小説『真・恋姫†無双〜その身を捧げて〜』
作者:ディアズ・R()

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第五話 それは偶然という名の必然だった。





水鏡さんの所に来て、三日経った。
そろそろ帰らないと、母が軍を動かそうとしていると珊瑚さんが手紙をくれた。
急いで帰った方が良さそうだな。

「もう、行ってしまうんですか?もっと、いろいろ聞きたかったです」
「はわわ〜まだ聞きたい事があるんでしゅ!」
「あわわ〜聞きたいこちょが!」
「いや、明日だから。まだ帰らないから。だから泣くんじゃない」

何故か水鏡さん、朱里、雛里にしがみ付かれる。
この三日で、朱里と雛里が真名をくれるほど懐いた。
水鏡さんは、何故か知らんが最初からこんなんだった。
男は女の涙に弱いと言うが、ホントだな。
目の前で泣かれると、クルものがある。

「ほら、良い子だから。水鏡さんは大人でしょうに……」

きっと今、俺の顔は苦笑中だろう。
慕われるのは良いんだが、ここまで懐かれるとは思わなかった。

「夜空さんに比べたら、私なんか子供です!」
「そんな誇らしげに言われても……」

俺は、どんな顔をすればいいのだろうか?
琥珀達も、見てないで助けてくれればいいものを。
引っ付いてくる三人をあしらいながら、今日の予定を考えていたら水鏡さんが何か思い出したように話しかけてくる。

「そう言えば、最近噂になっているのですけど、近くの森に物の怪が出るらしいですよ!きっと危ないので、もう数日泊まっていきましょう!そうしましょう!」
「予定を変更する気は無いですよ」
「がーん!」

この人も変な人になったな。
それにしても、物の怪か。
まさか、モロ?
いや、それは無いだろ。
むしろ、祟り神がいそうだな。
この時代、火が最大の攻撃になっているから、森が燃えることも意外と多い。
祟り神が現れたら、どうすればいいのだろうか?
二重に腕に付けてみるか?
痛そうだ。

「さぁ、今日の御勤めをしようか」

大人を放置、子供二人を引き摺って勉強部屋へ向かう。
そうそう運悪く噂に直面などしないだろ。
そう思っていたが、次の日に運命の残酷さを思い知ることになるとは、思いもしなかった。


◇◇◇◇◇


帰還日。
当たったら重症になりそうな罠の数々を回避し、門前に集まる。

「完璧に計算してあった筈なのに……流石です」
「はわわ〜あれを全部避けるなんて、すごいでしゅ!」
「あわわ〜止められなにゃいよ〜」
「ほわわ〜流石兄様!琥珀さん達は、ほとんど最初の段階で引っ掛かったのに、全て回避するなんて!」
「……家の中に完璧に偽装された落とし穴があるなんて、気付ける筈無いでしょう」
「昨日の今日であそこまでの罠を用意するとは、私も精進しませんとね」
「剣山が在ったのですが、殺す気ですか?」

この七人も何か共通の話題が出来たようで、見る限りかなり仲が良くなった。
正直仲間ハズレにされていて、寂しい。
まあ、女性しかいない中に男が入るのは、勇気がいるが。

「その内、また来させてもらうよ」
「いつでも来てくださいね、夜空さん♪」
「また来てくだしゃい!」
「待ってましゅ!」

この二人の噛み癖、最後まで治らなかったな。
俺達は、水鏡さん達に別れを告げて、我が家のある村へと向かって歩き出す。
母等は、元気だろうか?
……何故だろう、あまり考えたくないな。


◇◇◇◇◇


何故か森に入ってしまった。
何故だ?
来た道を戻っていた筈だから、森を通る筈は無いんだが。

「兄様。この森、水鏡先生が言っていた物の怪が出る森ではないでしょうか?」
「かもしれない、な……全員、構えろ。どうやら、並みの化け物ではないようだ」

森の空気が死んでいく。
徐々に土地が腐っていく。
木々の隙間から見える、黒い影。
どうやら、最悪の予想が的中してしまった様だ。

「あれは、なんですか?」
「見たことがありませんが、この空気からしてかなり危険なモノのようですね」
「大きい獣のようですが、あの動きは……」
「ほわわ!逃げた方が良さそうですよ!」
「沙箕、落ち着け。あれには絶対に触れるなよ。もし予想通りなら、かなり不味い事態だ」

四人は少し緊張気味になりながらも、各々の武器を構える。
俺も武器を手に取るが、短めの片手剣と矢が10本程しかない弓しか持って来ていない。
このままでは、本当に『もののけ姫』の様になってしまう。
いや、悪い点としてはヤックルがいないことで、良い点としては最初から異常の力を持ってることが上げられる。
一撃で仕留められれば、いけるか?
そこまで考え、それは現れた。
黒い蛆が蠢いている様な、明らかな化け物。
その姿は、間違いなく『もののけ姫』に出てくる祟り神。
木々を粉砕しながら、こちらへ突進してくる。

『んなっ!?』
「全員距離を取れ!!絶対に近づくなよ!!」

驚愕していた四人は俺の声で正気に戻り、出来る限り距離を取る。
祟り神は一旦止まると、その赤い目で俺のことを見る。
その身から発せられる殺気は、常人なら身動きが取れなくなるであろうものだ。
これは、本気でやった方がいいかな。

-6-
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