小説『百獣の王』
作者:羽毛蛇()

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”ロビンからの手紙”



「なんでだよ!!! 俺が守るって言ったじゃねぇか!!!……勝手すぎるよ」


手紙を握り締めて喚く俺を、一味の皆は黙って見守っている。

そんな視線が今は本当に煩わしくて、俺はもう一度、手紙に目を落とした。



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タクミへ



ごめんなさい。

アナタがこの手紙を読んでいる時、私はもうこの船にはいません。

もしかしたら、この島にももういないかもしれないわ。


突然こんな手紙を読まされて、アナタは驚いているかしら。

こんな未来を見ていたとしても、アナタは悪い夢だって笑い飛ばしていたでしょうね。



アナタと過ごした日々は、ずっと闇の中を歩いてきた私にとって、眩しいくらいに輝いていたわ。

アナタは、オハラを出てから、私の夢を応援してくれた初めての人。


アナタの傍で、

私は初めて心から笑った。

私は初めて人前で泣いた。

私は初めて愛された。

私は初めて恋をした。


思えばアナタからは貰ってばかりだったわね。

私の為に、銀の鬣を靡かせて戦うアナタが、どれだけ心の支えになったかしら。

それなのに、私はアナタに何かを与えるどころか、奪ってしまった。


私にも、輝く未来が訪れたかもしれない。

ひと時だけでも、そう思わせてくれて、本当にありがとう。


でも、私は帰らなくちゃいけない。

元の世界に。


コレ以上一緒にいると、私はアナタの全てを奪ってしまうわ。

今の私には、アナタが全部だから。



こんな事を書いたら皆に悪いわね。

本当は一人ひとりに書きたかったんだけど、アナタへの想いを整理するのに時間が掛かりすぎてしまったの。

皆には謝っておいてね。


アナタにも本当は謝らなくちゃいけない事が怪我以外にあるんだけれど、それだけはどうしても書けませんでした。

でも、コレだけは解っていてほしいの。


面と向かっては一度も言えなかったけれど、私はアナタを、心から愛しています。

遠く離れていても、私はアナタの夢をずっと応援しています。

この広い海に知れ渡るように、アナタの活躍を聞かせてください。


私はそれを支えに、何処かで懸命に生きてみようと思います。


さようなら、タクミ、私の心は永遠にアナタのモノです。



                     愛を込めて、ニコ・ロビン



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出て行った具体的な理由は何も書いていないが、CP9に連れて行かれたにしては不自然すぎる。

クザンとの戦いで俺が左手を失ったのが、ロビンの決断を早めたんだろう。

原作でも元からこの街で船を降りるつもりだったって描写が……そうじゃねぇだろ!!!!

曖昧になったそんなモノに頼って、俺が胡坐をかいていたから、こんな事になったんじゃねぇか!!!!

この三日間、ロビンは殆ど俺の傍にいただろうが!!!!

笑顔にムリはなかったか!!!?

不自然な行動や言動はなかったか!!!?


「……っ!!! 何で俺は気づいてやれなかったんだ!!!」


……ロビンが本気で俺たちから離れるつもりなら、おそらくCP9に見つかる事すらないハズだ。

…………最悪のパターンじゃねぇか。


「思い返してみりゃ……確か空島で、『もうすぐ壊れる関係』がどうとか独り言を言ってたんだよな」

「な!!!? ロビンが言ったのか!!!? 何でその時、俺に言わなかったんだ!!!?」


「いや……あの時のお前は、とてもじゃねェが、人の相談に乗れるような状態じゃなかったし、こうなるとは誰も予想出来なかっただろ!!?」


ゾロは俺の剣幕にうろたえているが、八つ当たりなのは自分でも解ってる。

…………どうしようもないんだ。


「タクミ…………コレ」


膝をついて途方にくれていた俺に、ウソップが一枚の絵を渡してきた。


「ライオンと、ジプシーの踊り子? 何だよコレ?」

「ロビンが背中にいれたタトゥーのデザイン画だ。空島にいた頃からいれ始めて、昨日完成したんだよ……お前と『何時も一緒にいたいから』いれたいんだって言ってたな」


「!!!?……そうか」


ゾロの言う通り、ロビンは空島にいた頃から、一味を抜ける事を考えていたんだな。

一味に、俺に迷惑を掛けないように。


「……俺は……大バカ野朗だ」

「確かにお前は大バカ野朗だな」


「……何だよ」


今まで黙っていたくせに、呆れたように呟くサンジの声に、俺は思わず拳に力が入ってしまった。


「『探さないで下さい』だなんてベタなセリフが書いてるわけでもねェのに、何時までお前はココでウジウジしてやがんだよ?」

「ロビンは世界政府から20年間も逃げ続けてきたんだぞ!!? 俺たちが今さら探したって簡単に見つかるわけがない。まずは行動を推理したり「あーッ!!!! うるせェ!!!!」……何が言いたい」


