小説『百獣の王』
作者:羽毛蛇()

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”キリンジャー”



「クソっ!!! 見失った!!!」


動揺していて人獣形態にならずに追いかけたせいか、あの男を見失ってしまった。

普段の姿でもギア2(セカンド)のルフィ以外には負けないと思っていたんだが、どういう身体能力をしてやがるんだ!!?

やっと見つけたロビンへの手がかりだったっていうのに……ん?


「アイツ鼻が長くなかったか?」


……!!!? カクか!!!?

という事はロビンは結局CP9に捕まったって事だよな……寧ろ好都合なんじゃないか?

コレでロビンの行き先がハッキリしたんだ。


……それなら、カクはさっき、メリー号の査定に向かってる最中だったって事か?

俺を振り切る為にあのスピードを出してたわけじゃなくて、俺に気づいてすらいなかったって事だよな。

アレはいくらなんでも異常なスピードだろ!!? カクも強化されてるのか!!?

……キリンジャーになる前に仕留めるべきだな。


俺は急いでメリー号へと向かった。



〜Side カク〜



「この船はもう駄目じゃな。例えムリに修理したとして、次の島にも辿り着けんじゃろ」

「本当か!!? そりゃ……」

「昨日まで航海してきた船なのよ!!?」


ワシの言葉を聞いて、船員の二人は驚きが隠せんみたいじゃな。


「ワシャ本職じゃ、嘘は言わん」


この船が麦わらの一味の船っちゅうことはようわかっとるが、船の査定は真面目にやった。

ようこんな状態でココまで航海してきたと関心するほどの損傷じゃったわい。


「ほいじゃあワシはこの査定結果を伝えに戻る。後の事は船長を交えて話をするんじゃな」

「ああ、わかっ「待てよ!!! 逃がさねぇぞ!! CP9のNo.2……四刀流のカク!!!」四刀流!!!? CP9ってのは何モンだ!!?」


ちッ!!! 予言者か!!! 長官から注意するように言われとったが、思ったより早い遭遇じゃのぉ。

ワシをNo.2と呼ぶって事は、自覚はしとったがジャブラのアホを超えてしもうたって事まで、コイツは”視てる”んじゃな……厄介な相手じゃ。


「CP9? 何の事じゃ? ワシはタダの船大工じゃぞ?」

「しらばっくれても無駄だ。ロビンを攫ったのがお前らだって事は解ってるんだよ。同じ「六式」使いのよしみだ、素直にロビンの居場所を吐くんなら、達磨にするだけで勘弁してやる」


んー、逃げられそうにもないのぉ。ワシがいくら否定しようがコイツは決め付けてかかってるようじゃし……こうなったら。


「達磨!!!? 何でワシがそんな目に合わなければいかんのじゃ!!!? そこの剣士さん!!! 仲間ならこの男を止めてくれ!!! そうせんとワシも手を出す事になってしまうぞ!!?」

「耳貸すなよ、ゾロ」

「わかってる。悪ィがタクミがお前を敵だと断定した以上、お前は一味の敵だ。堅気の人間が、『達磨』の意味を知ってんのも不自然だしな。四刀流ってのがどの程度のモンなのか興味があるし、止めるどころかおれが相手をしてやるよ」

「タクミさんの言う事は絶対なんだから!!!」


指揮系統に一切の歪み無しか……ついさっきまで、ワシをタダの船大工だと信じて疑わなかった二人がこの様子、副船長に全幅の信頼がおかれとるようじゃな。

……それなら……


「ワシはガレーラカンパニーの戦う船大工。逃げるのは不本意なんじゃが、3対1はちとキツイ。船長に話をつけるしかなさそうじゃの」


ココは引くべきじゃな。この男、戦闘能力もなかなかのモノじゃと聞いとる。俄かには信じがたいが、大将”青雉”の評価ではルッチと互角。

やりあうにしてもルッチと合流してからじゃ。


「スピードに自信アリって感じだが、逃げ切れるとでも思ってんのか?」

「な!!!?」


なんじゃこの男!!!? こんな一瞬で形態変化出来る動物系なんぞ、見たことないわい!!!

しかも、体型からして「生命帰還」を併用しての人獣化、脚だけが肥大しているのは、いつでも全力でスタートが切れるようにじゃろう。こんな芸当ルッチにだって出来やせん!!!

……じゃが、「剃」のスピードなら、ワシはCP9最速じゃ!!

