小説『百獣の王』
作者:羽毛蛇()

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”ロロノア・ゾロ”



〜Side タクミ〜



 ガイモンと森の中で別れ、食料が無いと言うルフィの為に果物を山ほど積んでやった。もちろんナミの船に。

 単純な話だ、ルフィの小船に積んだら沈みかねないし、大量の果物を一瞬で平らげてしまうかもしれないからだ。


「果物だけか〜? 肉ねェのかよ〜に〜〜く〜〜」


 俺が運ぶ積荷を見て、ルフィがつまらなそうに訊ねてくる。

 ……困った船長だ。俺がこの島の動物たちを守ってきたってことを忘れてるんじゃないか??


「魚でよければ後で売れるほど釣ってやるよ。だが、この島で肉が喰いたいなら俺を倒せ!!」


 例えガチで挑んでこようが、今のルフィのレベルなら瞬殺だろう。まぁ、そんな事するつもりはないし、ルフィにはいつか超えられる運命だ。

 しかも主人公補正で、俺みたいなイレギュラーは排除されかねないからな。ツッこみ以外でルフィに手を出すのはやめておこう。

 そんな俺の打算など知らないルフィは目に見えて動揺している。コレは確実に忘れてたパターンだな。


「おっ、俺が言いたかったのは魚肉だ魚肉!! お前と珍獣のおっさんが守ってきた島だって忘れてたわけじゃねェぞ!!……ほっ、本当だぞ!!!」

「嘘へたっ!!」


 俺は原作エースとサボの気持ちがよく分かった。ルフィに果物をわりと多目に渡してから、果物を積み終わってルフィとゾロの待つ小船に向かおうとすると、ナミに呼び止められた。


「ちょっと待って。あんたはこっち!」

「どうしたんだ? 俺が居ないと寂しいのか?」


 久々の女のコなんで、思わず営業トークが出そうになったが、流石にそれ以上は自重した。ナミはサンジの嫁だ。同時攻略出来るほどロビンは軽くないだろう。


「アンタそんなキャラだったっけ? まあいいわ、そっちの船にアンタみたいなデカライオンが乗ってたら船が沈むわ。あたしの船のほうがいくらかましだから、アンタはこっちに乗りなさい」

「わかったよ」


 明らかにキャラが違った俺に一瞬だけ不審の目を向けたナミだったが、どうでもイイようで、出航準備を手伝えと目で言ってきた。

 俺は素直にナミの船の出航を手伝いながら、小船のほうに目をやったんだが、小船ではゾロがまだ寝ている。

 カバジとの戦闘で負ったはずの傷は大丈夫なんだろうか? 少しだけ心配しながら俺たちの2隻は珍獣島を後にした。

 ガイモンにも俺の活躍が届くようにと願いながら……ムリだな。あの島ニュース・クーが来ないし。

 なんとも締まらない船出になってしまったが、出航後しばらくして、航海が安定しているのを確認してからナミに話しかけた。


「ところでお嬢さんの名前は? まだ聞かせてもらってなかったと思うんだけど?」

「あら、そうね。なんかいつの間にか溶け込んでたからうっかりしてたわ。わたしはナミ、今はそうね、この一味の雇われ航海士って所かしら? よろしくねライオンのタクミ」


 新聞に目を通していたナミは、俺の言葉に顔を上げ、一応にこやかに応えてくれた。


「ライオンのって……まぁイイや、ナミは一味の正式な仲間じゃないのか?」

「手を組んでるだけ!! わたしは海賊が大嫌いなのよ!!」


 ナミは心外だとばかりに目を剥いて反論してくるが、少し試しておきたいな。


「さっきはあんなに楽しそうに笑ってて、説得力無いな」

「っ!? うるさいわねェ!!」


 ナミは若干照れてるようだ。この時点でルフィが他の海賊とは違うって認識はあったんだな。

 あんまりからかうのはよくないのでご機嫌をとろうとしていると、ゾロがようやく目を覚ました。


「くあぁ、よく寝た……てめェは誰だ?」

「ようやく起きたのか? 手負いの獣君。俺はアイザワ・タクミ。この一味に加わる事になった。よろしくな。腹、怪我してるんだろ? 診てやろうか?」


 単純に心配だったから声をかけたんだが、随分と警戒されてるな。


「俺はロロノア・ゾロだ。この程度の怪我は何でもねェ。お前は医者か? そうは見えねェが」

「俺はハンターだ。生物を調査・捕獲・保護するのが目的だな。いろんな場所に行く都合で、サバイバル技術として医術と料理は少し齧ってるんだよ。治療がいらないならこの良治の水はどうだ? 次の目的地まで暇なんだろ? 付き合ってくれよ」


