途中の町で宿に泊まりつつ2日かけて南部の都市『ダクワーズ』に着いた
この都市は隣国との交易が盛んな都市だそうだ
私達はこのダクワーズに5日間滞在する予定となっている
私達はセルクルを町の入り口にいる駐鳥場の業者に預けて町の中を歩く
「まずは宿の確保だな」
「ですね。荷物を置かないと・・・」
ガウル様の言葉にベールが頷く
お忍びの旅ということでガウル様も含め皆、メイドもいないので荷物はそれぞれ自分で持っている
ガウル様以外はそれにプラス武器も持っているのでかなりの荷物だ。武器を使わないガウル様や小型の武器を使うノワールが羨ましい
お忍びとはいえ王族なので泊まる宿はそれなりに上級の宿。そしてお忍びだからか、特等室や一等室を避けて二等室の部屋
ガウル様と同じ部屋にジェノワーズや私も泊まる。これはもう2回目なので特に驚かない。4人も当たり前のような感じなので、それが普通なのだろう
「いよいよミサの初陣か」
部屋に着いて荷物を降ろしながらガウル様が話す
この町の滞在4日目に隣国との戦興行がある。ガレットの中央の軍が動かないのでそれほど大規模ではないのだけれど、交易に関する交渉のための戦なので国益に関する重要な戦だ
お忍びでの参戦なので、あまり派手には戦えないが、傭兵というポジションで皆で参加する
「ま、気楽にとまではいかなくても、緊張せずにやれ」
「はい、ガウル様」
あっという間に滞在4日目、隣国タルトレット王国との戦興行の日
国境沿いの戦場に両国の戦参加者がそれぞれ500人ほどが集まっている
戦場には敵の進行を邪魔するアスレチックや石レンガの壁、弓隊が使える矢倉などがある
『さぁて、今日はいよいよガレット領国とタルトレット王国との戦興行です。敗戦国は1年間、戦勝国の品を1%割増で購入するというなかなかに辛いこの条件。今年はどちらがこの条件を呑むことになるのか?!実況は私、ガレット国営放送フランボワーズ・シャルレーがお届けします!』
実況の人が戦の説明をしている
戦興行はエンターテイメントでもあるのでテレビやラジオで放送もされている
タルトレット王国はガレットの南方にある国で国土はガレットの7割くらいの広さ、しかしガレットは山が多いので国民数は同じくらい。東部が海に面しており、ガレット南東部の都市と漁業に関する水域でも争っているらしい
『今回の戦は大陸協定に基づき、制限時間内に多くポイントを取ったほうが勝ちという内容。制限時間は3時間。まもなく開始です!』
どういう技術なのか空中にディスプレイが浮いていて、それにテレビ中継や点数表示が映し出される
「落ち着いていけ・・・まずは場所を確保することに専念しろ」
「はい」
ガレット側の集団の中にマントを被った私とガウル様、騎士服ではない服装で髪型を変えたジェノワーズがいる
ガウル様とジョーヌとノワールはそれぞれ一般参加者が持つ槍や斧や剣を、ベールも一般兵用の弓を持っている。紋章術も使うつもりは無い
唯一私だけ一般参加者用のものではない銃を使っている
王国側は騎士の格好をした人が見えるので紋章持ちがいるようだ。王都が近いから王宮の騎士も参加しやすいのだろう。まぁガレット側にも都市の警備をする紋章持ちの騎士が参加しているから公平なのだろう。数が王国側のほうが多いけど
『それでは!5・・・4・・・3・・・2・・・1!』
実況の人が戦開始のカウントダウンを始め・・・
『開始!!』
『わぁぁぁぁああああ!!!』
『うぉぉぉぉおおおお!!!』
開始が宣言されると同時に両集団が突撃していく
「ノワ、ジォーヌ行くぞ。ベールはミサを頼むぞ。ミサ、状況は作ってやるから上手く狙え」
「「「「了解!」」」」
ガウル様の指示に私達は返事をしてそれぞれ動き出す
私とベールは狙撃場所に確保のために戦場が見渡せる場所を探す。都市警備隊の弓隊のように矢倉を確保しに行くのもいいが、矢倉は矢倉で弓兵が集まるので一気に弓兵を落とそうと狙われるという欠点がある。矢倉は木材を組み合わせただけなので、紋章無しの歩兵でも頑張れば壊せてしまうし一概に安全とは言えないのだ
「ベール、どこら辺がいいかな?」
「そうですねぇ・・・たぶんですがガウ様は・・・」
ベールは戦場を見渡し・・・
「あの騎士を狙うと思いますので、それに合わせて場所を確保しましょう」
前線の騎士の1人を指差してそう言った
その騎士は紋章術を使ってかなり派手に一般参加者や紋章無しの一般兵を倒している
「こちらの紋章持ちの騎士を避けながら戦っていますから、ガウ様は真っ先に狙うと思います」
戦興行は交渉と同時に民を楽しませるもの、騎士と騎士の戦いを避け、戦に勝つためだけに一般参加者や紋章無しの兵だけを狙う姑息なやり方をガウル様は見過ごせない、とベールは言う
〜ガウルside〜
「ずいぶんととばしてるなぁ騎士様よぉー」
俺は開始早々から紋章術全開で暴れまわっている1人の騎士に声をかける
コイツはこっちの騎士と戦おうとしねぇで紋章無しの兵や一般参加者だけを狙っている
それが許せねぇ
俺達騎士の戦いは魅せてナンボの代物、1対多の戦いは確かに魅せるものはあるが、そういうのは序盤からやるもんじゃねぇ。一般参加者同士が戦を楽しんで、ボーナスステージとして戦終了間際にラストスパートでやるもんだ
「なんだ?やられにきたか?」
「あぁそうだな。是非とも俺らと戦って欲しいな」
戦の礼儀ってやつを叩き込んでやるよ