「なんか・・・やばそうなことになってるな・・・」
少しして、砦内を制圧したガウル様が遠くの厚い雲を見て呟く
砦内のメイドさんは私達が侵入すると護衛の対象がいないからか、あっさりと降参した
「グラナ浮遊砦、フロニャ力減少と落雷の危険により、戦闘中止が発表されました」
「なんであんな局地的に・・・?」
テレビの中継を見ていたメイドさんがそう報告してくる
雲の位置はちょうどグラナ浮遊砦の真上のようだ
「ガウル様!」
ビオレさんと近衛戦士団がガウル様の下にやってくる
「ビオレ?それに近衛戦士団がなんでここに?って俺らより前に急襲したからか・・・」
「はい、開始と同時にここを急襲したのですが・・・」
失敗して捕虜として掴まっていたと・・・
「ビオレさん、レオ閣下はなぜ近衛戦士団にここへの急襲を・・・?」
「・・・レオ様からエクセリードを奪うようにと・・・」
ビオレさんは言っていいか少し迷った後、話し出した
「聖剣エクセリードと神剣パラディオンが姫様とビスコッティの勇者様の手にあると、2人が死んでしまう・・・そう星詠みが・・・」
「姫様とビスコッティの勇者が死ぬ?!」
ビオレさんの言葉に私達砦に侵入してきた人達が驚く
メイドさん達は驚かないところを見ると先に聞いていたのかな・・・?
「私もこの戦の宣戦布告の前日に聞いたので詳しくはわかりませんが・・・半年前頃からそういう兆候が見え始めたと・・・」
「そういえばその頃やけに姫様のことをあれこれ心配そうにやってたな・・・」
「軍備増強とか護衛の強化、他危険な興行の自粛を要請・・・しかしそれらは逆に星を悪くするばかりで・・・」
星詠みが何かわからないけど、未来予知みたいなものなのかな?
わからない語句を聞いている余裕は無さそうなので私はガウル様とビオレさんの話を黙って聞くことに専念する
「はっきり見えるようになったのは3ヶ月前だそうです」
「ちょうど態度を一変させた辺りか」
「はい」
仲違いの原因は自分が近づくことで星詠みの結果が悪くなることを避けるためか
「それで侵略戦か?追い込んで勇者を召喚させるために?」
「いえ、侵略戦をしていれば、ミル姫様が自国内に留めることができ、且つ自分も傍に居続けることができるからと・・・」
そんな理由が・・・
「それでもダメだったから領主の座を賭けてこの宝剣を賭けた大戦を仕掛けた、ということですか?」
「姉上が領主を辞める?!」
「レオ様が?!」
私も言葉にビオレさん以外が驚いた
「はい・・・それを私とバナード将軍が止める代わりにこの戦を・・・この戦に勝てば、ビスコッティの宝剣は2人の手から離れ、死の星は遠ざかるだろうと・・・だからこの戦だけはどんな手を使っても勝たねばならないのです。例え卑怯者の謗りを受けようと・・・」
ビオレさんの言葉に私やガウル様達は黙ってしまう
実際、卑怯とか道義がないとか思ってしまっていたのだから・・・
全てはミルヒオーレ姫様を守るため・・・そのためなら国を動かすし領主の座も捨てる・・・
覚悟が違う
まさにその一言だった・・・
『ちょ・・・』
『な、なにこれ・・・』
テレビ中継を見ていたメイドさんや近衛戦士団の人がざわつき始める
「天空武闘台が・・・空に上がってる・・・?」
テレビの中継でグラナ浮遊砦名物の天空武闘台が雲に吸い込まれるように上がっていく
「何・・・?あの気持ち悪いの・・・?」
「まさか魔物・・・?」
ノワールが映像を見て呟く
これが魔物・・・
100年以上前に封印されたはずの魔物の来襲
結果から言うと、何もできなかった
私達は、グラナ砦から十数キロ離れたスリーズ砦で、助けに行こうにも距離がありすぎて・・・
でも、唯一の救いが誰も死ななかったこと・・・
レオ閣下は、肩に怪我を負っただけで済み
ミルヒオーレ姫様は、一時魔物に取り込まれそうになるが、イズミ君が助け出して・・・
他の人も多少怪我をした人はいるものの、みんな無事で・・・
ホント奇跡のような・・・そんな結末
そんな結末まで、私達がしてたことといえば、祈るか嘆くか・・・
平和な世界だと、安心しきっていた私は・・・
平和だからといって、悲劇が無いわけじゃないと
心に刻み込まれた・・・そんな事件だった