小説『百獣の王』
作者:羽毛蛇()

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”Tボーン大佐”



〜Side Tボーン〜



私が”突き”、男が”蹴り”、互いにソレだけでの攻防、私の突きは悉く男の蹴りで弾かれ、男も私の手数の前に攻めあぐねていた。

大技を放とうにも、こうも接近されては、サイズモアの質量に頼った比較的軽い突きしか放てない。

引き戻しに緩急をつけて一撃を入れたものの場所が悪く、コチラも頭を揺らされてしまった。

エニエスロビーへと向かう海列車の中、私とその男は膠着状態に陥り、互いを睨み合うしかなかった。

私達しかいないこの車両の惨状を一般人が見れば、バケモノか何かが争った後だと思うことだろう。

壁は私の斬撃で斬り崩され、床は男の震脚で踏み抜かれ、座席は僅かな残骸しか残っていない。


「強いな、貴様。ソレ程までに足技に特化した使い手を、私は他に知らない」


先程の最後の攻防、私はヤツの右肩を一突きし、ヤツは私の顎を真下から蹴り抜いた。

一流剣士以外の敵に久々に一撃を貰った私は、稀に見る強敵に忌憚なき賞賛を送った。

”三刀流”という奇怪な剛剣使いと、CP9と同等に「嵐脚」を使いこなす小太刀使い。

私が己の敵として見据えていたのはこの二人だけだったのだが、この男も中々侮れん。

急な任務だった故に、『剣士以外の情報は不要』、とCP9長官からは情報提供を受けなかったのだが、失敗だったかもしれんな。

最初にこの男と相対した時は、部下を傷つけられた怒りと共に、軽い落胆を感じてしまったのだが、今では、正式な決闘として一からやり直せないかと考えてしまうほどだ。


「アンタもかなりのモンだぜ? おれもココまで真っ直ぐな戦い方をする剣士は知らねェな。まあまあってとこだ」


男はニヤリと笑ってそう語るが、私と共に正義を証明してきた愛剣、”サイズモア”の一突きをその身に受けてまだ強がるとは、大した度胸だ。


「当然だ。私は曲がった太刀筋が大嫌いでな……ココからは全力を出そう。貴様も力の全てを出しているわけでもなかろう。サンジと言ったな……全力でこい!!!」


私の言葉を受けて、男は一瞬驚いた表情を見せたが、再び不敵な笑みを浮かべた。


「この技は取っておきたかったんだけどな……出し惜しみして勝てる相手でもなさそうだ」


新しい煙草に火をつけると、男は左脚を軸に高速回転を始める……どういうつもりだ??

ふざけているようには思えないが、意図が全く解らん。


「”悪魔風脚(ディアブルジャンブ)”!!!」

「な!!!? 摩擦熱で自らの脚に高熱を纏ったというのか!!!?」


男の右脚は高熱で赤黒く輝き、脚、或いは靴が焦げる匂いなのか、コチラまで異臭が漂ってきている。


「ゾンビは炎に弱いと相場が決まってんだよ」


表情を見るに、やはりあの技は術者本人にも相当な負担が掛かるようだ。


「だからといって、正気の沙汰ではないぞ!!? だいたい私の何処がゾンビだと「目(ウイユ)!! 鼻()!! 頬(ジュー)!! 口(ブーシュ)!! 歯(ダン)!! 顎(マントン)!!」ぐあァァァ!!!? 熱い!!? 顔がァァアア!!?」

「顔、全部だよ」


油断した!!!? 謂れのない罵倒に反応し、常識外れの技を前にして驚いている隙に、顔面への六連撃とはやってくれる!!!

私の基本にして奥義と言っても差し支えない高速連突、”爆骨(バックボーン)”は、発動前に脱力が必要な技だ。

脱力すれば脱力するほど、初手は神速の突きとなり、次へと繋がるのだが、今の状態では先程までの様に上手く放てるとは思えん。

……使うしかないのか……


「見事だ……私をココまで追い詰めるとは」

「まだ意識があんのかよ!!!? ホンモノのゾンビより性質が悪ィな」


呆れたような声を出す男の脚は未だに怪しく輝いて……いかん……目が霞んできおった。


「次の一撃に、私の正義の全てをかけよう……いざ!!!」

「まだこの技を解除するわけにはいかねェみてェだな」


私は構える、この戦いで初めて取る突き以外の構えを。


「曲がった太刀筋大嫌い!!!」

「あの距離で構え?? まりもみてェな遠距離技か!!!? クソッ!!!」


私の攻撃に感づいた男は、距離を取るのではなく、コチラに突っ込んできた。

狭い列車内ではイイ判断だが……


「直角飛鳥……”ボーン”」


この斬撃は……


「……”大鳥(オオドリー)”!!!!」


曲がる!!!!


真っ直ぐに男に向かって飛んだ斬撃を、ヤツは紙一重で避けたが、そこから直角に、男が避けた方向へと斬撃は曲がる。

私の信条に反するので、あまり多用する事はない技なのだが、ソレ故に、騙まし討ちにはもってこいの技。

……私はこの技を使った直後、何時も敵に黙祷を捧げる。

特殊な能力者でもない限り、この一撃で沈まぬ者などいないからだ。

黙祷が騙まし討ちへの言い訳だと言われればソレまでだ……軽蔑するがイイ。


ココでこの男を取り逃がせば、罪人が解き放たれてしまう。

そのせいで民間人の被害が出たら、私はソレこそ耐えられない。

海賊達が蔓延るこの世界にも、確かな正義は存在するのだと、ソレを示す事が出来るのならば、私の信条など曲げてしまえばイイ。


目を開き……倒れた男を一瞥する……先程まで真正面から戦っていた相手が倒れる様に、幾許かの虚しさを感じる。


「……許せ……」


部下が傷つく事に涙し、敵が斃れる事に涙し、争い耐えぬこの世に涙し、私の戦いに終わりはあるのだろうか?

……考えたところで答えなど出はしない。

一度は背を向けて元の車両に戻ろうかと考えたが、賞金がかかってるわけでもないこの男の首まで晒す必要はない。

同じ海に生きた好敵手として、せめて水葬くらいはしてやろうかと振り返ると、そこに男の姿は無かった……


「”粗砕(コンカッセ)”!!!!」

「ガハッ!!!?……何故!!?」


凄まじい蹴りを全くの無警戒の状態で決められ、大佐に昇進して以来、着いた事のなかった右膝を、私は床に打ちつける。

背後から放たれた灼熱の蹴りは、”サイズモア”ごと私の背骨をへし折った様だ。


「渾身の直線斬撃なら、おれはおそらく避け切れなかっただろうな。それに、”直角飛鳥”の意味に気づくのが少しでも遅れてたら危なかった。Tボーン……最後に自分の正義を曲げたお前の負けだ」


……言いたい事はあったが、もう声も出せない。


こんな所で終わるのか……私の正義は……間違っていたのだろうか……
 
 
 

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