小説『祟り神と俺』
作者:神たん()

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親父を見送ると熊さんが、

「よし。飯の支度をせんとな。今日は俺の特製鍋だ」

すると沙織ちゃんが、

「お風呂の用意は私がしておきますね。」

俺も何もしない訳には・・

「俺も何か手伝える事ないですか?」

すると熊さんが

「それじゃ沙織の方を手伝ってやってくれ。」

「わかりました。」

すると沙織ちゃんも

「宜しくお願いします」

と、丁寧に返してきた。

余りの礼儀の良さにまさにこれこそ日本女性の鏡だと思った。

「お風呂場はこちらですので付いてきて下さい。」

俺も一度だけここの風呂に入った記憶があるが、確か
本殿の1階にある渡り廊下の奥にあった気が・・・。

沙織ちゃんの後を付いて行くと自分の記憶が正しかった事を実感した。

曇りガラスのついたドアを開けると2畳程の脱衣所があり、
さらにその奥には竹を何本も並べて出来た扉がある。

そこを開けると10畳程の広々とした風呂場が広がる。

奥には檜で出来た大人2人がゆったり入れる程の浴槽があった。

「それではこのブラシで風呂釜を磨いて頂けますか?」

そう言うと手には沙織ちゃんの背丈程あるブラシを俺に渡した。

風呂掃除なんて何年降りだろうか。

実家でも今まで何回かしかやった事がない。

でもこれ毎日沙織ちゃんがやってるのかなぁ

「お風呂掃除っていつも沙織ちゃんがやってるんですか?」

そう言いながら沙織ちゃんの方を見ると、長い黒髪を後ろで綺麗に束ね、
袖と裾を捲り上げ風呂場の床を磨いている所だった。

その手が止まりこっちに顔を向けた。

「はい。基本的には家事、炊事は私がやっています。」

「凄いなぁ。俺なんて・・・」

そこまで言いかけると言葉が喉に詰まった。

女の子の前では変に強がってしまう男の性というのか、
なんだかいつもなら特にないプライドが邪魔して、
「自分はフリーターで毎日ろくな生活をしてません」なんて、
とてもじゃないが言えなかった。

沙織ちゃんはキョトンとしている。

「いや・・ごめん。なんでもない。」

なぜか突然今までの自分の人生が恥かしく思えてきた。


(俺はなんて無駄な時間を過ごしていたんだろうか・・。)


俺はブラシを持ち直し磨こうとした時、沙織ちゃんが俺に言った。

「何か思い悩んでいるようですが・・・人間の悩みというモノはとてもちっぽけなモノ。
遅かれ早かれ必ず時間が解決してくれるのだから。そう思えば今あなたが悩んでいる事も
いずれは必ず解決するでしょう。今答えの出ない事を精一杯悩むのではなく、いつかでる答えの為に
己を鍛え備えましょう。と良く父が言っていました。
翔さんも今できる最善を尽くせばきっと答えはおのずと見えてくると思いますよ。」



・・・・・。



沙織ちゃんの話を聞いてさっきまでの事がバカみたいに思えてきた。

そもそも俺の安っぽいプライドなんて要らない。

これから変わっていけばいいんだ。

この神社に来た事で俺は、今の俺に一番必要なモノを得る事が
出来るのかもしれない。

そう心に思い、静かに沙織ちゃんに言った。

「ありがとう。」と・・。

それを聞き沙織ちゃんは顔を微笑ませながらまた磨き始めた。

それから20分程で全て洗い終えた。

後は浴槽にお湯をはって終わりだ。

二人共脱衣所の方へと歩きだし、沙織ちゃんは後ろへ束ねた髪をバサッと解いた。

その姿があまりに美しく感じ魅入ってしまった。

「そろそろお父さんの方も出来上がる頃だろうし、戻りましょ。」

沙織ちゃんがそういうと二人は風呂場を後にした。

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