ロビンの事を何も解ってないくせに、闇雲に探せと言ってくるサンジにさすがに我慢の限界がきた。

俺たちはお互いの煙草が触れ合うくらいの距離で睨みあう。


「イイか? 早起きのてめェが読むハズの手紙に、ロビンちゃんが『この島にもういないかも』なんて書いたのは、お前を迷わせて時間を稼ぐ為だ。下手に動くよりも何処かで身を隠して、おれ達が滞在期間としてる一週間、イヤ、慎重なロビンちゃんの事だから二、三週間は動かねェハズなんだよ」


…………言われてみればそんな気がしてきた。

ロビンはまた海賊船にでも忍び込むつもりだろうと思ってたが、こんな早くから出航する海賊団なんかあるわけないよな。

でも……


「ロビンがそんなあからさまに俺を騙そうとしたりするわけないだろ!!!」


それをゾロじゃなくてサンジに指摘されたのが何となく腹立たしかったんだ。


「お前なァ、おれより10年も長く生きてきて……はァ、タクミ、一つ覚えとけよ……”女の嘘”はな、許すのが男だ」

「っ!!!?」


この野朗、どっかで聞いた様なセリフを語りやがって……


「わかったよ……認める……で、許すよ。でも出て行った事は許さないから、ムリヤリでも連れ戻す」

「それでイイんだよ」


剣呑な雰囲気が解かれて、船番に残るゾロとビビ、ついでにカルー以外は、ロビンの捜索に出る事になった。


「そういえば!!!? こんな早朝から動き出す海賊船はいないだろうけど、電車の始発はもう出ていて、ロビンはソレに乗って行ったなんてことは!!!?」

「電車? 海列車の事を言ってんのか? それなら心配ねェだろ。始発は7時だ」


……????


「ココのブルー駅(ステーション)から伸びていた線路は、島を回ったが一本だけ、おそらくシフト駅(ステーション)の先で分岐してんだろうな。シフト駅(ステーション)の時刻表じゃ始発は”7:40”、あの時擦れ違った海列車のスピードを考えりゃ、この島を出るのはキリよく7時って考えるのが妥当だ」


時刻表を見たわけでもないのに何で断定出来るのかと思っていたら、勝手に説明してくれたんだが……


「シフト駅(ステーション)の時刻表を覚えてたのか!!? チラッと見ただけだろ!!!?」


俺の言葉で、サンジの発言の異常さに気づいたのか、ナミ達もサンジに注目している。


「あ? そういや言ってなかったか。おれは一度見たモノは忘れないんだ。忘れられないって言う方が正しいのか? 記憶を圧縮して保存するから、思い出すのに多少時間が掛かる事はあっても、忘れる事はまず無いな」

「完全記憶能力ってヤツか」


皆は感心したような様子でサンジに声を掛けているけど……ウソップが開発チート、ナミが豪腕、ビビなんか自然系だ。

麦わらの一味は全員好きだったし、まだ顕著になってないだけで、アイツら以外のメンバーもどこかしら強化されてるとは思っていたが……


「何て無駄な能力なんだ……海賊ならもっと戦闘向きな力に目覚めろよ」

「何だと!!!? メチャクチャ便利なんだぞ!!!? ローグタウンで見かけた美女の顔だって、今でもハッキリと思い出せるし、アラバスタで少しだけ見えたナミさんのはだっぶがらばろばァ!!!……」

「なーーーーー!!!? サンジ!!!? 大丈夫か!!!?」

「見えてたんならお金払いなさいよ!!!……黄金……遅延損害金を含めてアンタの取り分の半分はわたしのだから」


……サンジは飛んで逝った。

ルフィが慌てて様子を見に行ったが、あの音からしてしばらくは動けんだろ。

ウソップとチョッパーなんか震えて声も出ていない。

……考えるのはよそう、今はロビン捜索が先決だ。


「ロビンの捜索は鼻が利く俺とチョッパーで行ってくるから、ナミはルフィとウソップと……生きてるならサンジも連れて、換金に行ってきてくれ」

「そうね。いくら人数が居たところで、本気で隠れてるロビンを見つけられるのはアンタ達だけでしょうし。それじゃあ皆!! キリキリ運ぶのよ!!」

「Yes,Your Imperial Majesty!!!」


跪いて拳を胸に当ててナミからの勅命を受けるウソップ……ってナミは何時の間に女帝になったんだ。


「ロ、ロロロロロロビンを探しに行かなきゃ!!!?」


全力の”脚力強化(ウォークポイント)”で駆け出すチョッパーを見て、俺はイロイロと不安になったんだが……


「……ロビン優先だったな」


俺は取りあえずチョッパーを追いかける事にした。


…………何でこんなに緊迫感がなくなったんだ??
 
 
 

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