小説『百獣の王』
作者:羽毛蛇()

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”それぞれの決意”



〜Side ルフィ〜



おれは甘かった。

おれは強くなって、タクミとの差は確かに縮んでると思ってた。

でも、本気のタクミは遥か遠くにいた。

おれが一味を守るって決めたのに、おれはまだまだ甘かったんだ。


でも、もっともっと強くなろうって思った途端に……タクミが負けるなんて思わなかった。

青キジはおれとの約束を守って、アレ以上仲間に手を出さずに帰ったみてェだけど、おれはアイツに手も足も出なかった。

決死の覚悟で一騎打ちを仕掛けたってのに、アイツは命を獲らずにおれを捨て置いた。

おれはその程度って事なんだ。


左手が無くなったっていうのに、タクミは今日も平気な顔で酒を呑んで笑ってる。

ムリをしてる感じじゃない、タクミはもう次の敵を見据えてんだ。

仲間を守る為に失った左手だから、タクミは気にしねェんだ。

…………シャンクスみてェだな。


羨む事も、悩む事も、今さら新たに決心する事も、おれはもうしねェ。

……ただ真っ直ぐ。

タクミが信じてくれた”海賊王”への道を進んでいくだけ。

駆け足じゃなくたってイイ……転んでも、傷ついても、負けても、這ってでも、先が見えなくても、回り道でも、進んでさえいれば……それがおれの”海賊王”への道なんだ。

おれが間違った方へ進もうとしてたら、そっとアドバイスしてくれる仲間がいる。



もうおれ一人の目標じゃねェ……”海賊王”におれはなる!!!



〜Side ゾロ〜



タクミがおれに剣術を教えなかった理由は、青キジとの戦闘を見て解った。

アイツの剣は、柔の剣……”鷹の目”と同じ……柔の剣。

踊るように戦うアイツを見て、素直に敵わねェと感じた。


それでもアイツが最後にとった戦術は、今までの舞をすべて無視した疾の剣。

己の身を犠牲にしてまで勝利を掴み取ろうとした飽くなき執念。

だが、その根底にあるのは仲間を守る意志と生への渇望。


プライドなんかを優先してる今のおれには、決して辿りつけない境地にタクミはいる。

認めるんだ、絶望的な差を。

受け入れちまえば、目指す頂が見えてくる。

おれはタクミに勝ちてェわけじゃねェんだ。

自分で言ったんじゃねェか、『目的を見失うな』

おれは”くいな”との約束を果たすために海に出たんだ。



隣の山を見上げる必要は無ェ……”大剣豪”……おれは必ず辿りついてみせる。



〜Side ナミ〜



タクミだって負ける。

何でそんな簡単な事に気がつかなかったんだろう。

タクミから相当の深手を負わされてたハズの青キジは、そんな状態でルフィ、ゾロ、サンジ君を圧倒した。

何も出来ない自分が本当に悔しかった。


航海士のわたしが怪我する事を恐れているのか、タクミはわたしを前線に配置しようとしない。

守られてばかりはイヤだから、わたしも鍛えてるのに。

自分ばっかり傷ついて、コッチが心配してるのにヘラヘラ笑ってる。


航海が進むほど、敵が強くなってる事はわかってるけど、もう言う事なんか聞いてやらない!!

武器の強化はウソップにお願いしたし、いざとなったら地味に鍛え続けたこの拳で戦ってみせるわ!!



”世界地図”を作ろうとしてる航海士が、ただの航海士なわけないじゃない!!



