”バケモノ”
〜Side ゾロ〜
「ナミさん!!!? 何ソレ!!!?」
おれとビビがメリー号で待機していると、血まみれのウソップと背の高いおっさんを担いだナミが船に飛び乗ってきて、二人を甲板に横たえた。
ウソップの怪我にも驚いたが、男二人を担いで船に飛び乗るとは……コイツも段々常識外れになってきやがったな。
「見れば解るでしょ!!? 怪我してんのよ!!! チョッパーは何処?」
「トニー君なら、ロビンさんを探しに出たままよ」
慌てた様子のナミの問いにビビが答えると、ナミは急いで船室に走っていった。
応急処置だけでもするつもりだろうが、コレは、ソレでどうにかなるような怪我なのか?
戻って来たナミに事情を訊いてみても、興奮しているのかイマイチ要領を得ねェ……ウソップはCP9との戦闘で負傷したんだろうけど、ルフィとタクミはまだ戦ってんのか?
あの男がNo.2の組織なら、タクミならすぐに制圧できそうなもんだが、ロビンの居所を聞き出すのに手こずってんだろうな。
おれに出来る事は特にねェし、周囲を警戒しつつルフィ達の帰りを待つってのが定石か。
ナミが消毒液やら傷薬なんかを傷口にぶっかけて、ビビが能力で強引に増血剤を呑ませたりしていると、今度はタクミを背負ったルフィ……
「って二人とも血まみれかよ!!!?」
「ゾロ!!! チョッパーを呼んでくれ!!! タクミがヤベェんだ!!!」
腹から血を流しながら、タクミを降ろしたルフィは言ってくるが、チョッパーはいねェからな。
「ナミにも言ったが、チョッパーは戻って来てねェ。応急処置だけでもやるからお前はソコに寝てろ」
「おれは肉食えば治るからイイんだ!!! タクミをなんとかしねェと!!!」
……??? 何をそんなに慌ててやがるんだ?
ロビンを万が一この街で奪還できねェでも、連れ去られる先は解ってるってタクミは予言してたし、そこまで慌てる必要はねェだろ?
第一ウソップがあの状態じゃ、直ぐには出航出来そうもねェしな。
「タクミは血も止まってるし、傷も浅ェみてェだぞ? 今にも起き上がってロビンを取り返しに行きそうじゃねェか」
「な!!? んなわけあるかァァアア!!!! ガフッ!!!?」
「ウソップさん!!? 起きて早々にツッこまないで!!!」
「……ウソップも大丈夫みてェだな」
「スゲェ!!! ウソップは心臓を指で貫かれたし、タクミは海楼石使われて、腕が腹を貫通したんだぞ!!?」
ルフィは未だに血を滴らせながら興奮気味に話している。
「あのな、心臓は左胸の中心よりだ……自分から見てだぞ?」
「おれから見てってことだろ? 怪我してんじゃねェか!!」
そう言ってルフィはウソップの右胸を指差している……コイツはアホだ。
「まあイイ。タクミは「生命帰還」の達人だから、無意識にソレで止血したんだろ。傷も殆ど塞がってんじゃねェか」
「やっぱタクミはすげェな!!! おれも肉喰ってくるよ。サンジ!!! サンジー!!! アレ??」
ルフィは元気に船室に走って行った……アイツも大概バケモノだ。
「ビビ、さっきの増血剤をタクミにも呑ませとけ」
ルフィの口ぶりから、止まるまでにかなりの血が流れたと判断しておれは言ったんだが、
「タクミは多分大丈夫よ。信じられないけど出た血が身体に戻っていったから」
「はァ!!?」
「体に異物が入ると「生命帰還」に影響が出るってタクミさんが言ってたし、わたしも、そのままにしておくのが一番だと思うわ」
実際一緒に居たナミはその光景を見たんだろうし、タクミの弟子のビビが言うんなら治療も不要なんだろう。
「……お前には敵わねェな」
静かに眠るタクミは何も答えなかった。
〜Side チョッパー〜
「おれ、帰ってイイのかなぁ?」
タクミが戻ってくる気配もないし、何か街全体が騒がしい雰囲気が気になって、おれは一人で街を彷徨い歩いていた。
てっきりタクミが迎えに来てくれると思ってたのに、ロビンに夢中でおれの事は忘れちゃったのかなぁ?
ちょっと寂しくなりながら人ゴミの中を歩いてたら、嗅ぎ慣れた花の匂いを感じて、おれは鼻を上げた。
「タクミの匂い? のわりには薫りが強いけど……もしかしてロビンが近くにいるのか!!?」
ロビンを見つけたらタクミが褒めてくれるかな? きっと喜ぶだろうな!!