膝を深く曲げてスタート体勢は整えとるようじゃが、あの状態じゃ「剃」は使えん。

「生命帰還」は十全に使えても、「六式」は極めておらんようじゃな。


「ワシは生まれてこのかた、脚で負けた事は一度も無い。追いかけっこの始まりじゃ」


「六式」を人前で使うのは政府の人間じゃと言うてるようなモンじゃが、この男の前ではそうも言ってられん。

ワシは全力の「剃」でこの場からの離脱を計った。


「がはあっ!!!?……なんでじゃ」


瞬き程の間に50mは距離を取ったと思っておったのに、ワシの背中には五本の指が深く食い込んじょった。


「知りたいか?「月剃(ルナソル)」、「剃」と「月歩」の、「剃刀」とはまた違った応用技だ。原理は自分で考えな。直線軌道にしか使えんが、瞬間最高速度はお前の「剃」より上だったみたいだな」


……「月剃(ルナソル)」おそらく「月歩」に使う瞬間的な脚力を、「剃」に応用したんじゃろう。

背中を貫いた五本の指はジャブラの技と同じ理屈じゃな。

こりゃあ致命傷じゃ……この男を侮ったのがワシの敗因じゃな。

覚悟を決めるか、ワシに出来る事はもう多くない。


「ワシに手を出した以上、職人連中が黙っちゃおらんぞ」

「抜かせ!!! その職人の中にCP9最強が紛れ込んでんだろうが!!!」


「……CP9なんぞ知らん」

「……強情なヤツだな」


ワシが最後に聞いたのは、感情の篭っておらん冷たい声じゃった。



〜Side ウソップ〜



「ンマーー!! カクのヤツ遅いな。船の査定にどれだけ時間をかけてるんだ?」


この街の市長、アイスバーグのおっさんはそう言うが……


「おいおいアイツが飛び出して行ってまだ20分くらいだぜ? そんなに早く戻ってくるわけねェだろ」

「ンマー!! ヤツのスピードを侮ってるな? 裏町の先の岬程度なら、カクは2分もアレば着いてるハズだ」

「すっげェーーーー!!! タクミより速いんじゃねェか!!? よしっ!! 決めた!! おれはアイツを仲間にするぞ!!!」


カクってヤツの身体能力を聞いてルフィは大興奮みてェだけど、キャラが被るから、アイツの勧誘は正直やめて欲しい。


「アンタねェ、こんな立派な造船会社の職長が、好き好んで海賊なんかになるわけないでしょうが」

「知るか!! おれはもうアイツを仲間にするって決めたんだ!!!」


ルフィの決意は固いみてェだな……諦めるしかねェか。

チョッパーの時みてェに強引に勧誘するつもりだろうな。アイツはもう逃げられねェ……ご愁傷様って感じだ。


「ンマー!! アイツが海賊になりたいって言えば好きにしていいぞ……ん、戻って来たみたいだな」


そう言って空を見上げたおっさんの視線の先には、キャラ被り男が真っ直ぐに飛んで……飛んで……ってはァ!!?


「おいっ!!? アイツ、コッチに突っ込んでくるぞ!!?」

「”鼻”だけじゃなくて”ツッこみ”まで被るなんて……ドンマイ」

「うるせェ!!! ツッこみ違いじゃボケェ!!!」

「ンマーー!!! 豪快な帰還だなァ!!!……カク!!!?」


墜落してきた角鼻はボロボロだった!!


「ソイツ生きてんのか!!?」

「嘘!!? 何で!!?」

「おい!! 確りしろ!!?」


騒ぎを聞きつけて他の職人達も次々に集まってくるが、ありゃどう見ても……


「喚くな、まだ殺しちゃいない」

「「タクミ!!?」」


……だよなァ、タクミがやったとしか思えねェ傷だもんな。


「……『殺してない』って事は、コレをやったのはお前なのか?」


おっさんは表情こそ平静を装っちゃいるが、声質がさっきまでとまるで違う。

やべェぞこりゃ、どういうつもりなんだよ!!?


「あの男、”麦わらの一味”副船長の”銀獅子のタクミ”、別名”予言者”です」


あの秘書はホント無駄に優秀だな。こんな時に冷静すぎるだろ。


「ご紹介どうも、元CP9の父親を持つエリート構成員、カリファさん」

「!!!? 何の話!!!?」

「CP9だと!!!?……ホントの話なんだろうな!!? 銀獅子!!?」


?? 目に見えて動揺してやがるが、CP9ってのは何だ?


