小説『約813の問題児が異世界からくるそうですよ?』
作者:tasogare2728()

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第十六章

そして、十六夜と黒ウサギと龍嗣が事情聴取されているころ
「(飛鳥……何処に行った……?)」
夕暮れ下がり――尖塔郡を空から見下ろすようレティシアの表情には、焦りが見えていた
「(くそ、私の失態だ!いくら飛鳥でも北よりのこの土地でこの時間帯に一人は危険すぎる!)」
境界壁付近の鬼種や悪魔に食人の気があるものは少ないものの、拉致して売りさばかれることは少なからずある。ましてや、;ノーネーム;は身分を証明することができない、人攫いには一層の警戒が必要だ
「(飛鳥が向かいそうな場所―――そうだ、何か面白そうな展示物が公開されてる場所は!?)」
一瞬の閃きを頼りに、展示物が多く飾られている境界壁の麓まで足を延ばす。
「もしかしたら此処に――」
「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
劈くような悲鳴に、レティシアの思考が凍りついた。突如、展示会場の洞穴からわらわらと参加者たちが逃げ出してきたのだ。
「中で何があった!?答えろ!」
逃亡者の一人を捕まえて問いただす
「か、影が……!真っ黒い影と赤い光の群れが……!」
「影だと?」
「そ、そうだ、その影が長い髪の女の子と小さい精霊をを襲おうとしたんだけど、そこにもうひとり現れて、中で戦闘が」
ドンッ!!
レティシアの思考が緊張を帯びる――そして、間髪いれずに異変は起きた

「(……なんだ!?この音は!?)」
衆人の悲鳴についで響く不協和音を刻むリズム。レティシアは翼を広げて洞穴の回廊を突き抜けて飛んだ。



時は遡り、黄昏時
「それにしても、龍嗣どこに行ったのかしら?」
スサノオは、舞台区画・暁の麓――美術展、出展会場にいた。周りには、趣向を凝らしたキャンドルグラスにランタンに、大小様々なステンドグラスなどが飾ってある。
「(さすがね、こんな多かったなんて、ビックリだわ)」
驚きながらも自分の彼氏を探すように見回す彼女。そんな中
「(あら、飛鳥ちゃんじゃない)」
視線の先に飛鳥を見つけた。肩にいる小精霊にクッキーを上げているのがわかる。それから、作品を見ているスサノオ
「(制作・ウィル・オ・ウィスプ――あぁ〜あそこのコミュニティか)」
スサノオは、過去のことを思い出しながらも歩くキャンドルが得意だったなと思っていると。スサノオの目に、赤い巨人が留まった
「制作・ラッテンフェンガー、作名ディーン」
映るのは、紅と金の華美な装飾に太陽の光をモチーフにしたと思われる抽象――画を装甲に描いたその姿は圧巻である。

それから、本来の目的を探して足をほかのところに運ぼうとしたとき

異変が起きた

「(……風?)」
大空洞に一陣の不気味な風が吹いた。その風で数多の灯火を消し去る。そして、客が混乱し始め、波紋のように浸透する。
「どうした!?急に灯りが消えたぞ!」
「気をつけろ、悪鬼の類かもしれない!」
「身近にある明かりを付けるんだ!」
灯火が消えた大空洞は、闇に閉ざされる。スサノオは、直ぐさに飛鳥の近くに駆け寄る。そうすると大空洞の最奥に不気味な光が宿った

『ミツケタ……ヨウヤクミツケタ……』
怨嗟と妄執を交えた不快な怪異的な声が大空洞で反響する。飛鳥は機器を感じ取りながらも、声の位置から犯人の居場所を特定しようとするが、洞窟内だから声が反響してわからない。

『―――嗚呼、見ツケタ……!;ラッテンフェェンガー;ノ名ヲ騙ル不埒者ッ!!』
大一喝が大空洞を震わせる。五感を刺激する笛の音と怪異的な声――スサノオは不快になってたまらず、ギフトカードから一個の武器を取り出す。と同時に、ザワザワと洞穴の細部から何千何万匹の紅い瞳の、大量の群れが飛鳥を襲う

「――ったく、手間取らせるんじゃないわよ!!」
ズドォォォン!!

