「マントを脱げないから剣や槍と言った近接は無理、弓もマント羽織ったままじゃ無理、となると・・・うーん・・・」
武器庫にて、ガウル様が適当な木箱に腰掛けてそう言いながら頭を掻く
私の武器選びは開始数分で暗礁に乗り上げてしまった
異世界人だとバレないことが絶対条件、だからマントを纏ったまま扱える武器ということになるのだけど、剣や槍はかなりの熟練者じゃないとそれは無理、ベール曰く弓はフードが弦に触れてしまうから不可能だとのこと。他にも近接はダメージを受けると衣服が破けるのでマントが破けたらダメなので近接は全面的にダメとか、投げナイフなどの投擲系は輝力を使って身体能力を上げないと遠くに届かないし、持てる数も少ないのですぐ戦えなくなってしまう
じゃあどうしようと、今悩んでいるわけだ
「じゃあ将軍みたいに鉄球振り回したらどうやろか?」
「バァカそんな近距離に毛が生えたような距離の武器なんか使っても距離詰められてお終いじゃねぇかよ、そもそもあの手の武器はただの剣や槍よか扱い辛いのにミサが扱えるわけねぇだろ」
「あ〜そっか・・・」
ガウル様とジョーヌがそんな風にあーでもないこーでもないと話す
私は武器庫の中を見て回ってどんな武器があるのかを見る
やっぱほとんど剣や槍、後は弓矢かな・・・長さや形状の違いはあってもほぼそれらに属するものばかりだ。例外は両手で持つような大き目の木槌かな。近接なので結局使えないけど
「砲兵はどうですか?」
「砲兵は距離は理想なんだが輝力が切れたらなぁ・・・それに砲台を地面とかに固定するから動けねぇし」
砲兵なんてのもあるのか・・・
「ねぇノワール、砲台ってどこにあるの?一応見てみたいな」
ベールの言葉に興味が湧いた私はノワールに砲台が置いてあるところに案内してもらう
ノワールについて武器庫の奥に入っていく
「これ」
「意外と小さいんだね」
ノワールに案内してもらった先で砲台を見てそう感想を呟く
なんと言えばいいだろう・・・パッと見古い映写機みたいな外観
「これは砲弾を火薬で打つの?」
「ううん、輝力を込めて輝力を打ち出すの。ただ、同じ威力でも込める輝力の量が弓矢に比べて多く必要だし、ガウ様が言ってたように輝力が切れると一切使えなくなる」
ふむ・・・なるほどね・・・こういった大砲なら狙いをつけて輝力を込めて打つだけだから簡単だと思ったけどそう甘くは無いみたいだ
「隣国のビスコッティ共和国にいる私の友達はこの砲台を20個ぐらい一気に使ったりする。だから輝力に余裕があって戦場を一歩も動かずに歩兵に詰め寄られたら潔く諦めて降参する。そんな戦い方をするならありだと思う。でもガウ様も私達3人も機動力は高め、セルクルに乗ったらそれがさらに上がる」
「だから動けないのは足枷になる、か・・・」
「悪い言い方をすればそう。でもガウ様も私達もミサがやられてほしくないから・・・」
ノワールが少し悲しそうな声で言った
「あ、ゴメン・・・」
身も蓋も無く言ってしまったことを私は謝る
ガウル様もジェノワーズもみんな私が何もできなくて、さらにあれこれ制限が多いから頭を抱えて悩んで考えてくれてるのに・・・
「よし、決めた。私、砲兵やるよ。詰め寄られたら終わり、それでもいいや」
そう言って砲台を棚から出そうとしゃがんで取っ手を探す・・・
「ん?なにこれ?」
そして私は棚の奥に長い筒状の物があるのを見つける
とりあえず邪魔になりそうなのでそれを先に取り出そうとする
「どうしたの?」
「なんか砲台を出そうとすると引っかかりそうなものがあってさ・・・」
そう言ってその長い筒状の物を取り出す
「これって・・・銃?」
その長い筒状の物は金属の円柱に木製のフレームが付いた・・・歴史の教科書で見た火縄銃に似た銃
「確かレオ様の特選装備部隊の銃砲隊の装備のはず・・・それがなんでここに・・・?」
「特選装備なら管理とか厳しそうだし、いつでも持ち出せるように、ここに隠してたとかじゃない?それよりこれ火薬式だよね?花火が燃えた後みたいな臭いするし・・・」
「うん、火薬と輝力、両方で打てるように作られているって聞いた。ただ紋章持ちで腕のいい銃兵がいないからほぼ火薬で使ってるって・・・」
「これ、使えないかな?」
ノワールの説明を聞き、私はこの銃を使いたいをノワールに言う
「それを?」
「うん、これならマントを纏ってても扱えそうだし、銃だから射程距離も長そう。大砲と違って移動もできるし輝力が切れても火薬式で弾を打てる。今のところ条件を1番満たしてると思わない?」
「確かに・・・」
私の言葉にノワールが頷く
「あとは私が扱えるか・・・だから試してみたい」
「わかった。ガウ様に聞けば弾の場所もわかると思う」
ガウル様のところに戻るノワールに私は銃を持ち上げて・・・少し重いけど肩にかける紐もあるし持てないわけじゃないね
「よいしょっと・・・」
「大丈夫?手伝おうか?」
マントの中で紐に肩を通して立ち上がるとノワールが気遣ってくる
重さは感覚的に7〜8キロぐらいか、別で弾も持つとなると今の体力だとキツイかもしれない
でも・・・
「大丈夫、戦場じゃ自分1人で持たないといけないんだし、1人で持ち運べるようにならないとね」
訓練場・・・
「ますますレオ様に隠し事が増えますねぇ」
「そやなぁ」
「ま、今更だな」
ベールとジョーヌ、ガウル様が苦笑しながら話す
この銃はレオ閣下の隊の装備なので勝手に使うのはやはりまずいのだろう
「打ち方は3種類だ。この鉛の弾を火薬で打つ方法と輝力で打つ方法、そして輝力を打つ方法だ」
ガウル様が弾丸の実物を見せながら説明する
弾丸は2センチくらいの黒い球に転がり防止のためにリング状の金属を嵌めたもの
「火薬は管理が厳しくて取ってこれなかったから、とりあえず輝力を使ってくれ」
「はい」
私はガウル様から弾を受け取って、銃に装填する
ガウル様が銃の検査をするついでに装填方法を教えてくれた
どうやら火縄銃と違って何発か一度に装填できるらしい。装填数は火薬式か輝力式の弾丸で違う
「照準を合わせながら輝力を練って・・・その輝力を火薬の代わりに爆発させて弾を飛ばすんだ・・・」
「はい・・・」
銃を構え、数十メートル先にある的に狙いを定める・・・フロニャルドでは当たり前のようで何の自慢にもならないが、近視が現代病と言われる元の世界で、私は視力2.0を保っていた
紋章を起動させ、銃の後方を支えている右手にワインレッドのジェノワーズの紋章が浮かぶ
多少輝力を込めすぎても大丈夫なように頑丈にできているとのことなので、レベル1の紋章で使える輝力の半分くらいを込める
狙いが定まり・・・引き金を引く代わりに込めた輝力を爆発させる
バァン!!
爆発の圧力により弾が転がり防止のリングから外れて飛んでいく。銃身が重いからなのか、反動が少なくなるような構造になっているのか反動は思ったほど強くなかった
「決まりだな」
的を見ていたガウル様がそう呟く
的には小さく穴が開いているのが見えた