産巣日神様(カミムスビガミ)とは日本最古の3神の1人。
 神産巣日神様は簡単に説明すると創造の神じゃ。男女のムスビを象徴する神でもある。
 とても慈悲深く、ワシらもそういった神から生まれた存在なんじゃ。多分お前のうちに秘める
 その暖かい力が子供達にとっては母親の愛情のように思えたのだろう。
 あの子らは愛に飢えていたんじゃろうな。」


犬神様の言葉を聞いた後俺は心から子供達に冥福を祈った。

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