 ゾロにはこれだ!! ガイモン特製の濁酒を掲げると、ニヤリと笑みを浮かべる。どうでもイイがその顔は悪人っぽいぞ?


「いいねェ俺も退屈してたところだ。この船じゃ身体も碌に鍛えらんねェからな」

「見たことないお酒ね!! わたしもつきあうわよ」

「俺の親父の自慢の酒さ!! たっぷり積んだんだ。さぁ呑もう!!」


 それから数時間、三人からこれまでの航海のことを聞きながら呑んだ。ゾロは酒を飲むときはそれなりに陽気になるようだしナミも楽しそうだ。イイ飲み友になれそうだな。



〜Side ゾロ〜



 初めてコイツを眼にした時は、久々に血が騒いだ。一昨日はカバジとかいう曲芸野郎と戦ったが、何の収穫にもならなかったからな。

 剣士としてのはるか高み、その頂点、大剣豪。おれはくいなに誓ったんだ!! 強くならなくちゃいけねェ。

 おれが警戒しながら声をかけたのに、コイツは俺の事を手負いの獣なんてからかったかと思えば、先に名を名乗り、そして一味に加わったのだと俺に告げ、治療を提案してきた。

 礼儀としておれも名を名乗り、治療は拒否した。正直コイツは医者には見えなかったからな。

 刀を持ってる風でもねえのに、コイツからは剣士のような、獣のような威圧感を感じた……けど見た目は隙だらけなんだよな。おれがコイツを計りかねて困惑していると、ちょっと苦笑いしながら、説明してきた。


「俺はハンターだ。生物を調査・捕獲・保護するのが目的だな。いろんな場所に行く都合でサバイバル技術として医術と料理は少し齧ってるんだよ。治療がいらないならこの良治の水はどうだ? 次の目的地まで暇なんだろ? 付き合ってくれよ」


 なんとなく解った。コイツは警戒を解くために隙をみせ、同じ酒を飲み交わすことで仲間になろうとしているんだ。


「いいねェ俺も退屈してたところだ。この船じゃ身体も碌に鍛えらんねェからな」


 言外に鍛錬の代わりであり、警戒は解いていないと伝える。コイツは鈍そうな風でもねェのに、おれの言葉を素直に受け取った様に親父の自慢の酒とやらを出してきた。たいした役者だな。



 ナミも交えて酒を酌み交わしはじめて……どれくらい経っただろう? 当初の俺の疑念は霧散し、今はおれも心から酒を楽しんでいる。

 様々な言葉を交わしたがタクミの言葉には嘘も裏も無い。眼を見りゃ解る。話を聞くにコイツから放たれる威圧感は、悪魔の実とタクミが習得している武術にあるようだ。

 肉体が強化されると同時に、凶暴性まで高めてしまう悪魔の実の力を、タクミは精神力で押さえ込んでいるらしい。夢の為に、タクミは鋼の精神を持ってるんだろう。

 コイツの夢なら少しぐらい手伝ってやってもいい、仲間でいる方が面白そうだ。


 でも、1回くらい戦ってみてェな。酔った振りして1回くらい……駄目かな?
 
 
 
 
 
〜おまけ〜



「……なぁ」

「どうしたルフィ? お前も呑みたいのか?」

「ルフィって呑めるの?」

「そういや、お前が呑んでるのは見たことねェな」


「いや……酒が飲みたいワケじゃねェんだ」

「じゃあ何だよ?」


「魚肉は?」

「……すまん」
 
 
 
〜Fin〜
 
 
 

-9-
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