「アンタがアイスバーグさんか、冷静に聞いてくれ。ロブ・ルッチ、カク、カリファ、ついでに酒場のブルーノはCP9の構成員だ。狙いはプルトンの設計図……だろ?」


タクミは最後の確認はハトのヤツに視線を送った。

そう言えばルッチって名前だったな。


「やれやれ、長官から注意するようにと通達はあったが、ココまで詳細を言い当てられては言い逃れも出来んな」

「ルッチ!!? てめェ普通に喋れるんじゃねェか!!? それにあの男の話は否定しねェんだな!!? CP9ってのは何なんだ!!?」


ロープのヤツはすげェ剣幕でハトのヤツ、ルッチに詰め寄ってる。


「おいタクミ!!! コイツは敵だったのか!!? ちゃんと説明しろ!!!」

「ルフィ、コイツらは古代兵器プルトンを狙ってロビンを攫った連中だ。ついでにお前が仲間にしたがってるサイボーグ・フランキーもプルトンの設計図を持って「銀獅子!!!!」……言ったらマズかったのか?」

「喋りすぎだ!!!……今までのおれの苦労が……」


ルフィに説明をしていたタクミを遮るように叫んだおっさんは、頭を抱えている。


「……なるほど、コーギー氏がいくら圧力をかけても、アナタが設計図を移動させる気配がなかったのは、すでにフランキーに託していたからでしたか」

「悪いなアイスバーグさん、とっくにバレてるもんだと思っていたんだ。それに、正直プルトンなんてどうでもイイ。俺の要求は只一つ。ロビンを…………かえせ!!!!」

「うっ!!?」
「あ……」
「がぁ……」
「……」
「!!!? 何だこりゃ!!? どうなってやがる!!!?」


全力で人獣化したタクミの殺気に中てられたのか、大勢の職人達が気絶しちまった。アイスのおっさんまで気絶してるし……まあ初見じゃああなるわな。


「コレは驚いたな……ココまでの資質があるとは」

「驚いたって顔してないだろうが、で? ロビンを素直にかえすのか? コイツと交換だ」


タクミは角鼻の頭をグリグリと踏みつけながら、凄惨な笑みを浮かべて語りかけてやがる……仲間でよかったと心底思うな。


「その提案には承服しかねる……我々は正義の代行組織、弱卒はいらん。カリファ、こうなった以上は任務を前倒しするしかない。ブルーノと合流してフランキーを捕らえ、ニコ・ロビンと共に海列車へ向かえ」

「了解よ、貸切にしておくわ。でも、麦わらの一味はどうするの?」


秘書の言葉に、ルッチもタクミに負けず劣らずの笑みを浮かべてタクミを見据えた。


「おれが一人で相手をしよう。ニコ・ロビンとの協定により、コイツらを殺すわけにはいかんが……」


そう言ってルッチも人獣化……ってでけェ!!!?

何だありゃ!!!? 模様からして豹人間ってとこだろうが、タクミの倍はあるぞ!!!?

ルッチはその豪腕でガレーラの入り口を叩き壊して封鎖しちまった!!!


「正体が知れてしまった以上、ココの職人は皆殺しだ。一人も逃がさん」


ルッチの言葉を聞いて職人連中はパニックになってやがるが、タクミは狂ったみてェに笑い出した。


「ハハッ!!! ハーハッハッハッハッ!!!…………なめんじゃねぇぞ!!!」


角鼻を蹴り飛ばしてから、タクミは戦闘態勢に入ったけど、あの体であんなバケモノとまともにやり合えるのか!!?


「タクミ!!! お前片手が無いんだぞ!!? おれが戦うから「ルフィ、ロビンの為なんだ……任せてくれ」……危なくなったらかわるからな」


タクミを止めようとしたルフィも、ロビンの名前を出されたら強くは出れねェみたいだ。

クソッ!! こんな事なら能殺弾(スキルブレッド)の追加を先にすりゃよかった!!!


「タクミ!!! ロビンを取り返してもお前がズタボロじゃ悲しませるだけなんだからな!!!」

「わかってるよウソップ……ありがとう」


タクミは一瞬だけ優しい表情に戻っておれに返事をすると、爪を伸ばしておれの視界から消えた。


ルッチの姿も消え、辺りに響くのは金属音。


時折地面を濡らす血飛沫が、タクミのモノじゃねェ事を願いながら、おれは別次元の戦いを見守った。
 
 


 
〜おまけ〜



「……はっ!!? おれは何でこんな所で寝てたんだ!!?」


「お、起きたのかサンジ……頭大丈夫か?」

「あァん!!? いきなり失礼な野朗だなコラ!!? お前と違って頭の出来は……ってその積み上げられたトランクは何だ?」


「ああ、コレは空島の黄金を換金した金だ」

「はァ!!!? それ全部か!!!? 一つ1億ベリーとしても、軽く50億はあるんじゃねェのか!!!?」


「確かナミが言うには、83億ベリーだったか、それよりも」

「それよりもじゃねェだろ!!!? コレ以上にとんでもねェ話がっ!!!?……」

「サンジさん五月蝿いのよ!!! ロビンさんが政府に連れ去られたって時にまったく!!! (ゾロとの二人っきりも邪魔して!!!)」


「……((不憫なヤツだな。これからはもっと優しくしてやろう))」



〜Fin〜
 
 
 

-103-
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