ロビンの匂いは、人を避けるみたいに、建物の間ばかりを通ってココから離れて行ってたから、おれは急いでその後を追いかけた。
結構な距離を走って、駅の近くの通りに出る裏路地で、ようやく匂いに追いついたんだけど……
「ロビン?? ソイツら誰だ??」
「チョッパー!!!? どうしてココに!!!?」
ロビンは仮面をつけた二人組と一緒だった。
酒の匂いがする大男(?)とインクの匂いがするビビみたいな女(?)何だけど、何か嫌な予感がする。
おれの動物としての勘が、逃げろって言ってるんだ。
でも、ようやく見つけたんだ。このまま引き下がったりなんかしねェ。
「そんなのおれが聞きたいよ!!! 何で居なくなったりするんだよ!!! タクミが心配してるぞ!!!」
「っ!!?…………そう」
ロビンはタクミの名前を聞いて、唇を噛んで顔を伏せちまった。
「ロビンはタクミと一緒に居たいんじゃないのか!? おれが二人の邪魔するか「違う!!!」……ロビン??」
珍しく大声を出したロビンに驚いて、おれは言いたい事が全部は言えなかった。
「そうじゃないのよ。チョッパーは何も悪くないから、彼の所に戻りなさい」
「イヤだ!!! ロビンと一緒じゃないなら帰らねェ!!!」
「……急がないとルッチが激怒するから、早めに切り上げてね」
ロビンは辛そうに下を向いて、何かを決意したみたいにおれを見つめてきた。
「帰る気に「チョッパー」……何だ?「ごめんなさい」!!!? な……んで??」
ロビンがおれの近くに投げた何かは、おれの背中に咲いたロビンの手にキャッチされて、そのままおれに突き刺された。
あんまり痛くないけど、体の力が抜けてく……おれの作った痺れ薬??
「確か半日で動ける様になるのよね。何かに使えると思って持ち出しててよかったわ……タクミが迎えに来てくれるハズだから、そこでイイコにしててちょうだい……さようなら」
「ロビ……行か……ないで……」
ロビンはおれに背中を向けて、そのまま二人と歩いて行った。
何で? 何で? 何でロビンはこんな事するんだよ!!? おれの事が嫌いになったのか!!?
考えても答えなんか出ないのは解ってたけど、誰も通らない裏路地に倒れてるおれには、それくらいしか出来なかった。
…………どれくらい時間がたったんだろ? 何も考えられなくなってきた頃になって、誰かの声が聞こえた。
「お前さん、麦わらの一味の船医じゃな? こんな所で何をやっとるんじゃ?」
現れたのは帽子を被った男と、鼻の長い男……コイツ!!!? タクミが追いかけていったヤツだ!!!
血の……匂い……一人分じゃない……コレ、タクミのなのか??
「タクミに、何した?……ロビンに、何した?」
「獣だから解るんじゃな? お前さんは知る権利がある。選ぶ権利がある。話してやるわい」
「趣味が悪いぞカク。おれは先に行く」
帽子の男が去っていくと、カクって呼ばれたヤツがゆっくりと話し出した。
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「……お前ら……クズだ」
全部聞いた。ロビンが攫われた理由も、抵抗しない理由も、おれを止めようとした理由も、コイツらが皆を傷つけた事も。
「ワシらが命を獲りゃせんと思って強気じゃな。ワシらは命令で動いちょる。ソレで気がすむんなら精々罵倒でもするんじゃな」
カクは話してる間はおれを観察してるみたいだったけど、今はもうおれに興味が無いみたいで、ロビンが消えた方向に歩いて行こうとする。
「……待て……待てよ!!!!」
「こりゃ驚いた!? 神経毒でも盛られとったんじゃないのか?」
「生命帰還」で毒を口に集めて吐き出しただけだ。
まだまだタクミには程遠いけど、おれは本番に強いタイプなのかな。
「タクミが動けないんなら、おれがロビンを助ける!!! おれはタクミの一番弟子なんだ!!!」
「そりゃ期待できそうじゃ。適当に遊んでやるわい」
コイツ!!!? どこまでおれ達をバカにしてるんだ!!!?
「本気でこい!!!! ロビンを犠牲にして助かりたいって思うヤツなんか、おれ達の仲間にはいねェんだ!!! そんな協定知るか!!! おれは勝手にロビンを助ける!!!」
「自ら協定の対象外となると宣言するんじゃな?」
ロビンは優しいんだ!!! あの船で一番優しいんだ!!! この海で一番優しいんだ!!!
