小説『百獣の王』
作者:羽毛蛇()

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”命令”



〜Side カリファ〜



「−−−−それでね……ってどうしたの? さっきのチョッパーってコの事が気がかり?」


わたしとロビンは、エニエスロビーへと向う海列車の座席で、向かい合わせに座っている。

『ニコ・ロビンの監視役として同じ車両に乗るわ』ってルッチに言ったら許可が出たから、エニエスロビーまでお喋りしようと思ってたのだけど、彼女はずっと上の空だわ。


「チョッパーはきっと大丈夫。船に戻らなかったらタクミが探しに行くハズだから」


話を聞くに、銀獅子とロビンは恋人同士で、彼に迷惑を掛けない様にと船を降りた矢先に、長官の指示で街を張っていたわたしが声をかけたみたいなのよね……気まずいわ。

それにしても『夜の街を張れ』だなんて、長官の読みはどうなってるのかしら? 大将青雉から情報を仕入れたらしいけど、きっと適当な情報しか貰ってないハズよね。


「それより、アナタはCP9なんだし、青キジにあった事あるでしょ? 彼は実際はどんな人かしら?」


何かさっきから、ロビンは適当に質問して、わたしに答えさせてばかりな気がするけど……まぁイイわ。


「そうね、取りあえずセクハラね」

「セクハラ!!?」


今までは適当な反応しかしなかったのに、やけに食いついてきたわね。


「大将は昔はよく長官の所に遊びに(仕事サボって)きてたから、何度か直接お会いしたけど、『喋るのもメンドクサイ』って言ってたもの。お茶を頼まれたから出したら、『ソファーに転がったまま飲みたい』ってストローを要求してくるし、渡したら渡したで『熱ッ!!!? 溶けちゃうじゃない、冷ましてくれ』って……氷結人間なんだから当たり前でしょ!!? って思わない!? 最初ッから冷たいのを頼みなさいよ!!!……って感じの人だったわね。直ぐにディナーに誘ってきたりするし、顔がっていうか存在がセクハラで、長官と違って全く尊敬できないわ」


大将がいかにセクハラな存在なのかを説明してあげたのに、彼女の反応は薄い……どうして??


「ディナーの件は、かなり大袈裟に考えればセクハラかもしれないけど……他はどこら辺がセクハラになるのか理解できないわ。適当に生きてる人はセクハラって事?」

「……解ってないわね。されている側がセクハラだと捉えれば、それは全てセクハラになるのよ。女性だけが行使できる最強の権利だからアナタも使うとイイわ」


コレは、男ばかりの職場に入るにあたって父様が教えてくださった理論武装。

ガレーラカンパニーでもかなり役に立ったわ。


「…………覚えておくわ」


彼女の顔が微妙に引きつってる気がするんだけど、気のせいよね。



〜Side ビビ〜



「ヒィッ!!!?」


海列車の格納庫に現れたタクミさんを見て、わたしは思わず悲鳴を漏らしてしまった……それに、ちょっとだけチ…………何でもないわ。


「……よかったらその格好はやめてくれる? 列車に乗れないと思うし……制御出来てるの?」


わたしは震えそうになるのを必死に堪えて訊いてみたわ。

だってタクミさんは仲間だし、悲鳴を上げてから言うのもなんだけど、姿を見て震えるのは流石に失礼よね。

たとえ身長が4mくらいあっても、首が太すぎて肩と一体化してても、二の腕がわたしのウエストより遥かに太くても、爪がサーベルにしか見えなくても…………タクミさんはタクミさんだもの。


「仲間を襲わないくらいの思考は当然残ってるが……確かにコレじゃ乗れないな」


そう言ってタクミさんは人間に戻っていった……さっきのアレは最早人間とは言えない姿よね。

木の幹くらいある脚が、元の太さに戻っていくと、後ろにいかにも悪ガキって感じの二人の子供がいるのが見えたわ。


「タクミさん……も、もうイイですか??」

「そろそろ帰らないとかあちゃんに怒られるんですけど……」


子供達は怯えきってる様子だけど、何かあったのかしら?


