小説『祟り神と俺』
作者:神たん()

しおりをはさむ/はずす ここまでで読み終える << 前のページへ 次のページへ >>


・・・・・。




親父が始めてからどれくらい経ったのだろう。

5分。。嫌、10分は経ったであろうか。

まだ親父はひたすら唱え続けている。

俺の緊張の糸が解けだした頃突然、先程まで肌寒かったトンネル内に

暖かい風が流れ込んできた。

ふと、トンネルの先を見つめると先程までどこまでも道が続いていたが、そかから光が溢れてきて

あっという間に目の前が眩しくて前が見えない程になっていた。

ただ、この感覚最近どこかで味わった気がする。


だが、その答えを知るまでにそう時間は掛からなかった。


そう。夢で闇の中から救いだしてくれたあの光だ。

最近の事なのだが懐かしくも感じる程、心地のよいモノだった。

目を細めていると光の中から人影が見え始めた。

すると段々と光りも弱まり、その人影の姿がはっきりと見えてくる。

その姿は白い装束衣装のような物を羽織り、綺麗な長い黒髪、整った輪郭、細くつり上がった目元、
ぷっくりと重厚のある赤い唇、身長も170?程あるであろう。
普通にモデルをやっていそうなスタイルの良さ。
このトンネルに場違いと思わせる程の絶世の美女が目の前に現れたのだ。

俺はあまりの光景に言葉が出ずにいた。
すると沈黙を破るかのように親父が前へ出てそのまま一礼した。
それに続くかのように俺も頭を下げた。

「オキツネ様、このような場所にお呼び出ししてしまった事をお許し下さい。」

そう言うと親父はまた深々と頭を下げた。

すると、オキツネ様の口が動きだした。


「まったくじゃ。む?そこにおる小僧は今朝救い出した小僧かの」


「そうです。度重なるご助力には一族一同大変感謝しております。」


オキツネ様は見た目とは裏腹に、鋭い眼光で誰も寄せ付けぬような迫力があり、
その姿に俺は完全に固まってしまっていた。


「小僧から、不快な気を感じるのぅ。こればかりは取り除く事は出来ん。
 奴を鎮めん限りはな。」


オキツネ様と目が合う度全てを見透かされているようだった。

「一応儀式が終わるまでは結界を張りその中に居てもらおうと考えています。」

オキツネ様は何かを考えているようだったが、すぐに口を開いた。

「まぁそれも良かろう。ただ小僧の中に奴の力の一部が留まっている以上、
何が起きるかわからん。気をつける事だな。」

親父は深々と頭を下げた。

「ご忠告有り難う御座います。それと、もうお気づきかと思いますが、
今この空間に我々は閉じ込められてしまいました。何かこの状況を
打開する手立ては御座いませんか?」

オキツネ様の口元が微かに緩んだ気がした。

「わらわがここに舞い降りる際に、山の神とは話を付けておいた
もう大丈夫であろう。」

親父と俺は再度深々と頭を下げ礼を言った。

顔を上げた時にはもうすでにオキツネ様の姿はなくなっていたが、

その代わり、視線の先にはトンネルの出口の向こうにある明るい日の光だけが差し込んでいた。

親父はオキツネ様の銅像もろもろを片付け車にしまい出口に向かい
車を走らせた。

俺は初めて神というモノの実体を目の当たりにして、
感動とも言い難い感情を抱いていた。

「親父・・オキツネ様って超美人だな。」

もはやどうでもいい事を口走ってしまったが、
意外と親父はオキツネ様について語ってくれた。

「オキツネ様のあのお姿は遠い昔、初代巫女様のお姿だ。」

親父はそう言い話を続けた。

「元々狐というのは妖怪だ。朝鮮の方から来たとも言われている。
金色に輝く狐。九尾の伝説はお前も少しは知っているだろう。」

確かに小さい頃から親父や親戚に昔話しをされる事はよくあった。
まぁ子供をあやす作り話だと思っていたがね。

「九尾はその時代3本の指に入る程恐れられていたんだ。その猛威は凄まじく
人々は困り果て、その時非常に強い力を持った巫女様に助けを求めた。それが
うちの一族の最も古いご先祖だ。」

そこまで聞いて一つ疑問が浮かんだ。

「え?もしかしてその九尾が今の神って事?」


親父は静かに頷いた。


「そうだな。最終的にはそうなる。」


「てことは、最初は別の神がうちの一族には居たって事か?」


もはやいろいろな情報が交差して訳分からなくなっていた。


「いや・・うちには元々神など存在しなかった。さっきお前に話した通り人外のモノには
人間は太刀打ち出来ないと言ったが、極稀に非常に強い力を持った者がいるのも事実。
生まれた時からなにかしらの御加護があったんだろう。それが初代巫女様。
だが、人々から助けを求められた時には巫女様のお腹には新しい命が宿っていた。
巫女は基本的に処女でなければならない。処女で無くなると同時に霊力も弱まってしまう為
巫女としての働きが出来なくなってしまうからだ。」



俺も巫女については聞いた事はあるが迷信だと思っていた。

「だから巫女様には九尾を封印する力など残っていなかった。
但し断る訳にもいかずお腹の赤ん坊の事は伏せ、引き受ける事とした。
人々には封印には時間が掛かると告げ、その間に子供を無事出産。
生まれてきた子供を夫に預け、九尾の元へと行ったのさ。」


「九尾の猛威は予想を遙かに超えていたらしい。その周辺の村や町は疫病や災厄により
ほぼ壊滅的な打撃を受けていた。だが封印したくても巫女様にはもう力はない。」

すると、親父は俺に「巫女様はどうしたと思う?」と聞いてきた。


「・・・赤ん坊を生け贄にしたとか?」

親父は呆れた顔で返した。

「お前は本当にアホだな。赤ん坊居なくなったらそこで一族消滅だぞ。」

「いや・・・また子供作ったとか・・・」


もう俺は何を言っているのだろう。
そんな事を無視して親父が話し続けた。


「巫女様は自らの体を生け贄にし行う今では禁忌とされる方法で九尾の封印を試みたんだ。」

「生け贄と言ったが正確には九尾に魂を吸い込ませる事で、
九尾の魂と巫女様の魂が触れあった時初めてこの禁術は成功する。
それ故に巫女様は九尾にある提案をした。自分の魂をくれてやる
代わりに人々を苦しめないでくれと・・。」

「そんなんで承諾したのか!?」

俺は不思議に思った。たかだか巫女一人だけで満足する奴なのか?と・・
だが親父は続けた。

「元々狐は嘘を付く生き物だ。当然巫女様の魂は頂くが人々への横暴は止めんだろう。
だが、そんな事は巫女様も分かっていた。とにかく魂さえ奴の中に入れば成功するのだから。
そして九尾は巫女様を飲み込んだ。すると九尾の中で異変が起きた。先程まで満ち溢れていた
エネルギーが消えていき、ただの小さな狐になってしまったんだ。
そうして巫女様が九尾の邪悪な魂を浄化し、巫女様の魂と九尾の魂の融合により
一族のこれからを守る今でいう守り神となったらしい。」

話終えると俺は今まで自分の一族についてのこれほど無知だった事を痛感した。

-6-
Copyright ©神たん All Rights Reserved 
<< 前のページへ 次のページへ >> ここまでで読み終える