「あ、あの・・・私はここにいて大丈夫なのでしょうか・・・?」
私は今、軍の訓練スペースらしき場所に連れてこられて、ジョーヌさんとノワールさんの2人と並んでガウル様の戦闘訓練を見ている。ベールさんは使用武器が弓なので別の場所らしい
私はフード付のマントを着て、頭と腰を隠しているので周りの人には異世界人だと全くバレていない。時折、フードを被っていることを気にする人もいるが、季節が冬なので寒いのかなと自己完結して誰も声をかけてこない。みんなの耳の位置を参考に髪をお団子にして被っているフードに適度に膨らみを持たせているからなのもあるかな・・・
「かまへんかまへんって」
ジョーヌさんが手を振りながらなんてことの無いように言う
彼女の隣には大きな斧のようなハンマーのような、というか船の錨?みたいな武器がある
詳しく聞くと、このガレット領国はわかってるだけで、3代遡っても大きな政治的混乱というかクーデターとかデモとかそういった民衆の怒りが爆発するようなことだったり、他国との衝突等、領主が命を狙われる危険な情勢になったことが無いという安定した統治が行われているらしい
それは今現在も同じで、ガレットの国民もガウル様やガウル様の姉でガレットの領主のレオンミシェリ閣下のことを信頼している、とのこと
なので城の警備も多少甘くなっているとか・・・
「そうですか・・・平和なんですね・・・」
「そやな、平和やなぁ」
「美紗の世界は平和じゃなかったの?」
私の言葉にノワールさんが質問してくる
「うーん・・・場所によりけりかな?私が住んでた国は戦争とかしてなかったけど、他の国は戦争してたし」
私はテレビで得た情報でその質問に答える
「だからこの世界みたいに世界全体で平和っていうことはなかったよ」
「そう」
私の答えにノワールさんは短く返事をした
この世界は大陸協定という協定の下、命を奪い合う戦争ではなく競技(スポーツ)としての戦争が行われているらしい。その戦争の勝敗で政治的交渉を行ったり国民を楽しませたりしているそうで、ガレットはその通称『戦興行』という戦争を精力的に行って国民を楽しませているとのこと。なのでガウル様も閣下も戦闘訓練を行って、研鑽に励んでいると・・・
話すことが無くなったので私達3人はガウルの戦闘訓練を見ることに集中する
ガウル様は今、鉄球と斧が鎖で繋がった武器を持つ大人の軍人を相手に1対1で戦っている
大人の軍人の攻撃を、ヒョイヒョイっと軽い身のこなしでかわしていく
「あんな鉄球、当たったら危ないのでは?」
「大丈夫、この訓練場にはフロニャ力が満ちてるから普通の人は当たっても獣玉になるだけだし、私達紋章持ちの人間も怪我の変わりに衣服が破けるだけ済む」
「フロニャ力?紋章?」
ノワールさんの説明に私の頭に?マークが浮かぶ
獣玉についてはもう理解している。だって実際そうなるところ見ちゃったし・・・
「これが紋章」
ノワールさんが右腕を出した。そして手の甲に黒く輝く紋章を浮かべる
「この世界、フロニャルドの大地の守護の力がフロニャ力。そのフロニャ力をこの紋章術という技術で集めて輝力というエネルギーにする」
そこまで説明するとノワールさんが立ち上がる
「ベールが今やってると思うから実際に見に行く?」
「いいの?」
「うん」
私が聞き返すとノワールさんは手を差し出して頷く
私はその手を取って立ち上がる
「ん?ノワ、どっか行くのか?」
「ガウ様、お疲れ様です。紋章術の説明のためにベールのところに行こうかと」
そこにガウル様が訓練を終えて私達のところに戻ってきた
「わかった。俺はここで少し休んでるから」
ガウル様がジョーヌさんと入れ替わりにベンチに座ってそう言う
「行ってきます」
「おう」
ノワールさんがガウル様に一礼して歩き始める
私も見よう見まねで一礼してからノワールさんについていく
「ガウル、様って本当に王子なんだね・・・」
「?」
ベールさんのところに向かう道すがら、私はそう呟きノワールさんはそれに首を傾げる
「王子に見えない?」
「うん、そうだね・・・」
私の勝手なイメージだけど王子ってもっと知的というか・・・落ち着いてる感じ?
「今朝、ノワールさん達が起きる前に話したときに泣いてた私を気にかけてくれたり、召喚してしまったことも必死に謝ってくれたし、掴みかかった時だって、私の世界だったら下手したらその場で殺されてもおかしくないような国だってあるのに・・・」
あと、戦闘訓練をしているっていうのもあるけど、それはこの国では普通みたいだしいいか・・・
「それがガウ様のいいところ」
「ふーん・・・ノワールさんはガウル様のことが好き、なのかな?」
そう話すノワールさんの表情からそう当たりをつけて言ってみる
この子、今朝から見ててあまり表情が変わらないんだよね・・・例外が私がガウル様に掴みかかっていたときと着替えのときの1件、そして今
「うん・・・(///)」
ノワールさんは頬を少し赤らめながら頷いた
そりゃ平和な世界とはいえ、いざというときには自分の身を投げてでも主を助けるのが親衛隊。そんな仕事、主に特別な感情を持ってないとできないか・・・
「ジォーヌさんやベールさんもなのかな?」
「うん」
「その上私まで呼び出してガウル様も罪な男だね」
私がそう言うとノワールさんがクスッと笑った