小説『プライベート・ホスト』
作者:ウィンダム()

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それから数日後。

学校からアパートへ帰る途中の昭吾に後ろから一台のクルマが静かに追跡してくる。

やがて昭吾を追い抜くと暫く走行して停車する。
ハザードを点滅させて停車している灰色のスモークタイプ車両が昭吾の目に映る。

するとドアが開いて喪服のようなブラックスーツで身を固めた一人の男が降りてくる。
男はドア閉めるとショルダーバッグを肩に掛け歩き出す。
そして昭吾に接近してくる。

昭吾は男を見ると、どうやら玲子の話が本当であることを悟る。
男は昭吾に近づくと立ち止まって、 

   黒崎昭吾くん、だね?

と尋ねると男は黒い手帖を差し出し、

   わたしはこういう者だが。

と警察官手帖を出すと広げて身分証明書を提示する。

男はどこかインテリ風の優男タイプだが、その眼光は鋭い。
昭吾は男の顔を見ると、
 
   はあ? そうですが、僕になにか?

昭吾は平静さを装ってはいるが内心緊張し心臓が高鳴る。

   わたしは警視庁警備課の刑事、島田修一と言う。
   実は君に二、三聞きたいことがあるのだが、ここで立ち話もなんだから、
   そこの喫茶店で話さないか?

と促してくる。
昭吾はここで逃げてもムダな事だと判っているため、とぼけて付き合うことにした。

男は喫茶店に入ると、昭吾を連れて人目の付かない席に座る。
 
   君の好きな物を頼んでいいよ。

と妙に気前のいい事を言う。
昭吾はとりあえずコーヒーを頼むと男も同じ者をオーダーした。

コーヒーが来るまで男はタバコを吸いながら外の景色を眺めている。
コーヒーが運ばれてくると、
 
   どうぞ、飲みたまえ。

と勧める。
男はコーヒーを一口飲むと、

   君は、S高校に通っているね、なかなかいい学校に通っているんだね。
 
   いえ、それほどでも。
 
   いや、なかなか優秀だよ君は。
 
   いやぁ、それほどでも。

と謙遜する昭吾に、
 
   わたしも過去に何度か君くらいの若者と接してきたが、
   どいつこいつもゴロツキのような連中ばかりでね、
   君のようないい学校に通う優れた若者と接触できるなんて、とても光栄だよ。

とニヤリと笑うと、
 
   君はいつも独りで帰るのかね?
 
   え、いや、いつもじゃないですけど・・・。
 
   そうだろうな、今日は彼女と一緒じゃないのかい?
 
   彼女?
 
   ふふ、とぼけなくてもいいよ、君の彼女だろう? 
   君とよく一緒に歩く品のいいお嬢さんのことだよ。

昭吾は玲子のことを言っていると判ると、
 
   いえ、彼女だなんて、友人です。
 
   ふふ、友人か、しかし、良家の令嬢を友人にすることは、そうそうできることではない。

昭吾は玲子が良家のお嬢様であることは或る態度知ってはいるが、
あえて知らない振りをして、
 
   良家の令嬢? 彼女が?
 
   なんだ、付き合っている割には何もしらんらしいな。
   君の彼女、いや、友人は良家の令嬢だよ、うまくやれば君は逆タマになれるよ。

と笑う。
 
   ところで・・・。

男はいくつかの顔写真がコピーされた紙を出すと、
 
   君に聞きたいことというのは、
   この写真の中に君の知っている人物がいるかどうか、
   ということなんだ。

昭吾は差し出された紙を見ると、その中に昭吾のりピーター洋子が写っている。
昭吾は何も知らない振りして、
 
   さあ、僕には心当たりありませんが。

男は鋭い目を見せると、
 
   そうか・・・、それは残念なことだな。

と言うと洋子の顔写真に指を当てて、
 
   彼女は、如月聖子と言う名前で元高校教師。
   現在は輸入販売店のオーナーだ。
   離婚歴のある女性で現在独身、つまり×イチというやつだな。

と昭吾の表情を見ながら話しかける。
 
   はあ、その人が何か?
 
   君はこの女性を本当に知らないのかね?
 
   さあ、知らないですね、そんな人。

男は鋭い眼光のままニヤリと笑みを浮かべると、
 
   そうか、それは残念だなぁ・・・。

と男は昭吾を見ながら写真を昭吾の前にスッと押し出すと、
 
   これから話すことは、口外しないでもらいたいのだが・・・、

と前置きすると、

   彼女は或る国際テロ組織のメンバーでコードネームはヨーコと言う。
   長いこと当局が監視下に置いていた人物だ。
   それが最近になって顕著な動きを見せ始めた。

昭吾は興味を感じて、
 
   どんなことですか?
 
   うん、若い男に接しては海外移住の話を持ちかけ、
   テロ組織の戦士にするためリクルートしているという情報をキャッチした。
 
   へえ、で、それが僕とどんな関係があるんですか?

男はチラリと昭吾を見ると写真の女に目をやり、
 
   信頼すべき或る筋から、君がこの女性と接触しているという情報をキャッした。
   我々としては君のような若者、特に未成年者をテロ組織の戦士にさせるわけにはいかない。
   だから君の保護という意味からも、この女性について聞きたいのだが・・・。
   君は本当に面識がないのかね?
 
   ええ、ありませんね。

相変わらず男は昭吾を鋭い目で見ると、
 
   そうか・・・。

男は鋭い目で昭吾を見据えるとニヤリと笑い、タバコを吸うと、物静かな口調で切り出す。

   君は・・・、聞いたことあるかなぁ。
   プライベートホストと呼ばれている存在について。
   これは或る特定の階層に属する女性、つまり世に言うセレブと呼ばれている女性達の間にだけ
   知られている存在で、彼女達を相手にご奉仕に勤める知る人ぞ知る秘密の存在、
   と言えば聞こえはいいが、要するにカネで女と寝る一種のアンダーグラウンドなビジネスだ。
   つまり・・・、

と昭吾を覗き込むように、

   無届、無許可の如何わしい違法な風俗営業ということだ。

と言うと昭吾を見てニヤリと笑う。
 
   違法である以上、風営法違反でいつでもパクれる・・・。

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