「ああ、案内ご苦労さん。カツアゲなんかしてないで、これからは親孝行しろよ」

「「すいませんでしたァ!!!」」


タクミさんにお金を握らされて、子供達は90度のお辞儀をして走り去って行った。


「あのコ達、さっきの状態のタクミさんにカツアゲしたの!!!?」

「道を訊ねたら定規と縦笛を突きつけて金を要求してきたんだ」


無謀にも程があるわね。タクミさんは、元から2m近い高身長に100kg超えの体格だけど、さっきの状態のタクミさんにカツアゲをするのなんてゾロでも無理よ。


「イラッときて一瞬暴れようかと思ったんだが、体力のムダだからな。この怒りの全てはエニエスロビーで解き放つ事にした」

「そ、そう……ところでトニー君は? 物資の搬入はもう終わって、何時でも出発できる状態なんだけ……ど……」


また巨大化したァァ!!?……もうヤダこの人……


「チョッパーも攫われたんだよ」

「何ですって!!!?」


それならこの怒りようも納得だわ。嫁連行&息子誘拐のダブルパンチだもの。


「きっとチョッパーは匂いを辿って単独でロビンを見つけて、CP9に返り討ちにあったんだろう……躁舵手ビビ!!!」

「はいッ!!!」


何時に無く真剣なタクミさんの声に、わたしも直立で声を張って答える。

指示はコレまで何度も受けてきたけど、何時も丁寧な言葉でお願いとか提案って感じの言い方だった。

コレから発せられるタクミさんの言葉は、きっと初めての命令だ。


「全力で暴れろ!!! その力で全てを呑み込め!!! 世界政府という巨大な戦艦を転覆させろ!!!」


願ってもない言葉だわ……リミッターはいらないのね。


「了解!!! 副船長!!!」

「……期待してる」


再度人間に戻ってから、大きな手でわたしの頭を撫でて、タクミさんは海列車に乗り込んでいった……


「やるわよーー!!! 世界政府に宣戦布告よ!!!」

「うるせェ、さっさと乗れドアホ」


ゾロに引き摺られてわたしも海列車に乗ろうとしてたら、変な格好の集団が格納庫に乗り込んできた。


「待ってくれ!!! 頼む!!! おれ達も「事情は解ってる。フランキーを助けたいんだろ?」!!? アンタが銀獅子か!!?」


代表の男の言葉を遮って、酒瓶を持って現れたタクミさんは値踏みするような視線を男達に向ける。


「俺とビビが全力を出す以上、お前達を巻き込む可能性がある。それでもついてくる覚悟はあるか?」

「構わねェ!!! おれ達にとってアニキは恩人だ!!!」


一息にお酒を飲み干したタクミさんは、ニヤリと笑って男達を見た。


「迷いはなさそうだな……良いファミリーだ。キングブルがいるんだろ? 直ぐに出発するから勝手について来い」

「恩にきる!!!!」


……結局あの人達は何だったのかしら?


「悪いなルフィ、勝手に決めた」

「別にイイよ。アイツらも大切なモノを取り返しに行きてェんだろ?」


ルフィさんに事後承諾を取ったタクミさんは、石炭を入れてある車両をジッと見つめている。


「どうやら、大切な言葉を伝えに行きたいヤツらもいるみたいだな」

「??? 何のことだ??」


ルフィさんの質問には答えずに、タクミさんは海列車に戻って行って、中で最終チェックをしてるアイスバーグさんに話しかける。


「ココロさんがまだ街に来てない以上、アンタが操縦してくれるんだろ?」

「ンマー!! おれはともかく、何故ココロさんが操縦出来るって知ってるんだ!!?」


……会話の意味が解らなくなってきたわ。


「どうでもイイだろ、そんなこと。それよりアンタの所の職長達が屋根の無い貨物車両に忍び込んでるみたいだから、線路を捉えるまでに中に入るように言ったほうがイイ」

「な!!?………………「見つかった!!!?」ンマー!!! ホントに居やがった!!!?「すいません!!! どうしてもアイツらに『首だ!!!』って伝えたくて」……『職長達』って言ってたし、他にも居るのか!!?」


アイスバーグさんが確認してみると、さっきタクミさんが見ていた車両の布の下から、ゴーグルをつけた男の人が出てきた。

アイスバーグさんはそのまま他の車両を確認しに行ったけど、


「今のタクミの超感覚は異常だな。全部視えてんじゃねェのか?」


ゾロの言う通り、今回のタクミさんはイロイロと本気ね。


「この一味には人外しかいないじゃない」

「おれを一緒にすんな!!!!」


ゾロをからかってから、ようやくわたしも海列車に乗り込む。


世界政府に喧嘩を売りに行くっていうのに、不思議と不安は無い。


「3000人くらい倒したら、ゾロからご褒美ちょうだいね♪」

「勝手に決めるな!!!」


ロビンさん、トニー君、必ず助けるわ……目指せ5000人撃破!!!



 
  
〜おまけ〜



「何だアイツ? 竹馬にでも乗ってんのか?」

「どうしたホイケル……ありゃ只のアホだな。仮装って言ったってあんなバカデカイきぐるみ持ち出してくるなんて、アホとしか言いようがねェ」


「マイケル、アイツコッチにくるぞ?」

「ちょうどイイじゃねェか。アイツからお菓子代でも奪おうぜ!!」


「そりゃイイ考えだな!! あんなきぐるみ足元狙えば一発だ!!」

「よーし、武器を用意しとけよ」


「シッシッシ!! 今日はお菓子パーティーだぜ!!」


……僅か10秒後、おれ達は絶望した。



〜Fin〜
 
 
 

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