小説『百獣の王』
作者:羽毛蛇()

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”ナミ”



〜Side タクミ〜



 珍獣島を出て五日目、穏やかな波の上を、”一隻”の舟は漂う。


「タクミ、雰囲気悪いんだけど……どうにかならないの?」

「……酒」


 只今の俺はメチャクチャ不機嫌だ!! 何故かって!? 決まってる!! それはガイモンブランドの濁酒が僅か三日で無くなったから。ありえん!!! まあ、三人で楽しく呑んだんなら俺だって納得だ!! でも犯人は単独犯!!

 俺の視線をこの二日間一手に引きつけるこの男!! 麦わらのルフィ!!! 毎日酒盛りしている俺たちが羨ましかったのか、ルフィは俺たちが寝静まった真夜中こっそり濁酒を呑み、そして暴れた。

 それを見てさすがに俺も頭にきたが、ルフィには効かない拳骨でその怒りを若干発散し、爆発寸前だった俺をゾロが何とか諫めた。

 ルフィをたてるぅ?? ムリだな!! この状況でムリにそんな事をしてたら俺の胃がマッハでヤバイ。胃潰瘍を通り越して胃癌になりそうだ。自分がここまでアルコールに執着がある人間だったとは驚きだ。


 まぁ、俺も悪いんだけどな。航海三日目に酒と肴の美味さを語る俺に、ルフィが自分も飲みたいと言い出したとき、ルフィが酒に強い描写がなかったから、なんとなく危険を感じ、適当なことを言ってあしらったんだ。

 あのとき素直に飲ませておけば、ルフィが暴れだしても何とか止められただろうに。予想通り酒に弱く、さらには極度の酒乱であったルフィは、暴れて酒樽と小舟一隻を大破させた。

 でもそんなことでは納得いかなくいじけている俺に対して、我慢できないナミは、珍獣島に一度引き返す事を提案したぐらいだ。俺もいったん了承しかけたがあれだけ仰々しく別れを告げたにも関わらず、僅か一週間で帰郷するのはさすがに気まずいので断った。


 このままグランドラインへと向かうには装備(船)と準備(酒)が不足しているというナミの意見に従い、舟は一路シロップ村を目指す。



〜Side ナミ〜



「はぁ〜」


 わたしは今日何度目か分からない溜め息を吐いた。

 ルフィは「肉」以外の単語を知らないみたいだし、ゾロはだいたい昼寝をしている。何より溜め息の原因はタクミ。


 あれは二日前の出来事……夜中に物音がしたので起きてみれば、割れた酒樽の近くで暴れているルフィと、それを見て固まっているタクミがいた。

 あのお酒はガイモンさんが作ったお酒らしくて、タクミに取っては大切なもの。きっと飲み終わっても樽も取っておくつもりだったんだと思う。

 タクミの性格上、怒り狂うことは無くても悲しんではいるハズだと思い、せめて慰めてあげようと一歩足を進めると、タクミが突如わたしの目の前から消えて、轟音と共にルフィが床にめり込んでいた。

 タクミは起き上がり尚も暴れようとするルフィを捕まえ、ゾロが眠っている舟の方向に思いっきり投げつけた。

 舟は大破し、海に浸かってもう暴れなくなったルフィを抱えて、ゾロがこちらの舟まで泳いできた。

 ゾロに文句を言われてタクミは段々と落ち着いていったんだけど、あの時の動きはいったいなんだったんだろう?

 本当に、消えたようにしか見えなかった……タクミならもしかしてアーロンに勝てるかも? って一瞬考えたけど、わたしは慌てて首を振る。

 東の海(イーストブルー)にアーロンに勝てる海賊も海兵もいない。そんなのはココヤシ村では常識だ。誰の力も借りない。村はわたしが助けるんだ。

 翌日のタクミはいつも通りの態度ではあったけど、雰囲気が少し違った。ルフィは酔っていた間の記憶がすっかり無くなってたみたい。


「何か酔っ払って迷惑かけたらしいな!! ごめん!!」


 ってノリは軽いけど謝ってたから、タクミはアレで赦したんだろうけど、ダメだった。淀んだその雰囲気にわたしが耐えられなかった。

 ルフィに気に入られて(主に釣りによる食材確保と料理)、わたしやゾロとは一緒にお酒を飲んで、タクミはあっという間に、この集団の中心になってた。そのタクミが不機嫌なのは、狭い船の上ではかなりキツイ。

 タクミにはいつものように笑っていて欲しいから、わたしは一度引き返そうかと提案したんだけど、寂しそうに断られた。昨日の事を恐がってると思われたのかしら?

 そんな事は別に無い。数日過ごしただけだけど、タクミの性格は大体分かったつもり。タクミは優しいし気を使う事ができる人間だ。

 あの時は、ルフィがゴムだから殴って止められないと思って、ゾロのいる海に投げたのだろう事は解ってる。まあ、加減と方向を若干間違えたようだったけどね。

 誤解を解こうかと思ったけど止めた。わたしは何を考えているんだろう、いずれ裏切る事になるタクミにどう思われたって関係ない!!

 でも、近づいているであろう別れを想うと、ちょっとだけ寂しくなる。ちゃんと裏切る事ができるのかなコイツらいいヤツだもんなぁ。

 とりあえず物資補給の為、まあ、落ち込んでいるタクミの為にお酒を買うって意味合いが強いんだけど、ココから南の、シロップ村って所に立ち寄る事にする。

 残り少ない航海を、わたしは出来るだけ楽しもうと思う。
 
 
 

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