〜Side ウソップ〜



エボニー&アイボリー……おれがタクミに頼まれて作った、一対の装飾二丁拳銃。

おれを兵器開発の道にのめり込ませた始まりの兵器。

大雑把なタクミの原案から、よくもまあアレだけイロイロと作ってこれたと自分でも思う。


タクミはおれのせいで左手を失ったんだから、せめて義手はおれが作ろうと思ってたんだが、専門家に任せるって言われちまった。

それなら粉々になっちまったアイボリーを作り直そうかと思ったんだが、それだけじゃ足りないよな。


イロイロな兵器を作ってきて、今ならもう作れそうな気がする。

ビームライフル!!……じゃなくて、オートマチック拳銃。

タクミの求める連射能力についていけるモノが出来るか解らねェから、取り敢えずはアイボリーだけをオートマチック化してみよう。



”勇敢なる海の戦士”の武器には似合わねェが、”フルオート18連射”コイツをタクミに贈る事に決めた。



〜Side サンジ〜



おれがタクミ並に動けていれば、大将を仕留められたハズ。

アイツはおれの技を見て明らかに動揺してたんだ。


小手先の技を磨いて強くなった気でいたけど、おれは一味で一番弱いんじゃねェかと思う。

おれはゾロみてェに咄嗟に動けなかった。

ルフィやチョッパーの成長を考えると、タクミの指導を受けたメンバーに勝てる気がしないし、ウソップは今や別人みてェに強くなってやがる。

ナミさんは普段滅多に戦わねェけど、タクミの鉄みてェに固くなる体技をこの間突破してたからな。


タクミはおれとゾロを同等だって言ってたけど、ありゃおれを調子にのせて全力出させる為の言葉だったんだ。

……強くならなきゃいけねェ。

形振り構ってられねェよな。

もうタクミに頭下げてでも、おれは足掻かなきゃいけねェんだ。



”オールブルー”は、オーナー・ゼフとタクミの夢でもあるんだから。



〜Side ビビ〜



タクミさんが言ってた基礎体力の重要さが、今回の事でよく解った。

あんなスピードでの戦闘じゃ、わたしの能力なんて何の役にもたたない。


ゾロはアレから一心不乱に修行に明け暮れてる。

傍で邪魔なんかしない。

わたしは彼の隣で戦いたいんだから

いつかアラバスタに帰った時、わたしは胸を張って彼の隣を歩くんだ。


……あら? わたし海賊になったのよね……

彼も海賊よね…………



二人の未来の為!!! そして執拗に追われるロビンさんの為!!! わたしは”世界政府壊滅”を心に誓うわ!!!



〜Side チョッパー〜



三人が助かったのは本当に奇跡だった。

ウソップだってかなり危ない状態だったし、おれはこの先の航海に不安を感じる。

ナミに……やっぱタクミに頼んで、医学書をもっと揃えなきゃダメだ。

ドクトリーヌに教わった医学が全部じゃねェからな。


それにもっと研究を進めれば、ランブルボールであの状態に……アレは最終手段だな。

「生命帰還」を極める方が今は先決。

鼻の色も「生命帰還」で変えられるかな……コレはイイか。

仲間がいるから、おれはもう誰にバケモノって言われても構わないんだ。


でも、おれみたいな先天的な体の異常を持ってバケモノって言われてるヤツらは治してやりてェな。

ソイツらはきっと、昔のおれみたいに一人ぼっちだから。



”万能薬”……治す病気がまた増えたな。



〜Side ロビン〜



タクミが目を覚まして、ロングリングロングランドを出航して三日目の夜。

私たちは”水の都”ウォーターセブンに到着した。

換金所がしまっていたから、今日は街で食事をしただけで、本格的な滞在は明日からの予定。

でも、明日街を散策するこの一味には……私は居ない。


今回の一件で、改めて身に染みた……私はこの一味に居ちゃいけない。


航海士さんと雨女さんが寝静まったのを確認して、私は静かに部屋を出た。

メリー号は岬に停泊させているから、今日は誰も見張りに出ては居ないハズ。

男部屋を覗いて見たら、みんなぐっすり眠ってるみたいね。

最近、昼間はそれぞれ忙しそうにしてるから当然かも。


私はこっそり部屋に入って、彼の枕元に手紙を忍ばせた。

この三日間、何度も書き直した手紙。

コレで離れ離れになるんだと思うと、体が震える。

もう会えないのかと思うと、涙が零れる。


彼を起こさないように、そっとその頬に触れて……私は、最初で最後のキスをした。


「(さようなら、タクミ…………っ!!)」


……手紙には書けたのに、自分の口から言いたかった最後の一言は、結局言えなかった。


入って来た時と同じ様に、私は足音を殺して部屋を出て、振り返らずに船を降りる。


涙は止まった……私はもう泣いちゃいけない。

きっと彼は心配するから。

私の背中には、”銀髪の獅子とジプシーの踊り子”が描かれてる。

長鼻くんにムリを言って、一気に彫り終えて貰ったこの刺青。

例え離れていても、もう会えなくても、私と彼は繋がってる。


宿なんかに泊まったら足がつくから、どこかの路地裏で一夜を過ごそうと街を歩いていたら……


「(CP9です)」


不意に掛けられた無常の声……私の夢は、ココで終わりなのかもしれない。
 
 
 

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