「何も・・・できませんでしたね・・・」
「あぁ・・・」
日も落ち、大戦中止の埋め合わせのためのミルヒオーレ姫様のライブの準備を見ながら私とガウル様は呟く
魔物が退治され、私達スリーズ砦にいた面々は、セルクルを輝力を与えて全速力で走らせてグラナ砦に向かった
私達がグラナ砦に着いたとき、レオ閣下は負傷の手当てを受けていて、ルージュさんに会見の準備をさせていた
大戦の中止と今までの無理な興行スケジュール、事前協議無しで宝剣を賭けさせる外交問題になりかねないやり方の責任を取って領主を辞めると言うレオ閣下を、その場にいたビスコッティの人達にも協力してもらってなんとか説得した
「私達の言葉より、ミルヒオーレ姫様の涙が1番効果があったというのがなんというか・・・」
「ま、姉上だしな・・・」
説得の決め手はミルヒオーレ姫様の泣き落とし
もうそのときのレオ閣下の表情といったら、そうそう忘れられるものではないものだった
「はぁ・・・戦は中止で賞金は無しですか・・・」
準備を見るのも飽きたので屋台が並んでいるほうへ歩き出し、ふとため息をついてそう漏らしてしまう
大戦が途中で中止になったので参加費は一部払い戻し、残ったお金も、グラナ砦が一部損壊し、街道も崖崩れを起こしたりしているので色々と修復や修繕に充てなければならない。さらに魔物の出現の原因調査をする調査委員会の発足。当然賞金に回せるお金など無く、骨折り損のくたびれ儲けとなった
「せっかく親衛隊長脱がせたのに・・・あれで結構儲かったはずなのですけどねぇ・・・はぁ・・・」
「ま、仕方ねぇだろ」
「そうですが・・・」
「お、噂をすれば・・・よおっ!シンク!垂れ耳!」
長椅子にイズミ君と親衛隊長が並んで座っていた
「なっ?!キサマ!!私を2度も脱がした!!」
「お、落ち着け垂れ耳!!戦中のことだろ?!」
「そうだよエクレ!油断してたのが悪いんだしさ!」
親衛隊長が私を見て掴みかかろうとしてくるがイズミ君とガウル様に取り押さえられる
脱がせても賞金入ってこないし・・・こっちとしては脱がし損だよ・・・
誘拐戦のときは一般参加無かったから賞金はなかったけど、紋章持ち3人も倒したのに中止と謝罪金で結局報奨金出なかったし・・・
私はビックリして後退りつつも頭の中ではそんなことを考える
「改めまして、ビスコッティの勇者やってます。シンク・イズミです」
「今川美紗です。こっちではミーサ・クロカントって名乗ってたりもしてます。2ヶ月くらい前に召喚されたガウル様の勇者ということになっています」
イズミ君が自己紹介をしながら手を差し出してきたので、握手をして私も自己紹介をする
グラナ砦ですでに顔を合わしていたけど、レオ閣下の説得で自己紹介どころじゃなかった
私の名前を聞いた瞬間、イズミ君が驚いたような表情になる
「イズミ君は・・・ハーフなのかな?日本に住んでたりする?」
「うん、母さんがイギリス人・・・日本の紀乃川市で暮らしてるよ」
紀乃川・・・どこだろ?知らないや・・・というかなんかイズミ君がなにかおかしい・・・
急に雰囲気の変わったイズミ君に私は首を傾げる
「私は・・・」
「東京でしたよね・・・?えっと確か・・・三山市、だったかな?」
私が住んでいた場所を言おうとすると、先にイズミ君が私の住んでいた場所を言った
「やっぱり、ニュースになってましたか・・・?」
「うん・・・現代の神隠しって・・・テレビや新聞で・・・」
「そんなにですか・・・帰り辛いですね・・・あはは・・・」
私はそう言って作り笑いを浮かべる
お父さんもお母さんも友達も・・・みんな心配してるだろうな・・・
「ミサ・・・」
「大丈夫です・・・今更、ですし・・・」
ガウル様がそんな私に声をかけて、私はそう返す
「それで、私がいなくなってから、向こうではどれくらい経っていますか?確か私がこっちに来たのは2011年の1月6日だったと思いますが・・・」
「もうすぐ3ヶ月かな・・・僕が召喚されたのも2011年の3月だったから・・・」
「そうですか・・・」
時間の流れはそこまで違うわけじゃないようだ
落ち込んだ私を見て、イズミ君も帰れるか不安になったのか落ち込み始めた
「リコ達が帰還の方法を探している。帰れるから安心しろ」
「そうだって、ガレットの学院も探してるんだ。見つかるっての」
そんな私達を親衛隊長とガウル様が励ます
「そうだね!うん、帰れる!リコ達が頑張ってるんだからきっと帰れるよ!」
それを受けてイズミ君は元気を出す
私はそれを受けて逆に戸惑う
私は・・・帰りたいのか?と・・・
もうここにいるのが当たり前のような気になってきている
そして、ガウル様が好きで、ガウル様の傍に居続けたいと思い始めている・・・
「ミサ?どうかしたか?」
「い、いえ・・・何も・・・あ、飲み物を買ってきますね」
思考に没頭しているのをガウル様に呼び戻され、私は少し恥ずかしいことを考えていたので、頭を冷やすついでに屋台に飲み物を買いに行く