轟音と共に飛鳥の目の前にスサノオが現れた
「泣け!!天蝿斫・天十握(アマノハバキリ・レプカ)!!」
スサノオの黒い剣から、竜巻が生まれ――それが飛鳥に襲いかかろうとしたネズミたちを肉の塵に変えていく
「飛鳥、逃げるわよ!!」
「えぇ」
大空洞の入口に向けて、全力疾走する二人だった。
「ったく、しつこいわね!飛鳥ちゃん走って!!」
飛鳥を走らせて、アマノハバキリを構えると
「――鼠風情が、我が同胞に牙を突き立てるとは何事だ!?分際を痴れこの畜生共ッ!!」
「レティシア!」
その姿は、普段の幼い容姿のメイド姿ではない。レザージャケットに、拘束具を彷彿とさせる奇形のスカート。愛らしい少女の顔は、煌々とした輝きを放つ金髪をした妖艶な香りをまとう女性になっていた。

「術者は何処にいるッ!?姿を見せろッ!!このような往来の場で強襲した以上、相応の覚悟あってのものだろう!?」
「そうよ、我らが御旗の威光、私のこの力で切り刻むけど、問題ないわよね!?」
「そうだ、コミュニティの名を晒し、姿を見せて口上を述べよ!!!」
激昂した二人の声が響く
「レティシア――行ける?」
「なめるなよ?」
ねずみはまだまだいた。
「なら、行くわよ!!ハバキリ!!」
「ハァッ!!」
レティシアの影と、ハバキリによる旋風が洞穴を抉りかけ――ねずみを撃退した

閑散とした静寂が満たしていた。
「おつかれ、レティシア」
「舐めるな、こう見えても箱庭の元魔王さ――飛鳥、大丈夫か?」
「えぇ」
「それにしても、多少数がいたとはいえ、鼠如きに後れを取るとはらしくないぞ?」
普段の口調で振り返るレティシア
「いや、彼女は後れはとっていないわ――洗脳されていたわ、鼠全部ね」
「ほぅ・・・それなら、説明がつくな」
「けど、私は……」
「気にしない、気にしない、それより」
「あぁ、サウザンドアイズまでは飛んでいったほうが早いだろう――運べるか?」
「まぁね、いくわよ」
そういうと、ものすごい体勢で、スサノオに担がれる飛鳥であった


サラマンドラの事情聴衆から早々に解放された龍嗣はぶらりぶらりと歩いていた。
どうやら、騒ぎがあったみたいだが、解決されたみたいだ。
それから、修復した塔の屋根の上で龍嗣は、歩廊を歩きながら途中で買ったクレープのようなものを買って食べていた。

「うん、甘くてうまいな〜」
眼下の街を眺めながら食べていると、口元にチョコムースがついた
「(ん、汚れたな…)」
ハンカチで口元を拭こうと思った時だった

ペロッ
「ッ!?」
黒い風とともに、ペストが龍嗣の口元についたムースを舐めとった
「ぺ、ペスト!?」
「やっほ〜こんな時間に一人は、危ないわよ?」
してやったりの小悪魔顔でいう彼女
「ん?こういうのもいいのさ」
「へぇ〜」
隣に座って

パクッ!
「相変わらずの味ね」
勝手に食べていたクレープを食べるペスト
「おいおい、流石に俺が食ってたやつだろ?」
「いいじゃない、別に」
「まぁ、買えばいいだけの話だがさ」
そんな中――露出が多く布の少ない白装束の女と黒い郡服の短髪黒髪の男性が現れた
「マスターここでなにやってるんですか?」
「逢引だけど?」
至極当然な顔で言うペスト
 ・
 ・
 ・
絶句する二人
「まぁ、いいですわ、ちゃんと帰ってきてくださいよ?」
「わかってるわ」
そういうと、二人はその場から去っていった

「なぁ、ペスト――あんた、もしかして魔王か?」
龍嗣は唐突に聞いた。とたん顔を曇らせるペスト――その頬からは涙が溢れる。少なからず龍嗣も罪悪感を感じる
そして、彼女は頷いた
「そっか…」
「幻滅した?」
「ん?いや、すごいじゃん」
彼女の表情は変わらない、そんな中
「ごめん、黙ってて」
「気にしないさ――そう暗い顔をするなって、せっかくの顔が台無しだよ?」
「ん」
少しペストの表情が和らいだ。それから、数刻肩を合わせた後、龍嗣はコミュニティ;サウザンドアイズ;に戻るのだった。

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