「ロビンは優しすぎるんだ!!! おれは守られるような男じゃない!!! 仲間の為に戦うバケモノだ!!!」
「悪魔の実を食べた動物はあまり聞かんからのう……研究施設に連行じゃ」
カポネよりスゲェ威圧感だ……脚が、手が……震える。
でも、おれは戦うんだ。
あの時ロビンが……泣いてたから。
タクミ……バケモノは強いんだよな。
「お前なんか怖くねェ!!! ロビンをかえせェェェええええ!!!!!」
〜Side タクミ〜
「ん……ココは!!!?……あのキリン野朗!!!!」
腹部に痛みを感じながら目を覚ますと、そこはメリー号の甲板だった。
瞬時に倒れる前の記憶が蘇り、俺はカクを完膚なきまでに叩きのめす事を誓った。
「ハンパには殺らん!!! 徹底的に絶望を味あわせて、あの場で生き残った事を心底後悔するような……ってロビンは!!!? 海列車はもう出たのか!!!?」
カクなんかどうでもイイという事に気づいた俺は、近くにいたナミの脚を掴んで現状を訊ねた。
「ッ!!!? 痛いのよこの馬鹿力!!!「がっ!!!?」海列車はもう出た後よ。メリーの船足じゃ追いつけないらしいから、アイスバーグさんがもう一台の海列車を急いで整備してくれてるわ」
何事もなかったかのように説明をするなと言いたい……頭割れる……馬鹿力はお前だ。
それより、『メリーの船足じゃ追いつけない』って……ゾロのヤツ、カクから聞いた事を話してないんだな。
何かイロイロ不安はあるが、取りあえずこの問題は保留にしておこう。
「そうか。出発は何時なんだ?」
「もうすぐ整備にかかるって言われてた時間が過ぎる頃だから、そろそろ列車に向かおうと思ってるんだけど……」
痛み(頭の方が痛い)を堪えて訊ねたんだが、妙に歯切れが悪いな。
「どうかしたのか?」
「サンジ君とチョッパーがいないのよ。サンジ君は誰も気づかないうちに居なくなってるし、チョッパーはタクミと出てから戻ってないらしいわ」
やば、チョッパー置いて来たままだったよ。ロビンを探して、未だに見当違いのとこをウロウロしてる可能性が高いな。
「サンジは多分倒れてる間に事情を聞いて、一人で海列車に潜入してるハズだ。アイツの”騎士道”はホンモノのハズだからな。おそらくブルーステーションにメッセージか何かを残してるハズだから俺が見てくるよ」
「『ハズ』が多くて不安が残るけど、タクミが言うならそうなんでしょうね……全くムチャするわ」
俺の推測にナミは呆れた様子だが、その表情はどこか嬉しそうだ。
……サンジもついに認めてもらえたのか?
「チョッパーも俺が探して連れて行くから、ナミ達は先にロケットマンに向かってくれ」
「ロケットマン?」
あー、またやってしまった。もうどうにでもなれ。
「もう一台の海列車の名前だよ。試作段階で致命的な欠陥が見つかって実用化されなかった車両だってさっき”視た”んだよ」
「……出来ればその情報は知りたくなかったわね。因みにその欠陥「知りたいか?」……ヤメておくわ」
ナミは軽く憂鬱になってるみたいだが、ロビンを助けに行く為にはアレに乗るしかないからな。
「じゃあ俺は行ってくる、因みにロケットマンの格納庫は何処だ?」
「ゴミ処理場裏の赤レンガ倉庫、そこの地下格納庫が集合場所よ」
……よく解らんが、誰かに案内させればイイだろう。
今日はアクアラグナの発生日と被ってるわけでもないんだし、街中に人は溢れてるんだ。
「了解。ゾロから目を離すなよ!!!」
俺はナミに、ファンタジスタの使用上の注意をしてから、「剃刀」でブルーステーションへと向かう。
途中で適当にチョッパーも探してみたんだが、この人ゴミじゃあ見つけるのは難しそうだな。
エニエスロビーに連れて行ったら、チョッパーには暴走の危険性があるし、このままおいて行ったほうが得策かもしれない。
わたあめ食べてる50ベリーの手配書は、宴会の時にでも撮られたんだろうし、クマドリも俺が倒してしまえば問題ないハズだ。
考え事をしてる間にブルーステーションに着いた俺は、サンジが何処かにメッセージを……って解り易いなオイ!!!
人目もあるハズなのに、駅の壁に、ペンキで大きく矢印が書かれていて、その下に手紙がポツンと置かれていた。隣に小電伝虫も置いてある。
ナミかビビ以外は読むなと、矢印と共に赤いペンキで書かれたメッセージが気味悪いのか、そこには誰も近づこうとしていないのだが、俺はソレらを拾い上げ、小電伝虫をジャケットにしまい、手紙の内容を確認する。
「やっぱロビンを見つけて乗り込んだんだな。褒めてやっても……はぁ!!!?」
ついでとばかりに書き足された一文を見て、俺は驚きを隠せなかった。
『『”チョッパー”と”リーゼントのでっかいチンピラ”も同じ列車に乗せられているのを確認した』』
何でチョッパーが!!? 人間じゃないから協定の範囲外とでも言いたいのか!!!?
「……取り返す仲間が増えたな」
怒りを隠せず人獣化した俺は、悲鳴が上がる構内から、赤レンガ倉庫へと向かった。